魔生物と魔物-6
土台にあるボタンを押し、数秒が経った。すると、この地下室に入ったときとは逆方向の壁が少しずつ音を立てながら横へと収納されるようにズレ始め、アオイが言っていた通りに少しの通路とその先にもう一つ新しい部屋へと続く扉が現れた。
突然の事にマシルは驚いて新たに出来た通路に視線が釘付けになっていたが、イヴは違う方向に視線を向け、驚いた表情を浮かべていた。
「ユウキ君これは…」
「ユウキさん、何故この部屋を!」
「この地下室に隠されていたもう一つの部屋だよ。アオイが教えてくれた」
「あ、アオイ?…それは一体誰ですか?」
「別にあんたがアオイについて知る必要は無いが、一つだけ教えるとしたらあいつは昔からこの島の事を、この家の実態を見てきた人物だということだ」
「む、昔から見てきてる…」
ユウキの言葉にイヴは一体それがどこの誰なのかを想像し、思考を繰り返すがその存在はユウキとその周りに居るごく一部の人間しか知らないため見当が付くはずが無かった。しかし、思考を繰り返すイヴを前に今度はユウキが質問を口にした。
「次はこっちの質問に答えろ。お前の反応をみるにこの部屋の存在を知っていた上で俺らに内緒にしていたな?その理由はなんだ」
「それは……」
「まさか、それもこの地下室と同じでヴィーブル家の人間以外に知られてはならないとか言わないよな?今の状況じゃこの先にある部屋にしか使用人達もお前の家族も避難できないはずだ。部屋を隠す理由がヴィーブル家の人間以外に知られてはならないって理由はもうなんの意味もないぞ」
「それについては私から説明をしよう。だから、どうかイヴを責めないでくれないか」
いつの間に現れたのかユウキの背後からヴィーブル家の元領主であり、イヴの父親でもあるシアンの声が聞こえた。突然の事にユウキは驚きつつも地を蹴り横に移動し、背後から現れたシアンに警戒心を持つ。
「落ち着いてくれ。私だ」
「…シアン。一つ質問だ」
「なにかな?」
「この先にある部屋にこの屋敷にいた使用人やイズ達も居るのか?」
「もちろん、皆この先にいるよ」
シアンの返答にユウキは短く返しながらもさらに質問を続けた。
「さっき、説明をするって言っていたな」
「あぁ、説明はさせて貰うよ。ただ、ここじゃなんだし奥の部屋で話すとしよう。その方が納得もしやすい」
「……納得?まぁ、いい。とりあえず時間も限られている上に外で待機しているリンも心配だからな」
「じゃあ、行こうか」
シアンを先頭に奥の部屋へと足を進める。奥の部屋まではそんなに距離はなく、すぐに扉の前へと辿りついた。そして、シアンが扉の取っ手を掴み回しながら押し込むように力を込めると、扉はゆっくりと開いていった。
部屋はうっすら暗いせいかかなり近づかなければ誰が誰だか分からない状況だった。しかし、部屋に入ってから気になっていることはいくつかある。その内の一つが部屋の中に充満する鉄が錆びたような臭いだ。
ユウキとマシルはこの部屋に入った時点で少なからず嫌悪感を抱いていた。そんな中、聞き慣れた声が部屋の中に響く。
「お父様?外は一体どうでし……ってユウキさん、マシルさん!それにイヴ姉様!ご無事で良かったです!」
「イズ!あなたも無事でよかったわ!」
「……イヴ姉様もご無事でなりよりです」
「イヴ、貴方も無事のようで良かったです」
「…イア、お母様」
視界もかなり制限される中、ユウキ達の姿に気づいたイズが飛び込むように二人に近づき、そう言葉を交わすと、イアとセシリアも続くようにイズと言葉を交わす。そんな中、後ろに待機していた使用人達も顔は見えなくとも安堵の表情を浮かべ、言葉を交わしているのが分かる。
だが、それもつかの間。ユウキは横にいるシアンに再度説明を乞うた。そして、この部屋に充満する悪臭に近い臭いについても言及をするとシアンは通路を照らす灯りの火を部屋の四隅にある蝋燭へと火を移し、部屋の照度を上げた。
部屋の照度が上がると同時に部屋の中に配置されている家具らしき物がいくつか目に入る。木製の作業台に錆びれたシンク、さらに天井には何かを吊すためだけに設置されたいくつものかなり大きめなフック。さらに壁には鋭利な刃物を立てかけるための壁収納があった。そして、床にはこの部屋で何をしていたのか想像もしたくないほどのこびり付いた血痕の数々があった。しかし、それは床だけでなく壁にもこの部屋に配置されている家具の至るところに血痕が付着していた。
この部屋の現状を初めて目にしたのか使用人達も目を丸くさせて、部屋を物色する。
「……おい、ここは一体何をしていた部屋だ?」
「ここはかつて……亜人を、いや亜人だけでなく罪人を拷問する部屋でもあり、秘密裏に処刑していたところでもあるんだ」
シアンは重苦しい雰囲気を出しながらゆっくりとこの部屋に関しての説明を始める。シアンが発した亜人という言葉にこの家に仕える亜人の使用人たちがどよめきだす。だが、それは彼らだけでなくマシルもユウキも表情を暗くさせる。
「この部屋が作られた理由は元は亜人を助けるための避難場所だったんだ」
「避難場所?」
「あぁ、しかもこの部屋の存在を知っていたのはブレスタ時代の王と貴族の中でもかなり上に座してこの部屋を管理していた私達ヴィーブル家の者だけだった。この部屋の事は誰にも知られてはいけないと王と私達の家系だけの秘密の場所だった。しかし、ある時この部屋の存在がある一人の人間に知られ、避難場所として使われていたこの部屋は拷問部屋へと変わった」
「ある者?」
「その人物は私達ヴィーブル家と同じ貴族の一人であり、同格の発言権を持っていたんだ。そして、亜人の存在に意義を唱えた一家でもある。名前は……ヴァーミリオン家」
その言葉を聞いた瞬間、ユウキとマシルはある人物を頭に浮かべていた。
「ヴァーミリオン家は聞いたことないが、騎士団の一つにその名が入った騎士団がある。そこの団長は片手剣とダガーといった刀身の長さが違う武器を両手に持って戦う珍しい戦法を持つ奴だ。確か名前は……」
「ホムラ、だよねユウキ君」
マシルの問いかけにユウキは静かに首肯した。
4月からは不定期になります。
更新の際はTwitterでお知らせいたします。
これからも『ワールド・オブ・ザ・デスゲーム』をよろしくお願い致します。




