魔生物と魔物-2
「タイガ君大丈夫かな」
タイガと別れ、ターコイズ村を出た頃マシルはボソリとそう溢した。だが、マシルが心配するのも無理はなかった。怪我が治ったとはいえそれはつい最近の事だ。それまではほぼ診療所のベッドで休養を取っていた上、外に出たところで武器を持つことすら許してもらえなかったのだ。そのような状況下でさらに身体が鈍った状態なのだ。誰もがまともに戦えないんじゃないかと思うだろう。だが、マシルが心配するのはそれだけじゃなかった。
タイガにはこの島での戦闘経験がかなり少ない。というよりほぼ無いと言ってもおかしくない。ユウキとマシルはこの島に来てすでに一ヶ月近くが経とうとしている上、アスクリムゾン領まで走ったりと島の大体の場所は訪れていたおかげか、島に住む魔生物の生態や動き、習性などはかなり理解しているつもりだ。理解しているからこそユウキは今回の魔蹄羊への対応も出来たが、全く今回が初めて相対する魔物化した魔生物にタイガがまともに対応出来るのかということだ。
その答えはほぼ否だ。ユウキ自身も初めて魔物化した魔生物の攻撃を、動きを、そして鑑定でステータスを視た上で戦闘を行ったが、正直この島に存在する魔生物の強さはエイガルドに存在する魔物より強いと理解したのだ。ユウキ自身も一人で診療所に向かうと言い出したタイガには驚きと不安が募っていた。
「そういえば別れる時にタイガ君に魔石渡してたけど、なんか意味あるの?」
「ん?あぁ……まぁ、なんというかお守りみたいな物かな」
はぐらかすように返事をするユウキにマシルは首を少しだけ傾げながらそっかと短く返しイヴは何かを考えているかのように窓の外を見つめていた。
「それより屋敷に着いてからの話だが……イヴ?大丈夫か?」
「……へ?あ、はいっ!すみません大丈夫ですっ」
ユウキに名前を呼ばれたイヴは素っ頓狂な声を上げたあと、少しだけ頬を赤くし恥ずかしがる様に言葉を返すとユウキは言葉を続けた。
「まず街についてだが、あの街はターコイズ村と違って強硬な門と壁があるから外部に存在する魔物からの攻撃については空から出ない限りあまり難しく考えなくて大丈夫だと思う。だが―――」
「問題は街の中にいる魔生物ですよね」
「あぁ、何度かリンやイズに街を案内して貰ってどこにどの魔生物が存在していてどの店が魔生物を扱っているかはなんとなくだが把握しているつもりだ。だけど数までは把握しきれていない」
ユウキの言葉にイヴも同意なのか一度だけ首肯し、さらに言葉を続けようと口を開いた。
「そうですね。店舗はもちろん家庭でも魔生物を飼っている人達はいますし、何より街の中にも小型とは言え野生の鳥系魔生物が空から風に乗って街に入ってくることはありますし、それだけじゃなく地面や水路など野生の魔生物は沢山存在します」
「あぁ、だから街に着いたらまずは最初の目的通り屋敷に向かうが、道中で魔物化した魔生物に襲われている人がいたら俺が対処する」
「え?私は?」
「マシルは二人の護衛を頼むよ。それと朧には遠距離からの援護も欲しいしな」
「……なるほど。じゃあ、おいで朧」
ユウキの言葉に納得したのかマシルは頷きながらそう呟くと、マシルが掛けていた首飾りの魔石が輝き出し、小さな光の塊が魔石から飛び出てきた。そして、それは少しずつ大きく形を変え、最後にはマシルの膝の上に乗る程度の小さなすやすやと寝息を立てて眠る白い体毛に覆われた子狐が現れた。
「朧、起きた?」
朧と呼ばれた子狐は外に呼び起こされたことに気づいたのか眠たげに瞼を開き、主であるマシルの顔へと視線を向け、ユウキ、イヴとさらに向けた後、身体を伸ばしながら欠伸を溢した。そして、マシルの言葉に返事をする様に短く鳴くと馬車の内部をキョロキョロと見渡していた。
「とりあえずもうそろそろ着くだろうから着いたら俺はすぐに動けるように外に出る。マシルは朧に指示を出しながら、二人の護衛を頼んだ」
マシルは短く分かったと答えながら首肯した。イヴも同じように首肯し、それを確認したユウキは窓から顔を出し、御者を務めるリンにも同じように説明をするとリンは恐怖からか少しだけ声を上擦りながら「わかりました」と答えた。
☆★☆★☆
「ユウキさん見えました!……ってあれ?門が開いてる?」
リンの声に応えるかのようにユウキは窓から顔を出し、リンと同じように視線を門の方に向けると街を守る壁は無事なものの何故かリンの言うとおり街の入り口とも言える門扉は開かれていた。
「あれは……っ!?リンっなるべく急いでくれっ!!」
門扉が開かれている事の他に何かに気づいたのかユウキはリンにそう呼びかけるとリンは手綱を一度ロニーに叩きつけるように動かし、馬車の速度を速めた。
「ユウキ君どうかしたの?」
「あれ……見てくれ」
「…………っ!?」
突然馬車の速度が上がったことに疑問を持ったのかマシルが窓から外を覗くユウキにそう訊ねるとユウキはある場所を指で差しながら見るよう促した。マシルとイヴはユウキの指が示す場所である壁の上部に視線を集中させるとそこには信じがたいモノが存在していた。
「あ、あれは……っ」
「あんな大きいのどこに……」
「……多分魔物化の影響だと思う。見るからにあれ元は魔梟だろ」
「確かにこの島に生息する魔生物であれと同じ特徴を持つのは魔梟だけです」
壁の上に存在する梟型の魔生物もとい魔物化した魔梟に驚愕し、畏怖と恐怖を隠しきれない中、ユウキはなるべく近づいてから鑑定を行った。
種族:魔吸梟
使用可能属性:闇
【スキル】
闇魔法 Lv2
【アビリティ】
『吸魔』
自身と同属性の魔力を吸い取り、自分のモノとする
『透化』
身体を透化させることが出来る
『帳』
一定の範囲に存在する相手の視界を奪う
「……これはかなり面倒だぞ」
「何か分かったの?」
ユウキは鑑定の結果を二人に伝えると、イヴは口元を押さえながら顔色を悪くし、マシルは何かを考え込むかの様にんーと唸り始めた。ユウキもどうにか対抗が出来ないかと思考を繰り返すが、すぐには思いつくことも出来ず、馬車もユウキの指示のまま速度を緩めることなく、魔吸梟が待ち構える門扉へと着実に近づいていた。
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