領主会談-7
「あ、あれ?……皆さん、どうしたんですか?」
何の反応も示さないイヴたちに不安を覚えたのかリンはさらに不安げな表情でイヴの表情を読み取ろうとするが、それもすぐにイヴの暑い抱擁によって阻止された。リンもリンで何故いきなり抱きつかれたのか理解出来ず、狼狽えながらイヴの名前を何度も口にするがイヴもイヴでリンの無事を確認できて安心したのか安堵の声をあげた。
「あ、あのユウキさん。これってどういう状況なんですかね……?」
「あー……何というかお前が襲われちまったんじゃないかって探しに行こうとしていたんだ」
「……襲われる?一体誰に……」
ユウキの説明に訳が分からないと言った表情で聞き返すと、ユウキは言いづらそうにリンの隣で静かに佇むロニーを指差した。リンもユウキが差した方向へと視線を向けると、改めてさらに意味が分からないと言った表情をユウキに向けた。
「…………ロニー、ですか?」
「あぁ……、お前は聞かなかったか?」
「何をです?」
「動物の鳴き声と謎の轟音」
「あっ確かに聞こえました。その音が怖くて戻ってきたんです。ちょっと迷い掛けましたけど。……でも、それとロニーが私を襲うって何の関係が?」
「あれが聞こえた後にヴィーブルとアスクリムゾン両方の領から使いが来てな。いきなり魔生物が暴れ出したと言ってたんだ」
「暴れ出した……」
ユウキの説明になんとか理解が追いついたのか漸く納得した表情を浮かべると、未だに抱きついているイヴに改めて声を掛けた。
「リン、本当に無事で良かったわ」
「えっと、心配掛けてすみませんでしたイヴ様」
「いいのよ、あなたが無事なら」
「ちなみにお前は何してたんだ?」
「私はロニーと一緒にこの先にある湖までロニーの水分補給がてら散歩しに行ってました。領主会談って毎回一時間位は掛かるので、湖まで行ってロニーが満足して帰ってくる頃には大体終わるかなって感じなので。まぁ、今日に限っては謎の音が怖くてすぐに戻ってきたんですけどね」
リンはあははっ、と困った表情で愛想笑いを浮かべた。
「とにかくリンとロニーが無事なのは確認できた事だし、一先ずヴィーブルに戻ろう。まだ、魔生物が暴れているかも知れないしな」
タイガの言葉に思い出したようにはっと表情を引き締め、馬車に乗り込んだ。リンも急いでロニーを馬車に繋げると、全員が乗り込んだ事を確認すや否や馬車を走らせる。行きよりも速度を上げているのか少なからず車内に乗り込むユウキ達にも多少の揺れを感じるが、それすらもどうでもいいように少しでも早くヴィーブルに着くことを願った。しかし、それもすぐに叶わなくなった。
突然、いつも以上に速度を出して走っていた馬車の揺れが収まったのだ。速度が早かったからかもう着いたのかと思い、窓から顔を乗り出し確認しようとした瞬間、リンの叫び声とロニーの鳴き声が聞こえてきた。何事かとユウキ達は身を乗り出して確認すると、馬車の前には数匹の魔生物が今にも襲いかかろうと距離を詰めていた。
位置的にはすでにカズ達がいるターコイズ村が見えていたが、魔生物の存在がその距離をさらに遠のかせた。イヴもロニー達の目の前に立ちはだかる複数の魔生物の存在に気づき、声をあげた。
「あれは……魔羊ですか?いや、でも雰囲気が……ッ」
「魔蹄羊だ。しかも、五体全てが完全に魔物化してる」
「じゃあ、さっきの報せはやはり……ッ」
「あぁ、事実みたいだな。しかし、こいつは厄介だぞ」
「厄介、とは……?」
「あの蹄を見てみろ。領内で飼っていた魔羊は蹄が小さいが、魔蹄羊は蹄が大きさが倍になっている上に体内に所持してる魔力で硬度も上がってるからあの蹄で蹴られたら身体に穴が空くぞ。しかも、脚力も上がってるからロニーが最高速度で走ったところですぐに追いつかれる」
ユウキの説明にイヴやタイガ、さらにリンは表情をさらに引き締めるが、説明をしていたユウキとマシルは特に表情を変えることなく、目の前の魔蹄羊を見ていた。
「どうする、戦うか?」
「まぁ、それしか無いよな。逃げられないんだし」
ユウキはタイガの問いかけにそう答えると、片手直剣を片手に馬車を降りた。その様子を見ていたのか魔蹄羊たちも一層警戒するようにユウキの方へと視線を向け、敵意を表した。ユウキも馬車を降りるや否や馬車から少し離れ、車内で今にもユウキに続いて降りようとするタイガに声を掛けた。
「タイガ、悪いんだけどお前の能力で馬車の周りだけでいいから結界張っといてくれ。こいつらは俺が相手するから皆を守ってくれ」
「いや、でも……大丈夫、なのか?」
「時間は掛けないようにするさ」
「…………危なくなったらすぐに手を貸すからな」
タイガの言葉にユウキは片手で合図すると、馬車の周りに透明な壁が現れた。魔蹄羊たちも結界の存在に気づいたようで、一瞬馬車の方に視線を向ける。だが、その視線はすぐにユウキへと戻っていった。魔蹄羊の一瞬の隙を付いて魔蹄羊たちに向かってユウキが走り出したからだ。
すぐに臨戦態勢を取ろうと魔蹄羊たちも鳴き声を上げながら上空へと後方へと左右へとおのおのが下がるが、ユウキが一番最初に目をつけ剣を振るったのは後方へと下がった魔蹄羊だった。後方へと下がるのを確認するや自分の脚力も能力で上げ、地をいつも以上に強く蹴り、距離を離そうとする魔蹄羊に一瞬で距離を詰めた。
その様子に後方へと下がった魔蹄羊は先ほどとはさらに短い悲鳴にも似た鳴き声を上げるも、地に足が付く前にユウキが振るった片手直剣の刃が頭部へと届き地面に足からではなく、胴体から落ちた。そして、そのままその魔蹄羊は力尽きたが、すぐに左右に回避した三体の魔蹄羊たちがユウキへと襲いかかる。
しかし、ユウキもそれには気づいていたようで地面に足をつけた瞬間に今度は足先だけに力を入れ、地を蹴り後ろへと下がりながら左手で腰にホルスターから拳銃を抜き、黄色の魔力弾を前方に放った。
「『閃光』」
ユウキがそう言葉を漏らした瞬間、黄色の魔力弾は眩い光を放ち出した。
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