領主会談-6
「リン!無事ですか!?」
イヴは切迫した表情でリンが待つ場所へと駆け足で向かうと同時にマシルやタイガも思い出したようにリンの元へと向かった。しかし、馬車が駐まっている場所である広場から少しだけ離れた場所には馬車が駐められているだけで、馬車を牽くロニーや御者を担っていたリンの姿はどこにも無かった。
「リン……どこに行ってしまったの……」
その光景に一同は考えたく事が脳裏を過ぎった。それは報告であった魔生物の暴走と同じくロニーにも起きたのではないかということだった。もし、イヴ達の考えが正しいのであれば今すぐにリンを助けに行かなくてはならないが、如何せんどこに行ってしまったのかも見当が付かない。しかも、闇雲に走り回れば野生の暴走した魔生物と出会してしまうかもしれないという危険性もあった。
例え、魔生物と出会してもタイガやマシル、ユウキはいつも通りの武装をしているため別にどうと言う問題は無いが、イヴやリンは護身程度の投げ道具しか持っていないため、仮に魔生物から逃げられたとしても囲まれたり、投げ道具だけでは対処出来ない様な場面に出会してしまった時はどうしようも出来ないだろう。
まともな武装もしていないイヴはユウキの『闇扉』で屋敷まで帰してからリンの捜索に出た方がいいという考えもなくはない。だが、それをするには三つほど問題があった。
一つは屋敷に帰したところで屋敷が無事という保証は無い。何故なら街や村にはすでに飼っていた魔生物が謎の暴走で暴れ出しているのだ。屋敷を囲む塀はあるが、それを軽く超えて屋敷の中に入れる魔生物もこの島にはいる。それに加え、ヴィーブル領で戦える騎士やガーディアンはかなり少ない。戻ったところで絶対に安全な場所は無いのだ。
次に二つ目。これは確証は無いが、この場にまだアスクリムゾンの密偵がいる可能性があるというだ。アスクリムゾンにはユウキやマシル、さらにはタイガ達の存在はすでに今回の会談で知れ渡ってしまった事だ。彼らの存在は事情を知るイヴ達にとってはなんら脅威にも問題にもならないが、アスクリムゾンにとっては何が目的で何のためにこの島に来たのか何も知らないのだ。それはいわば彼らの存在に関しての情報は全くといっていいほど無いと言うことだ。
そんな得体の知れない存在をむやみに放置していい訳がない。そんな中、無闇矢鱈と魔法を使っている姿を見られてしまったらそれこそ何をされるか分からない。そんな危険があるのだ。
最後に三つ目。これに関してはユウキの用心深さが仇となった。ユウキはすでにイヴ達ヴィーブル家とリンには魔法が使えるということを話してはいるが、それだけだった。具体的にはどんな魔法が使えて、どんな効果があるとか一切何も話しておらず、何なら移動用としても使っている『闇扉』の事すらも話していなかったのだ。
必要以上に聞かれなかったというのもあったが、簡単に自分の手の内を見せるということに少なからず抵抗感がユウキの中で出来ていたのも事実だ。逆に今まで簡単に手の内を晒している方がおかしかったのだ。何故なら『闇扉』という魔法は戦闘だけでなく移動用にもそれなりに便利だ。普段の戦闘や自分の身体能力では行けないような場所には媒体となる銃で狙いを決め、その位置に放つ必要があるが、訪れた事のある場所や視界にある場所であれば銃を使わずともそこに空間を繋ぐ事は出来るのだ。しかも、『闇扉』という魔法は闇属性の適正を持っている者でも扱うのはかなり困難であり、使えてもまともに戦闘や移動に活かせる程の者はいなかったのだ。
そんな中、ユウキはまるで見せびらかすかの様に使用していたのだ。周りから見ればある意味『印の能力』と同等の物でもあったのだ。妬む者もいれば、それを私欲のために使おうとユウキにお願いする者も沢山いた。エイガルドにいる間、ユウキも何度もそういう目的で連れ回されることもあった。だからか、ユウキはエイガルドでは使いはするがそれは必要な時だけと決め、ブレスタに来てからも数回程度しか使っていなかった。
そういった理由や自分なりに学んだからというのもあり、アスクリムゾン領までザラマたちの事を調べに行ったユウキであれば今回集まった広場にも屋敷から簡単に繋げられはするもの、それをせず馬車で広場に向かったのだ。
まぁ、今となってはそれが仇となって簡単に使える物では無くなってしまい、どうするか迷っているのだが。
「とりあえず、俺とユウキでリンを探しに行く。マシルはイヴさんの護衛をお願いしてもいいか?」
頭を抱えるユウキを横目に現状を素早く判断し、的確に今最善であろう指示を出すと、理解した様にマシルはその指示に従うように無言で頷いた。しかし、イヴだけはその指示に反対のようでタイガに言い返した。
「そんな!私も一緒に探します!」
「探すにしたってイヴさんの格好じゃ仮に魔生物に出会しても何も出来ないだろう。それにミイラ取りになるのは避けたい」
タイガの言うことは正しかった。闇雲に皆で探したところで馬車のところに誰もいなければまた探す羽目になってしまう。それにもしかしたらリンが戻ってくる可能性もあるのだ。だったら、誰かしら人がいた方がいいだろう。それに関してはユウキとマシルも同意のようでイヴもタイガの言うことに渋々同意を示した。
「じゃあ、リンを見つけ次第ユウキは『閃光』を上空に一発頼む」
「分かった。……でも、お前はどうするんだ?」
「俺はこれを上空に打ち上げるよ」
タイガが出したのはビー玉程度のサイズで紙で巻かれた物だった。
「これは?」
「煙玉。刺激を与えると煙が上がるからそれを確認したら見つけたと思ってくれ」
そう言うタイガにユウキとマシルは理解した様に一度頷いた。そして、残された馬車を中心に両側に生い茂る木々の中へと向かおうとした時、馬車の後方。それも広場から見てヴィーブルの領地側からガサガサと草をかき分ける音が聞こえてきた。突然の音に一同は己の武器に手を伸ばし、いつでも抜けるように構える。
「あれ?皆さんお揃いでもう会談は終わったんですか?」
しかし、そこから顔を出したのは他ならぬユウキとタイガが探しに行こうとしていたリンとロニーだった。リンは皆の様子に理解が出来ていないようで首を傾げていた。
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