領主会談-5
「すみませんアスク殿。お待たせしてしまったでしょうか」
「いやいや、私達も今さっき到着したところだ。イヴ殿」
アスクと呼ばれた男は椅子から立ち上がり、まるで歓迎するかの様な優しい表情を浮かべながらそう返した。深紅色の短髪をセンターパートで分け、褐色の良い肌に凜々しい顔立ち。軽鎧を着込むザラマ以上に服装は軽装だが、服の上からでも分かる位には身体は鍛え抜かれており、腰には長さだけならタイガが所持する日本刀を超えるであろうサーベルに似た片刃の剣を装備していた。
「どうぞ、おかけになってくれ」
アスクの言葉にイヴは笑みで返しながら椅子に腰掛けると、一瞬の静寂が流れた。しかし、それを壊したのは未だに温厚さを醸し出すアスクだった。
「……それではお互いに揃ったことだし、今回も始めさせていただこうか。それじゃあイヴ殿、いきなりで悪いが、君たちの言い分を聞かせてはくれないだろうか」
「そうですね。まず、アスクリムゾン領領地内侵入については私達は何も言い返す事はありません」
「ほう。ということは認めると言うことでよろしいのだな」
「えぇ、侵入してしまったという事に関しては事実ですから。……ですが、そこに居るザラマ殿率いるレッドスター騎士団に対する報復的攻撃行為については攻撃行為はあったとしても報復的なことは無いです」
イヴの発言にレッドスター騎士団は動揺を浮かべ、多少のざわつきが生まれる。しかし、団長であるザラマとアスクは表情一つ変えることなく、視線をイヴに向けていた。
「それじゃあ、どのような意味があっての攻撃行為か教えてもらえるだろうか」
「彼らが行った攻撃行為は正当防衛によるものです」
「それはおかしな話だ。私が聞いた話では我が領地に足を踏み入れた亜人を含めるパーティーが偶然領地内を警備していた彼らに突然襲われたと。さらに、後から現れた男女の冒険者には気づく暇も無く意識を刈り取られたと言っていたが?」
「ちなみにそれはこの場に居る誰かから聞いた話でしょうか」
「その問いに答える必要は無いと思うが、まぁそうだ」
「そうですか。……しかし、一つだけ知っておいていただきたいのはあなた方の領地に侵入したパーティーはエイガルドから来たばっかりの冒険者だということです」
「それじゃあ、そのパーティーはこの島の事情を知らないとでも?」
「そうです。先ほども申し上げた様に彼らはこの島に来たばかり。それも島の東にある門から通ってきたのです。ですから、私達の領地間における関係や領地内の事情も何も知らないのです。まぁ、この島を訪れてきた理由を私は知りませんので、聞かなくては仮にもし彼らがあなた方を襲ったとしても理由が分かりませんからね」
「ふむ……、それでそのパーティーの一味は今ここにいるのかな?いるなら先に話を聞かせていただこうか」
アスクがそう言うと、イヴは一緒に連れてきたタイガに視線を向けると、タイガも漸く自分が連れてこられた理由を理解したのか一度ため息を吐いた後、一歩前に足を踏み出し口を開いた。
「どうも、エイガルドから来たタイガと申します」
「アスクリムゾン領主のアスクだ。それでタイガ殿、君たちは如何なる理由でこの島に訪れ、どのような理由で私の領民であり、部下である彼らを襲ったのかお聞かせ願えるだろうか」
「あぁ、まず先に言わせて貰うが、俺たちは敵意無く、理由無く人を襲うことはしない」
「その言い方だと彼らを襲ったことには理由があったと聞こえるが?」
「まず、襲ったって言うのも語弊がある。襲われたのはこちら側だ。あんたが誰からどのような説明を聞かされたのかは知らんが、襲われたのも仲間を失ったのもこちらだ。しかも、殺されたのは亜人じゃなくあんたらと同じ人間だ」
タイガは睨み付けるようにアスクとその斜め後ろに控えるザラマに視線を向けながらそう言い放った。その言葉にアスクは少なからず驚いた様に目を少しだけ見開くが、すぐにタイガの言っていることが正しいのかを問うようにザラマに視線を向けた。ザラマもアスクの視線に気づいたのか事実です、と面倒くさそうに答えた。
ザラマの返答にアスクは困ったように頭を抱えはするものの、その場でザラマに叱責を浴びせることはなく、ただただ目の前に立つタイガに頭を下げた。
「タイガ殿、私の部下がすまなかった。しかし、こちらの事情も知った上で許してくれ」
「事情って言うのは亜人が領内に入ってきた時は殺すって奴か?」
「あぁ、そうだ」
「俺にはあんたが亜人に何をされたのか、亜人に対して何故それほど恨みを抱えるのかは知らないが、こちらも何も知らずにそちらの領地に無断で足を踏み入れた訳だ。これはあんたが良ければなんだが、今回のことはお互いになかった事には出来ないか?それにユウキもそこに居るザラマに同じような事を言ったらしいしな」
「そうなのか?ザラマ」
再びアスクの問いにザラマは無言で頷くと、アスクはタイガの方へと向き直り再度頭を下げた。そして、タイガの申し出を受け入れると言いかけたその時、動物の物と思える鳴き声と同時に轟音が辺り一体に鳴り響いた。
「な、何だ!」
突然の事に一同は困惑した様子で辺りを確認するが、誰も何が起きたのか理解出来ていないのかお互いに顔を見合わせたりするだけだった。しかし、それから数分後。ある者がイヴとアスクの元へと現れた。それもただ現れるだけではなく切迫とした表情を浮かべてだ。
「大変ですイヴ様!」
「どうしたのです。何があったのですか?」
「そ、それが突然領地内に居た魔生物たちが暴れ、人を襲い始めたのです!」
イヴの元へと訪れてきた男は切迫とした表情でイヴにそう伝えると、イヴは訳が分からないといった表情でユウキ達へと視線を向ける。しかし、それはユウキたちも同じで何故いきなり魔生物と言われていた生物たちが暴れ始めたのか理由が分からなかった。
だが、それはイヴ達だけでなくアスク達アスクリムゾン側も同じようでアスクは緊迫した表情でザラマに指示を出していた。そして、ザラマに指示をし終えると、イヴの方へと視線を向け口を開いた。
「イヴ殿、申し訳ないが今回の会談はここまでの様だ。領地で何が起きたのか調べなくてはならない。私は先に失礼させて貰う。もし、何か原因が分かったら連絡を寄越そう。そちらもお願いして良いだろうか?」
「はい、私達も情報も調べる必要もあると思っていたのでその申し出はありがたいです。もちろん協力させていただきます」
イヴの言葉にアスクは満足した様に「では、また次の会談で」と言い残すとザラマたちとともに広場から去って行った。イヴもアスク同様に広場を去ろうと踵を返した瞬間、何かを思い出したのか血の気が引いた様な顔色を浮かべた。
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