領主会談-4
「皆さん、お乗りになりましたか?」
「えぇ、全員揃ってるわ」
「では、出発しますね。ロニーお願い」
リンの掛け声に応じるようにロニーは一度鳴き声をあげると、馬車を牽き始めた。一行が向かうのは領主会談が行われる場所である島の中央に位置する広場だった。馬車には領主であるイヴとユウキ、マシル、そしてタイガが乗車していた。本来であればユウキ達の他にイヴの護衛役としてヴィーブル領の騎士が着いてくるはずなのだが今回に限ってはその役はユウキとマシルが担当していた。
「んで、結局どうするんだ?」
「どうする、とは……?」
「この一週間、イズと色々と話し合ってただろ。結局どうするのかなって」
ユウキの言葉にイヴは表情を暗くさせるなり、億劫そうに口を開いた。
「あぁ、そういうことですか。それに関してはある程度は考えましたが、結局はアスクリムゾンの領主がどのような事をこちらに対して要求してくるかによりますよ。彼の事でしょう。大方、ザラマ率いるレッドスター騎士団に対して攻撃的行動を取ったユウキさんとマシルさんの身柄を要求してくるか、領地の一部を要求してくるかのどちらかでしょう」
「…………なるほどな」
「まぁ、どちらの要求にせよ応じる気はあまり無いのですけどね」
「別に俺たちの身柄なら気にしなくても良いんだけどな」
「ユウキ君少しは気にしてよ。私は嫌だよ」
ユウキのいい加減さにマシルは首を横に振りながらそう返すと、イヴとタイガも同意するように頭を縦に振った。
「そうだぞ、ユウキ。お前は良いかもしれないが、カズが知ったらどうするんだよ。また、面倒な事になるぞ」
「うっ、それは嫌だな。また、あいつと喧嘩するのは面倒くさい」
タイガの言葉にユウキは顰めっ面を浮かべながら悪態を吐いた。しかし、タイガもユウキの言うことに理解を持てるせいか苦笑いを浮かべるしかなかった。だが、それもそのはずだった。なぜならユウキはイズに呼び出された次の日から昨日までの間、カズに毎日のように戦いを挑まれていたのだ。しかも、カズに至ってはまだ怪我も完治しておらず立っているだけでもきついはずなのにだ。
何故、カズが突然戦いを挑んできたのかも理解出来ないが、それ以上にカズの容態が心配だったせいかユウキは怪我が治ったらと何度も断りを入れた。だが、カズはユウキの言葉を聞き入れず全身を包帯で包み、満足に剣も振れないにも関わらずユウキに向かって剣を振るった。当たるどころか擦る事も出来ずカズは剣を奪われ、半ば強引に病室に連れ戻されたが、それでも毎日ユウキの元へと足を運んだ。
最初の三日間はユウキも何でこんな奇行を行うのかカズに問いかけたが、カズは答えることもせずただ、ユウキに剣を振るった。奪われようが、連れ戻されようが何度もユウキの元へと足を運び続けたのだ。そして、カズの奇行が始まり五日目に、つまり前日にとうとうユウキはカズのしつこい程までの執着に痺れを切らし、カズの奇行に応じた。しかし、ただ応じただけじゃなかった。ユウキはカズの挑戦を受け入れる代わりに一つだけ条件を出した。
それは勝敗に関係無く、怪我が治るまでは大人しくするということだった。それもそのはずでカズの怪我はこの五日間で逆に悪化しかけていたのだ。治りかけの怪我も無理矢理動いたため傷が開き、何度も治療を行ったほどだった。だから、この条件を飲まないんであれば戦わないとユウキはカズにそう言い放った。カズも剣を交えてくれるならと誰もが意外だと思える程に大人しくユウキの条件を飲み、震える腕に鞭を打つように片手直剣を両手で低く構えた。普段であれば片手で構えるカズだが、やはり怪我が悪化してきているのか両手でないと充分に振ることも出来ないようだった。
条件を飲まれた以上、ユウキも手合わせをしなくてはならない。ユウキはため息交じりに「一回だけだからな」と溢しながら宝玉を二つ嵌めた片手直剣を鞘から抜き出し、身体で隠すように片手で後ろに構えた。誰かが合図を出すわけでもなく一瞬の静寂が流れたが、ほぼ同時にお互いに動き出した。勝敗は一瞬だった。剣を振るい、お互いの剣身がぶつかる瞬間、カズの剣身だけ微かに速度が落ちた。
ユウキもその一瞬を見逃すことなくカズの大振りになった右斜めからの切り落としを下からの切り上げで威力ごと相殺し、そのまま押し上げるようにカズの手にある片手直剣を宙に払い上げた。強くぶつかった事により、カズは宙で剣を離してしまった。どうにかして剣を掴もうと上空に手を伸ばすが、火花と鈍い金属音と同時に腕に衝撃が走ったせいかカズの両手は痺れており、落ちてくる片手直剣を手に取ることも出来ず、剣は地面に音を立てて落ちた。
カズは急いですぐ横に落ちた剣を掴もうと腕を伸ばすが、ユウキはそれすらも許すことなくカズの首元に剣を向け、「俺の勝ちだな」とだけ言い放った。そこで漸く諦めが付いたのかカズは表情を暗くさせ、「あぁ、そうだな」とだけ返すと、地面に落ちた片手直剣を鞘に戻した。カズはそのまま病室に戻ろうとするが、理由もなくいきなり勝負を仕掛けてきて勝敗が決まった瞬間、満足したかの様に大人しく病室に戻ろうとするカズにユウキは何故こんな事をしたのかと訊ねるが、カズは答えることなく病室に戻っていった。
勝負をした後もユウキだけじゃなくマシルやタイガも時間を見計らってはカズの元へと向かい何度も理由を訊ねたが、カズは一言も答えることなく無言を突き通した。結局のところ何故カズがあんな奇行をしたのか誰にも理解出来ていないが、今日の朝になってもカズはユウキの出した条件通りに大人しく怪我を治す事に専念しているようで一先ずは安心していた。
「しかし、ほんと分からないよな。あの勝負になんの理由が」
「それはまたカズの怪我が治ったときにでも聞けば良いだろ。今はこれからの事だ」
「そうかも知れないけどよ」
タイガの言葉にユウキは渋りながらもそう返すが、内心は未だに理解が出来なかった。しかし、そんな事を考えさせてくれる暇も無く、とうとう御者をするリンから声が掛かった。
「皆さん、到着しました!」
窓から見える景色に視線を向けると、島の中心とでも言いたげな広場が存在していた。広場の中央には石で出来たテーブルと椅子が二脚あるだけだった。そして、奥側であるアスクリムゾン領側の椅子にはアスクリムゾンの領主であろう若い男が着席しており、その周りにも先日ユウキやタイガ達が遭遇し、剣を交えたザラマを含めるレッドスター騎士団の一行が鎧を着込み、腰には武器をしっかりと装備していた。
次回更新は1/27です




