領主会談-2
「なぁ、まだふて腐れてるのか?」
ユウキ達がリンと呼ばれた少女に無理やり連れてかれてから数十分、自分と未だに寝てるはずの男しかいない空間で自分以外の声が室内に響いた。しかも、口調からしてどうやらかなり前からお目覚めの様だった。カズは布団の中に潜らせていた顔をゆっくりと出すと、タイガがカズの方を見ながら挨拶をするかの様に手を軽く挙げていた。
「…………起きてたのか」
「まぁ、ちょっと前からな。……にしてもまさかあいつの能力の正体が宝玉の能力だなんてな」
「しかも、しっかり聞いてたのかよ」
「聞いてたといっても途中からだけどな。目を覚ましたらここは精神世界だの夢の中だのとか言っててこっちだって困惑してたんだからな」
タイガは軽く笑みを浮かべながらそう答える。その辺りからって事はそれなりに最初の方から起きてたんじゃないかとカズは悪態を吐こうとするが、面倒くさくなってやめた。しかし、確かにタイガの言うとおりユウキの言っていたアオイとかいう少年の能力……確か『共有』だったか?その能力には驚いたのは事実だ。今思えばあの状態であれば一発くらいユウキのことも殴れただろうに。まぁ、お互いに触れる事が出来なければ殴ることも出来ないのだが。
「まぁ、『鑑定』と『共有』は授かった物とは言ってたが、どちらにせよ二つ持ちだったのか。お前らは本当に知らなかったのか?あいつが『未来予知』って言う能力を持ってたって事を」
「知ってたらあんなにあいつを追い詰める様なことなんて言わねぇよ」
カズが吐くその言葉にタイガはそれもそうだなと笑って流したが、カズにとっては笑い事ではなかった。ユウキがエイガルドに来てからまだ一年も経たないが、それでも同じハウスで過ごしてきた仲だ。それなりにお互いに心も開けてると思っていた。カズもそれなりに自分のことをユウキに話していたつもりだった。ユウキも自分たちの事を信用して色々と話してくれていると思っていた。
ハヤトが亡くなった時もユウキはハヤトの死を嘆き、悲しみ、自分の力不足を悔やんだ。それはユウキだけじゃなくカズや他の皆も一緒だと思っていた。それなのにも関わらずユウキは能力を隠し、その上で未来が予知出来るからと、自分を助けるためにと、皆の目を盗んでマシルと二人で修行という名目でこの地にまでやってきた。カズはその話を聞いたとき心の底から疑問が湧いた。何故自分(俺)の死を予知出来たのにも関わらずハヤトの死は予知出来なかったのだと。それとも予知は出来ていたがあえてそれを見過ごしたのかと。
カズは自分の問いに何も答えないユウキに心底腹が立った。動かせば痛みが走る腕を無理にでも動かしてユウキを掴み、怒りを含めた言葉をぶつけもしたが、それでもユウキは答えなかった。いや、答えようともしなかった。その様子はカズにとっては裏切りに近いことだった。だからこそ、あの場でもういい、とまるで要望を聞いてもらえない子供のようにふて腐れたのだ。
「しかし、今改めて考えると能力を隠していたユウキの気持ちも分からんでもないよな」
「あ?どういうことだよ」
「考えても見ろよ。エイガルドに居る時点で能力が三つだぞ?普通に考えたらおかしいだろ?お前だってこの世界に来たときに教えられたはずだ。この世界に来た奴らが与えられる能力は一つだけだと。それが当たり前なんだと。それがあいつは三つだ。三つも与えられたんだ。まぁ、シノって少女の能力を除けば二つだが、それでも異例の事だ。そりゃ誰にも言えないだろ。人によっちゃそれを逆手にとって悪事を働くことも出来るんだから。まぁ、多分だが、ユウキが能力に関して口外してなかった理由はシノって子の考えだと思うけどな」
タイガの言葉にカズは漸く理解したのか目を見開き、息を飲んだ。タイガの言ったことは普通に考えれば出てくる答えだった。例え、ユウキ自身が自分のその状況に気づいてなかったとしても周りのユウキに親しい者がユウキの能力の事を知った時どう考えるであろうか。タイガの言うとおりユウキを利用して悪事を働く?それともユウキの身を案じて安易に能力の事を口外しない?どちらにせよユウキが信用できる相手が出来るまでは口外しない方が良いだろう。
ユウキの能力を最初に知ったシノもどうするかを迷っていた。右も左も分からないユウキを連れてきたハヤト率いる常闇の月猫にユウキの能力を晒しても良いのかとシノは最後の最後まで迷っていた。そして、それは先ほどカズ達に話すときも同様だった。晒したところで彼らがどのような動きをするのかシノには人の心が読めるわけではないので分からないのだ。シノからしてもユウキという存在は異常でしかない。
だからこそ、シノはどうすれば良いか分からなかったのだ。考えに考えた結果、しばらくは『未来予知』という能力の事を、能力が複数あるということを誰にも話すなとユウキに口止めをしたのだ。宝玉に映し出される鑑定結果はシノの力でどうとでも出来る。しかし、それだけでは意味が無い。本人が誰彼構わず口に出してしまってはシノが隠した意味が無い。そして、少しの間ユウキと精神世界で関わった中でもう一つユウキに対して懸念することが増えた。
それはいつユウキが口を滑らせて自身の能力を話してしまうかという事だった。出来ることなら近くでユウキが口を滑らせないように見張ってくれる信頼出来る者が一人居てくれたらとそのときばかりはシノも自分の立場を恨んだが、そんな中でも一つだけ思いついた。それはユウキとともに行動し、シノ自身がユウキの行動を見張るという事だった。しかし、それには一つ問題があった。それはシノは宝玉から自由に出ることはもちろん一人で外を歩いたりすることは出来ないという事だった。
だが、一つだけ外に出る方法があった。宝玉も魔石という事は武器や道具同様何かに取り込まれる事が出来るということだった。しかし、宝玉は魔石と違い内蔵されている魔力量が桁違いに多いせいか並大抵の武器や道具では取り込まれたところで器になり得なかったのだ。そして、それは人に対しても同様で宝玉に内蔵されている魔力に適応出来なければ最悪死ぬ可能性もあったのだ。
シノ自身も実際にそれを試したことはなく、また試すような事も試そうと思うことがなかったのだ。しかし、今回となってはそんな事を考えている暇も猶予もない。いつユウキが自分の能力を口走って仕舞うか、そして口走った先にどのような仕打ちを受けてしまうか想像も付かないシノは成否五分五分の賭けに出たのだ。それもあえてユウキには伝えずにだ。
結果としてユウキはシノの魔力に無事適応することが出来、またシノもユウキに取り込まれる事は成功はした。だが、シノは未だにユウキにそのことを伝えられずにいた。さらに、今まで見張ってきた意味がついさっきユウキの意思によって無くなったのだ。しかし、ユウキが選択した事を自分がとやかく言うことではないと考え、しばらくの間はユウキの元で今まで通り大人しく過ごそうと思うことにした。
「まぁ、口外してなかった事に関しては完全に憶測だがな」
タイガの言葉にそうかとだけ返すと、カズはさらにユウキに放ってしまった言葉を思い出し、頭を抱えた。
次回更新は1/13です。今年も一年『ワールド・オブ・ザ・デスゲーム』をありがとうございました。また来年もよろしくお願いします。それではよいお年を。




