領主会談-1
ターコイズ村からしばらくの間、馬車に揺らされようやくイズやその家族が住むヴィーブル家の屋敷に着いた。最初はイズが呼び出したものだからイズが経営する店に連れて行かれるのかと思ったが、リンに尋ねたところ「今日は臨時休業にしています」と返された。
「ユウキさん、マシルさんこっちです」
リンは屋敷に着くなり、馬車を降りると足早に屋敷の中へと姿を消した。ユウキ達も慌てて追いかけると、リンはまるでイズの居場所が分かってるかのように屋敷の中を歩き、ある部屋の前にたどり着くなりノックをしてから中へと入った。リンに続くように部屋の中へ入ると、そこはどうやら書斎の様で部屋の壁を埋め尽くす様に本棚が設置され、いくつもの蔵書やらが綺麗に整頓されていた。そして、部屋の中央には書斎机があり、その上には積まれに積まれた書類の山がいくつも出来ていた。
しかし、その書斎にはユウキ達を呼んだというイズの姿は無く、代わりにイズの姉であるイヴが書斎机に積まれた書類に目を通し、右手に持つ羽ペンを書類の上で走らせていた。イヴはユウキ達の姿に気づいたのか羽ペンを走らせるのを止め、顔を上げた。
「お待ちしていましたよ。ユウキさん、マシルさん」
「待ってたって言うけど俺たちが呼ばれたのはイズのはずなんだが?」
「イズでしたらもう少しでくるはずです。どうぞこちらに掛けてください」
イヴはそう言いながら書斎机の前にある長ソファーに座るよう促してきた。ユウキ達もそれに従うように長ソファーに腰を下ろすと、いつの間に準備をしていたのかリンの手にはお茶の入った容器と四つのカップが乗ったお盆を持っており、長机にお盆ごと置くなりカップにお茶を注ぎ始めた。
「ところでユウキさんお仲間の方達の容態はどうでしょうか」
「まぁ、とりあえず命に別状はないってところかな。ただ、三人ともそれなりに酷い怪我だからしばらくは安静にしろってさ。だけど、残りの二人は……」
ユウキはそう言葉を溢して苦い表情を浮かべる。今回亡くなった冒険者二名はユウキやマシルと直接的な関わりこそ無いが、一応エイガルド内でお互いに顔を見たことがあるといった程度だった。そんな彼らにも家族や友人、恋人がいたはずだ。助けに行くのが少し遅かっただけに助けられるはずの二つの命が失われた。そんな現実にユウキは無力だと顔を顰め、悔やんだ。
「その、こんな時に言うのも何ですが……差し支えなければその二人の遺体はこちらで埋葬いたしますか?」
「…………いや、それは大丈夫だ。彼らにも家族や愛する人たちがいるところに帰りたいだろうからな。それに、俺の『聖棺』には肉体の腐敗時間をほぼ止める力があるらしいからな。だから、あんた達の気持ちは受け取るだけにしとくよ。ありがとうな」
「そう、ですか……」
ユウキの返答にイヴはそう返すとカップに注がれたお茶を口につけた。書斎の中にはしばしの静寂が訪れるが、それも一人の女性によって壊される。部屋の外からも聞こえるほどの足音を鳴らしながら、勢いよく扉を開いたのはユウキ達を呼び出した張本人であるイズだった。イズは何やら急いでいたのか呼吸を乱し、いつもなら歩くだけで靡く綺麗なブロンド髪が軽くボサついており、まるで何日か寝ていないかの様な状態だった。
「イヴ姉様、すみません遅れました!あっ、ユウキさん達もきてくれたんですね!ありがとうございます!」
イズは書斎に入るや否やそう言葉を発し続ける。どうやら本当に切羽詰まってるようでイズはかなり早口でいつも以上に落ち着きがなかった。それはもうリンが淹れたお茶を一気に飲み干すくらいには落ち着きも普段の大人っぽさの欠片もなかった。
「イズちゃん、それは構わないのだけれど私達は何のために呼ばれたのかしら?」
「……まずはこれを見てください」
イズが差し出してきたのは一枚の紙だった。紙には『領主会談についての日程』と表記されていた。これを見るだけなら別に変な事は書かれていない。ユウキとマシルもすでに月に一回ほど両領主が島の中央にある広場でお互いの領地に足を踏み入れないための建前上の不可侵条約継続のための会談を行っているとそう聞いていたのだ。だからか、日程についての知らせを見ても何がおかしいのか二人には検討もつかなかった。しかし、イヴにはイズが伝えたいであろう異変に気づいているのか、顔を強ばらせ、イズから受け取った紙を何度も読み返していた。
「イズちゃん、これはどういうことなの!」
紙に書かれていたのは日程と時間、そして今回の会談内容についてだった。日程は一週間後。時間は昼。会談内容は『先日のアスクリムゾン領地内侵入及びレッドスター騎士団に対する報復的攻撃行為について』だった。そこまで目を通してようやく二人もイヴやイズの慌てように理解が追いついた。
「私もまだ全ての状況が理解出来ていないんですイヴ姉様。だからこそ、ユウキさんとマシルさんに来て貰ったんです」
イズの説明にイヴも理解したようにユウキの方へと視線を向けるが、当の本人は何か気になることがあるのか口元を手で隠しながら思考を繰り返していた。
「どうかしたの?ユウキ君」
「ん、いやな。相手はどうやって俺たちがザラマや他の奴らに攻撃をしたと分かったのかなと思ってな」
「そんなのザラマってリーダーの人がアスクリムゾンの領主に話したんじゃないの?」
「そりゃ最初は俺もそう思ったが、あいつは『誰にも口外しない』って言った上に騎士団の騎士団のメンバーにも口止めをすると言ったんだ。流石に口だけの約束とは言え流石にそう軽々と口外しないと思うんだがな」
ユウキはそう答えた上で敵であるザラマに関して一つだけ一人の人として信頼が持てる部分があった。それは人間でさえあれば相手が誰であろうと一度交わした約束は例え何が起ころうと破らないと言う事だ。それはもちろん彼の部下であり、仲間でもあるレッドスター騎士団の連中も同じだ。その部分を知っているからこそユウキは先日あのような約束を交わしたのだ。だからか、何故先日の出来事がアスクリムゾンの領主に伝わっているのかユウキからしても不思議で仕方なかった。
それを知った上でもう一つの可能性がユウキにはあった。それはあの場にユウキ達とレッドスター騎士団の他にもう一つ、第三者がいたという可能性だ。もし、仮にだがあの場に他の騎士団―――――ヴァーミリオン騎士団またはカーマイン騎士団の連中が近くにいたとしたら事の情報が領主の耳に行くのもおかしくはない。ユウキは可能性のある限り考えはするが、結局のところどれが正解か分からない上、正解が分かったところで今はそのことを考えるよりも先に領主との会談の準備が必要だと考えるのをやめた。
「何故領主の耳に先日の事が伝わってるのかは分からないが、今はそんなことを考えても仕方ないだろ。とりあえず会談についてどうするかを考えよう」
次回更新は12/30です




