ヴィーブル領とアスクリムゾン領-3
「ここが私が住んでる街であり、私の主であるイズ様の姉に当たるイヴ・ヴィーブル様が治める街———ヴィーブルです」
十数分、ロニーが牽く荷車に揺らされながら進んでいると、リンは突然目の前に広がる街を指で示しながらそう言葉を発した。そこはエイガルドとは違い、壁からなにから全てが石レンガで作られており、その街の入り口とも言える門扉にはロニーが牽く荷車の帆の部分と同じ家紋らしき紋章が彫られていた。
「おぉ、エイガルドとはまた違った雰囲気だな」
「うん、なんというか街っていうより要塞?みたいな感じだよね」
荷台から覗くようにリンが示す街を見ながら感じた感想を溢していると、リンは「とりあえず街に入ったらイズ様の所に行きましょう」と、さらに続けて言った。門扉の前に着くとリンは鎧を着込んだ門兵らしき男性に二人に片手をあげ、軽い挨拶を送ると、その二人も遅れて片手を上げ挨拶を返した。
どうやらお互いに面識があるようですんなりと門を通っていいと若い兵士が言うが、もう一人の髭を生やした兵士は少し遅れて荷車に乗るユウキとマシルの存在に気付いたのか、「お前たちはどこの人間だ」と怪訝そうに聞いてきた。
髭を生やした兵士の言葉に遅れて二人の存在に気付いた若い兵士も咄嗟に腰に帯剣する剣の柄に手を伸ばす。そして、若い兵士が抜剣しようとした瞬間、ロニーの手綱を持ちながら「待ってください!」と言葉を発した。
「この二人は赤の人間じゃありません!私が保証します!」
リンの言葉に若い兵士は戸惑いつつも柄から手を離そうとするが、髭を生やした兵士はやはり信じられないようで「赤の奴らじゃないなら身分を証明するものを出せ」と、ユウキとマシルに向かって言い放つ。
ユウキもマシルもその髭を生やした兵士の言葉に少なからず戸惑いはするものの、身分を証明する物としてバックバッグからエイガルドで発行したギルドカードを取り出し、髭を生やした兵士に渡した。
「名前は男の方がユウキでもう一人はマシル。んで、二人ともDランクか。発行場所は……エイガルド?あぁ、あそこか。疑って済まなかった。通っていいぞ」
髭を生やした兵士はそう言いながらユウキたちにギルドカードを返すと、最後に「くれぐれも問題は起こすなよ」とだけ言葉を残し、門の先へと進む許可を出してくれた。ユウキもその言葉に「あぁ、注意するよ」とだけ返し、今もなお心配そうな表情を浮かべるリンに進むよう無言で頷き、促した。
門扉を超え、ヴィーブルの街道を進んでから少しして緊張が解けたのかリンははぁっ、と長い溜息を溢した。
「何も起きなくてよかったぁ……」
リンの言葉にマシルはごめんね、と謝罪を口にするが、ユウキはそんなことを気にする事もなく、視界に広がる街並みを観察していた。街の中も外壁と同じように基本的に住居、店舗など全ての建造物は基本的に石レンガで作られているようで見た目だけでは住居なのか店舗なのか判別しにくかった。
それらのあまり変わらない建造物を眺めていると、突然荷車が止まった。何かと思い、ユウキはリンの方に視線を向けると、リンは何故か荷車から降り始めた。そして、ユウキの視線に気づいたのかに荷台から荷物を取りながら「着きましたよ」とだけ溢す。その言葉を聞くなりユウキとマシルは近くにあった荷物を持ち上げ、荷台から降りると、目の前には先ほどまで見ていた変わり映えしない建造物とは違い、基本的には石レンガで作られてはいるものの外壁には様々な装飾が施されていた。
扉の上には荷車の帆や門扉と同じ紋章が鉄製のプレートに彫られ、飾られていた。
「ここがイズ様が経営するお店です。基本的は日用品を扱っているんですが、武器や防具さらには魔生物なども扱っているんですよ」
「魔生物?」
聞き慣れない言葉にマシルが反応し聞き返すと、リンは両手が塞がっているため一旦荷物を地面に降ろすと、先ほどまで荷車を牽いていたロニーを見ながら口を開いた。
「魔生物っていうのは身体の中を流れる魔力を核としている生物の事です。例えば、そこでさっきまで荷車を牽いていたロニーも魔生物の一種です」
「……え?それって魔物ってこと?」
リンの説明を聞いたマシルは表情を強張らせながらさらに聞き返すと、リンは「そうですね~」と考え込む様な仕草をしながら間延びした口調で言葉を続けた。
「私は魔物っていうモノは見た事ありませんが、人の話によれば魔物も魔生物も見た目はそんなに変わらないと聞きます。魔力を糧に生きているわけですからね。でも、一つだけ違うとすると、魔生物と呼ばれる種は魔物とは違い、人や街を襲いませんし、手懐けやすいですね」
リンはそう言い切ると、地面に降ろした荷物を再度持ち上げ、器用に扉をノックした後、店の中へと姿を消した。ユウキもリンの後を追うように中に入っていくが、マシルだけは違った。魔物と魔生物の違いについて聞いていたマシルは後ろで鼻を鳴らしながら待機するロニーに視線を一度だけ送り、未だに信じられないっと言った表情を浮かべるが、すぐに視線を店へと戻し、リン同様中に入っていった。
店の中に入ると、外観だけでは分からなかったが、二階建てになっているようでどちらの階層も派手な装飾が施されてはいるが、それに劣らず商品らしきものが棚や壁に並べられており、どれも品質はエイガルドで見る物より良かった。リンに指定された位置に荷物を置き、並べられた商品を一つ一つ見定めていると、リンとは違う声が扉が閉じる音とともに聞こえてきた。
「貴方達がリンを救ってくれた騎士なのね?」
そう言いながら降りてきたのはブロンドの髪を靡かせ、水色を基調としたシンプルなワンピースに身を包む女性だった。女性は二人の姿を視界に映した瞬間、ニコリと笑った。
「えーと、あんたは……」
「紹介がまだでしたね。名前はリンから聞いていると思うけど、私はこのお店のオーナーをしているイズ・ヴィーブルと申します」
イズと名乗る女性はユウキたちの前に立つと静かに頭を軽く下げ、再度笑みを溢した。
次回更新は10/28です




