騎士の国-4
サバイバル戦闘訓練から一週間が経ち、ブレスタに続く橋の前には攻略隊員と冒険者で編成された五組の混合少人数パーティーが待機していた。さらに、少し離れた所ではギルドマスターのマコや大神官のバルザ、今回の訓練で合格した冒険者のパーティーメンバーたちが不安を胸に抱きながら橋の前に集まる選抜者たちを見つめていた。その中には当然『常闇の黒猫』のメンバーたちもいた。
今回、ブレスタに向かうのは攻略隊から五名、冒険者から二十名の二十五名であり、冒険者四人と攻略隊員一人の計五人で編成したパーティーを五組作っていた。攻略隊員からはタイガ、カイザを含めた騎士・ガーディアンクラスの五人が選ばれており、実質的なパーティーリーダーとしてタイガを筆頭に話し合っていた。
冒険者たちはパーティーごとに固まってはいるもののまだ合図も命令も出てないせいか武器や防具、荷物の最終確認などおのおの自分のやるべきことを行っていた。しかし、その中でも一人、何もせず門の方をじっと見つめている赤髪の冒険者—————カズがいた。マコやバルザの位置では表情こそ読めはしないものの雰囲気や周りの彼を見た様子に少しだけ何を考え、どのような表情をしているのかは大体予測が着いた。
そんなカズの様子に気づいたのかタイガはカズに近づくと何やら話し始めた。だが、それは火に油を注ぐようなものでタイガが話しかけた直後、最初こそは遠くにいるマコたちにはその会話は聞こえなかったものの徐々にカズの声量が上がり、マコたちと同様に仲間である冒険者の様子を見に来た者たちもカズとタイガに視線を向け始めた。
「いい加減にしてください。周りの皆さんから注目を集めてますよ。貴方の気持ちは理解できますが、一旦落ち着いてください」
先ほどまで点呼などの座長を行っていたサクラが周りの視線に一早く気付いたのかいつまでもタイガに声をあげるカズに近づき、そう言葉を放った。その言葉がさらにカズの怒りを買ったのか、怒りの矛先がサクラに変わろうとした直後、サクラはそんなことをものともせず淡々と言葉を続けた。
「あそこには貴方のパーティーメンバーもいるんですよ?彼らだって気持ちは同じで貴方のように今すぐにでも門を通ってユウキさんとマシルさんを見つけたいでしょう。でも、彼らには門の先に行く条件を満たしてもなければ行く術もないんです。彼らのパーティーの中では貴方だけが二人を連れ戻すことが出来るんですよ。なのに、何故貴方は仲間を不安にさせる言動ばかり取るんですか?いい加減自分の立場というものを理解してください」
サクラはカズやユウキたちのパーティーメンバーであるタイセイたちを指で差しながら言葉を連ねる。カズもそこまで言われてようやく落ち着いたのか突然自分の両頬を手のひらで叩き、息を思いっきり吐いた。そして、そのサクラの言葉はカズだけでなく周りで二人の様子を見守っていた冒険者たちの心にも響いていた。
「タイガ、それにサクラ……すまなかった」
「頭が冷えたなら何よりです。ですが、それが戦闘の時だったりすれば命取りになる事も忘れないでください。何事も冷静に対処しなければ見えるものも見えなくなります」
頭を下げたカズにタイガとサクラはすぐに許しはしたものの気を付けるようにと厳重に注意を重ねた。カズも落ち着いたおかげか気を付ける、とだけ言葉を発し自分の身の回りの確認を始めた。その様子を見たタイガは呆れた様に静かにため息を溢すサクラに近づき、耳打ちで声を掛けた。
「サクラ、助かったよ。あのままだったらあいつを落としてた」
「いえ、それは構わないのですがタイガさんもタイガさんです。正直なところ甘すぎますよ。あっちに行ったら私たちはいないんですからしっかりしてください」
サクラはタイガにもカズと変わらず冷たく、厳しい言葉を掛けるなり自分の仕事に戻っていった。
「よし、そろそろ集合してくれ」
それから数分と経たずにタイガから集合の合図が掛けられ、一同は編成されたパーティーごとに並び始めた。
「初めに言っておく。この先は俺たちも知らない未踏の地だ。何が起きるかも何がいるかも分からない。死ぬかもしれない。そんな過酷な条件の中、この攻略に参加してくれて感謝する」
タイガは皆の前で頭を下げた後、さらに言葉を続けた。
「まず、この門を通るにあたってだがいきなり全員で行くのは危険だ。だから、偵察として俺のパーティーとカイザのパーティーで先行し、危険が無いかを確認してくる。その後、特に何もなければ合図である火球を異常があれば閃光球を空に放つ。火球の場合は順番に門を通ってくれ。閃光の場合は事態が収縮するまで待機だ。ここまでで質問はあるか?」
そう訊ねるタイガに一同は考える素振りや周りの者と話し合う素振りをするが、誰一人として手を上げることはなかった。それを確認したタイガはさらに言葉を続けた。
「今回の攻略に至っては回復や支援が出来る神官、魔法使いはいない。だから、なるべく何が起きても怪我を避けて行動してくれ。それと食料は各自準備はしているだろうが、サバイバル戦闘訓練を思い出し自給自足を心掛けてくれ。では、俺のパーティーとカイザのパーティーは門の前まで移動してくれ」
タイガの指示通りに二つのパーティーは門の前へと移動を始め、それ以外のパーティーはその場で門に近づく二つのパーティーたちを見つめていた。タイガは雑用だけでなく見送りとしても来ていたサクラとアキラにしばらくの間、攻略隊を任せた、とだけ言葉を残し門の前で待機するパーティーの前に立ち、口を開いた。
「じゃあ、行こう!」
そのタイガの言葉に冒険者たちは短く返事をし先に門を通るタイガに続いて一人、また一人と門の奥へと姿を消した。カズも触れるようにゆっくりと門の中にある光の膜に姿を消した。痛みはなく、暫くの間光の中を歩いている感覚に陥った。
しかし、それも数秒ですぐに視界は橋の終わりとその先に木々が生い茂る森の様な場所へと一変した。橋の上から見て右方向には森の奥に建物の様なものが確認でき、左方向には石材で出来た監視塔の様なものがいくつか建てられていたが、辺りは特に変わった様子はなく、空にもエイガルドから見えた三日月の形をした赤い月が昇っていた。
「ここがブレスタ……騎士の国がある場所、か」
「まずは火球を放とう。ノブト、頼む」
カズが門の先に広がる光景に目を奪われているといつの間にか辺りの安全を確認していたタイガが自身のパーティーにいる冒険者である一人にそう指示した。ノブトと呼ばれた冒険者もタイガの指示に無言で頷くと、空に向かって一発火球を放った。
「じゃあ、俺たちは後方のパーティーが来るまで森の入り口を探索しようか」
タイガの言葉に二つのパーティーは橋の奥に広がる森に向かった。
次回更新は9/2です




