騎士の国-2
陽が完全に昇り、空に明るさが戻った頃にタイガは広場に待機する攻略隊員たちの下へと帰還した。しかし、タイガが戻ったにも関わらず広場内は騒然としていた。広場で指揮を執っていたソウジと合流するとすぐにこの事態の報告を受けた。どうやらこのサバイバル訓練の範囲外、しかも最近発見されたブレスタに続く橋がある方向から爆発音が聞こえたということだった。
爆発音が聞こえた当初、広場で待機していた猫人族であるアシュヴィと鷹人族のナナルーがその爆発音に一早く気付いたためソウジにそう報告した。だが、彼女たち以外に爆発音に気付いた者はおらず、当初は気のせいか現在行われているサバイバル訓練内で起きた音と勘違いしたのではないかとソウジを含め爆発音を聞いていない攻略隊員たちはそう言葉を返し、二人の報告を一蹴した。
しかし、彼女たちの報告は数分もしない内に完全に虚偽の報告ではなく真実であることが証明された。報告を信じてもらえなかった鷹人族のナナルーが肩甲骨辺りから生えた一対の羽を広げるとともにソウジを上空へと連れ出した。突然の行動にソウジだけでなく他の攻略隊員たちも動揺を隠せず慌てたが、ナナルーが示す方向へとソウジは視線を向けると、自身の眼を疑った。そこには確かに爆発が起きたであろう消えかかった白煙が上がっていたのだ。
「おいおい、マジかよ……」
白煙を見つめながらそう言葉を溢した。何が起きたのか理解が出来なかった。何故白煙が、爆発が起きたのかソウジはナナルーに地上に降ろされる中必死に考察したが、結局納得の行くような答えは出なかった。一先ず何が起きたのかを確認するため爆発音に一早く気付いたナナルーとアシュヴィには橋まで行って偵察をしてくるように指示をした。そんなソウジの態度を見た他の攻略隊員たちも彼女たちが言っていたことは真実だったのだと確信すると同時に慌て始めた。
アシュヴィとナナルーが橋の方へと偵察に向かってから数分後、ようやくタイガが戻ってきた。当然のごとくタイガは事態を飲み込めないようで広場に戻ってきた瞬間、攻略隊員たちの慌ただしさに困惑の表情を浮かべる。そして、ソウジから事態の説明を受けると、最初こそ驚愕の表情を浮かべるが、すぐに落ち着きを戻し、思考を繰り返す。
「一先ずここにいた者の中でその爆発音とやらを聞いたのはアシュヴィとナナルーだけなんだな?」
「あぁ、だが……この訓練に参加している冒険者の中にももしかしたら……」
タイガの問いかけに頷きながらソウジは答えるが語尾は詰まらせたのかタイガには聞こえなかった。だが、タイガも理解はしているのか爆発音を聞いている者がいるかもな、と答えた。そのタイガの言葉にソウジも無言で頷き、現状何が起きたのかはこの場にいる限りは分からないから偵察に行った二人が戻ってくるの待つことにした。
「訓練もあと数時間だ。それまでは参加している冒険者には悟られない様に頼む」
そう言い放つタイガの言葉に広場に集まる攻略隊員たちは短く返事をするとそれぞれの持ち場に戻った。それから約数時間後、サバイバル戦闘訓練も終わりが見えてきた頃に偵察に向かっていたアシュヴィとナナルーが慌てた様子で帰って来た。
★☆★☆★
二人が橋に着いた時、その場には特に何もなかった上にブレスタに続く門にも傷は一つもなかった。しかし、気になったことが一つだけあった。それは橋の袂付近で誰かが野営をしていたであろう痕跡が残っていたことだ。
それを見つけた二人はまず最初に周りに野営をしていたであろう人物がまだ近くにいないかを調べ始めた。猫人族のアシュヴィは野営の痕跡から臭いを辿ろうと鼻をひくつかせ、鷹人族のナナルーは再度一対の羽を広げ、上空からそれらしき人物を調べ始めた。
二人が調査を始めてから数分後、上空を飛んでいたナナルーがある四人組の冒険者パーティーを見つけた。そのパーティーは慌てた様子でエイガルドに続く小道を駆け走っているようだが、特に魔物に追われているようではなかった。ナナルーは一度アシュヴィにも伝えようと、橋の方へと空中で身体の向きを変えるが、アシュヴィも臭いを辿って冒険者たちの存在には気付いていたようでそのまま上空から冒険者たちに近寄ることにした。
上空から近寄り気付いたことが一つあった。それは冒険者たちが何を慌てているかだ。四人組の冒険者の内の一人がかなり重症の怪我を負っていたのだ。パーティーメンバーである一人に担がれている男の服装や持ち物を見る限り、クラスは騎士かガーディアンであることは間違いなかった。
彼らの様子を見る限り、門付近で起きた爆発音と関係があるのではないかと推測したナナルーは道なりに駆け続ける四人を回り込むように少し離れた所で地面に降りると、徐々に近づいてくる冒険者たちに足を止めるよう促した。彼らも上空から降りてくるナナルーに気付いていたのか一度足を止め、肩で上下させながら呼吸を整える。
そして、四人のうちの一人であり、リーダー格らしきハンターの女が声をあげた。
「何か用か?悪いが急いでいるんだ。用なら後にしてくれないか!」
女がそうナナルーに訊ねると同時に臭いを頼りに追いかけていたアシュヴィも合流した。ハンターの女と気絶しているのか仲間の背中に担がれている男以外の残り二人は背後から来たアシュヴィに気付くと、あからさまに表情に焦りを浮かべた。
「色々と聞きたいことがあるけど、まずは治療が先。ヴィー、お願い」
ヴィーと呼ばれた猫人族のアシュヴィははーい、と間延びしたように答えると担がれている男を地面に降ろす様に指示するなり男の治療を始めた。見たところ外傷はそれほど酷くなく、身体の至る所に火傷痕はあるものの軽傷に近いものだった。だが、それ以上に体内の魔力が欠如していた。男が気絶している理由を理解すると、アシュヴィは一先ず外傷である火傷を治すことに専念した。
アシュヴィが男を治療している間にナナルーはリーダー格のハンターの女に何故男があれほどの外傷を負っているのか、爆発音の正体は彼らなのか、そして何故橋の近くにいたのかを訊ねていた。女は少し言いずらそうな表情を浮かべるが、ナナルーの早く答えてという無言の圧力に女はたじろぎながらもポツリポツリと話し始めた。
ハンターの女からの話を聞いたナナルーとアシュヴィは全ての話を聞き終えると、女の言葉の中に信じられないといった内容があり、すぐさま広場に待機するソウジたちの下へと向かった。
次回更新は8/19です




