表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールド・オブ・ザ・デスゲーム  作者: 悠城 拓
第2章 「騎士の国『ブレスタ編』」
128/163

新たな旅立ち-19

「はぁ、はぁ……ッ」


「おいおい、まだ動けるだろ?それが限界な訳ないよな」


 タイガとの戦闘が始まってからどれくらい経っているのかもう分らない。ただ、この戦いで不利なのは俺だということだけは戦いが始まった時から変わっていなかった。タイガは今でも俺が一瞬の隙を見せるだけで最初に出した『無爽迅』という突進しながら刺突攻撃を繰り出す技を始め、様々な型の技を繰り出し俺を休ませないように追い詰めてきた。


 そして、俺はというと戦闘が始まってから水分も取れず、息を吐く暇もなくただただ既の所でタイガの攻撃を受け流すか、避けるかで攻撃すら出来ない状況だった。しかも、それだけでなくタイガの動きはやはり独特で能力を使っても読み切れないという悔しいが今の俺の実力じゃ一太刀入れられたら御の字というほどの物だった。


 さらには、腹が立つことに攻撃してくる側のタイガは息を乱すどころか最終日の昼過ぎから今の今まで広範囲の森の中を走り回っていたというのに疲れを見せないのではなく、感じさせないといった方がいいほど元気に日本刀を振り回し、俺を揺さぶってくる。こちらとしては休憩を挟ませてほしいものだが、そんな提案も出来ないほどに声は出ず、疲れ切っていた。


「っ!?……やべっ!!」


 タイガの攻撃を受け流してつつ下がっていたら地面に半分ほど姿を隠した石ころに足を取られた俺は久しぶりと言っていいほどの言葉を口から溢した。それと同時に目の前で日本刀を振り回すタイガに視線を送り、後ろに倒れながらも片手直剣を無理やり構えなおす。タイガも俺が石ころに躓いたのを見逃すはずもなく、新たな構えで技を出そうと口を開く。


「貰った!……篠崎流「無剣」陸の型『無月浮』!」


 タイガはそう型の名を発しながら刀身を下から持ち上げるように切り上げ、カズの防御を崩しつつ遠心力を利用してその場で回転しながら追撃するように横に一閃日本刀を振り切ろうとする。カズはタイガの初撃で片手直剣を上に持ち上げられ、胴体ががら空きになり隙だらけだということを察し、すぐさま身体を少しだけ横に向け地面に右足を戻し、無理やり身体を起こすのと同時に左足を上に持ち上げた。


「なっ!?」


 そして、カズの胴体に届きそうになるタイガの追撃を左足で押さえた。刃の部分では自分が怪我をする可能性があるため柄を持つタイガの手に狙いを定めて左足を持ち上げたが、なんとか間に合いカズは胴体を切られることは免れた。しかし、やはり体勢的に不利だったせいか遠心力を含んだタイガの腕力に勝てるはずもなく少しだけ飛ばされる形で背中から地面に倒れた。


 まさかの事態にタイガは言葉を溢すとともに驚愕の表情を浮かべ、攻撃の手を止め地面に倒れるカズに視線を向けた。流石にあの瞬間はタイガも取ったと確信していた。だが、あの不利な体勢から自身の武器を持つ手を片足で押さえ、攻撃を無理やり止めるなど普段一緒に稽古するソウジでもしないせいかその場から動けなかった。


 カズもカズで無理やりな体勢から身体を動かしたせいか、横たわった身体を起こそうにも動く事すら出来ず、地面に倒れたまま乱れた呼吸を整えようと大きく息を吸ったり吐いたりを繰り返していた。


 しかも、タイガの初撃を真正面から受けてしまったせいか両腕が痺れて武器もまともに掴めない事態になっていた。そんな姿を見たタイガは我に返ったかのように、困った表情を浮かべるとともに頭を掻きながら口を開いた。


「わりぃ、少し熱くなり過ぎたみたいだ。体力戻るまで少し休憩しよう」


 タイガの言葉が聞こえているのか聞こえていないのかカズは未だに深呼吸を行いながら、視線をだけタイガに向けた。タイガもようやく疲れが出たのか武器を納刀すると、その場に座り込み、水分を取りながら未だ暗い空を見上げた。


 木々の隙間から見える赤い三日月を眺めながらたまに吹く風を感じていると横になったままのカズが声を掛けた。


「……さっき休憩って言ってたけどよ。決着はどうするんだよ?」


「ん?あぁ、そうだなぁ。俺的には最後のお前のあの対応力というか咄嗟の判断に結構満足したんだが……お前はどうしたい?」


 逆に質問を返されたカズは少し困惑したように視線を横に向けたが、すぐにそうだな、と言葉を溢し考える素振りを見せた後、再度口を開いた。


「出来るならギリギリの時間までお前に剣の相手をしてほしい、かな。……正直、まだ剣の腕じゃお前だけじゃなくソウジにも勝てないし」


 タイガの質問にカズはそう答えるとそうか、とだけタイガは言葉を溢しまた暗い空を見上げた。それから暫くお互いに言葉は交わすことがなかったが、不意にタイガがカズの名前を呼んだ。それもさっきより少しだけ声色を下げて。


「……ハヤトの事はすまなかった。他の者もだが、守りきれず、助ける事も出来ず助けられた俺だけが今ものうのうとこうやって生きてる」


「……別にお前のせいじゃないさ。あいつだって他の奴らだって理由は違えど、ダンジョン攻略に参加したのは自分の意志だ。誰も強制では参加してない。それに守れなかったって言うなら俺やお前以上にあいつの近くにいたユウキが一番苦しんでるさ。多分、今もな……」


 俺の言葉にタイガは悲しい表情を浮かべながらそうか、と今にも消え入りそうな声で呟いた後、さらに言葉を続けようと口を開いた。


「……でもさ、今でも思うんだよ。俺一人の命なんてあいつらの命と比べたら大した事ないはずなのに俺は、俺はッ……なんで俺なんかを助けてくれたんだってっ……俺なんか助けようと考えずにダンジョンに入らなければ誰も死ぬことはなかったっ!……こんな事ならさっさと死ねば良かったのにって!みんなが助けに来る前に怪我でもなんでもしてさっさと死ねば良かったのにってッ!俺は今でも……ッ」


 タイガが最後の言葉を吐き出そうと口を開いた瞬間、鈍い音が辺りに響いた。突然の痛みにタイガは一瞬何が起きたのか理解できなかったが、頬の痛みと先ほどまで自分が座っていた辺りに視線を向けると力強く握りしめた拳を前に出しながら小刻みに震えているカズの姿があった。


「……けんなよッ」


 今の一撃で口の中を切ったのか地味に鉄っぽい味が口の中に広がるのを感じながらタイガは口を噤む。


「ふざけんじゃねぇ!何が死んだほうが良かっただ!何がさっさと死んどけば良かっただ!いいか!さっきも言ったようにお前を助けたのはッ、助けたいと思ったのはッ、俺たちの意志だ!死ぬ覚悟を持ってお前を助けに行ったんだッ!それをお前はダンジョンに入らなければ誰も死ななかっただぁ?ふざけるのも大概にしやがれ!」


 カズはそう言葉を発しながらタイガの襟元を持ち上げるように掴んだ。


「確かに死ぬだけだったらそんなの簡単だ!だけどお前はもう沢山の人間に助けられた上で生きてんだ。易々と死ねば良かったなんて言うんじゃねぇ!お前が自ら命を絶とうとしたらそれこそ死んだ奴らは報われねぇんだ!生きる事から逃げるんじゃねぇ!死んだ奴らから逃げるんじゃねぇ!」


 タイガはカズの言葉に何も返さず、ただ耳を傾けているだけだった。カズも溜まっていたことを全て吐き出したのか肩で息をしながらタイガの襟元から手を離し、地面に腰をつけた。


「だから、もう……死ねば良かったなんて言わないでくれ。もう……誰にもそんなことを言わないでくれ。死んだ奴らが報われないッ」


 目尻に溜まっていた涙を零しながらカズは懇願するようにそう言葉をゆっくりと吐き出しながら頭を下げた。その姿にタイガは今まで閉じていた口をようやく開き、ただ一言すまん、とだけ言葉を発した。

次回更新は7/29です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ