新たな旅立ち-17
「—————て」
どこからか微かに呼ばれる。……誰だ?誰の声だっけ?
「—————きてください」
今度は身体を揺さぶられる感覚が訪れる。地味に怪我をしたところが痛い。……怪我?なんで俺怪我なんてしてるんだっけ?てか、誰だっけこの声。
「いい加減起きてくださいッ!!」
「ふぐッ!?」
そうはっきりと言葉が聞こえた瞬間、バチンという音とともに右頬に痛みが走った。何が起きたのか理解が出来ず、右頬を押さえながらゆっくりと身体を起こし、未だボヤけている視界で辺りを確認する。辺りを確認しているうちに視界が徐々に戻っていき、景色が鮮明に見えてくるのと同時に目の前には両頬を赤く染め、何故かこちらを睨んでくるサクラの姿があった。
「やっと起きたようですね。この変態」
サクラはその場で立ち上がると両腕を前で組み、こちらを蔑む様な眼で見ながらそう言葉を発した。しかし、カズには何を言っているのか理解できず、少しだけ首を傾げながら口を開いた。
「変態って何のことだよ……」
「寝ながら人の身体を弄る人の事を変態と呼ばずなんと呼べと?……それともセクハラ騎士とでも呼びましょうか?」
「まさぐッ……いや、そういうことならすまなかった」
サクラの言葉に変態の意味を理解したのかカズはこれ以上言葉を返すことなく素直に頭を下げ、謝罪をすると、サクラは少しだけ目を見開き、驚きを隠せなかった。サクラの今までの経験上、騎士やガーディアンといったクラスの人間は少なからずプライドが高い者が多いため、素直には謝らないのではないかと思っていたせいか、その内の一人でもあるカズが素直に頭を下げ、謝罪を述べたことに驚きを隠せなかったのだ。
しかし、カズからするとこれが普通の考えだと思っていた。考えてみれば簡単だ。カズのパーティーにもサクラと同じように怒らせたら危険なメンバーが一人いるということを。睨みつければ男女関係なく震えさせ、近づけばその恐ろしさに失神する者もいる。さらに、弓を構えさせればほぼ外れることなく獲物を射止める腕を持つメンバーだ。
カズも一度とは言わず何度かそのメンバーと言い争いをしているが勝つことは一度もなかった。さらに言ってしまえば彼がこのパーティーに入るきっかけの人物でもある。だからか、カズは圧倒的に理不尽な話や筋の通っていない場合でもない限り、素直に謝る事を第一に考えていた。
「ま、まぁ……素直に謝るのであれば今回は不問にしますが、次やったら……撃ち抜きますから」
多少狼狽えながらもサクラはそう言葉を発し、最後に撃ち抜くという言葉と同時に再度睨みを利かせた。カズも余計な事は言わず頭を縦に振りながら肝に銘じる、とだけ言葉を発した。
「そ、それで、一ついいか?」
暫くの静寂の後、耐えられなくなったのか服に付いた汚れを落としながらカズは話を切り出した。その言葉にサクラもなんですか、と言いながら首を傾げた。
「あんたとの戦いが終わってからどれくらいの時間が経った?」
サクラはカズのその問いかけにそうですね、と考える素振りを見せてから数秒後、右手の親指と人差し指、中指の三本を立てながらこれくらいですかね?と答えた。
「三本ということは三時間、か?かなりの間、意識失ってたってことか」
「いえ、三十分弱ですよ」
カズの言葉にサクラは頭を横に振りながら訂正した。
「え?三十分?三時間じゃなくて?」
「えぇ、三十分です。それで質問はそれだけですか?」
サクラの問いかけにカズはあぁ、と短く答えるとサクラはじゃあ、私はもう行くので残り二人の相手頑張ってくださいね、とだけ言葉を残し、次の冒険者の元へと向かって駆け出した。カズもサクラの姿が見えなくなるのを確認すると、意識を手放した際にサクラが外してくれたのだろう自分の荷物や武器を回収し、数滴程度しか残っていない水筒の蓋を開け、口に運ぶ。全くと言えないほど喉を潤すことは出来なかったが、それでも少しは元気が戻るというものだ。
「あの戦いから三十分弱しか経ってないってことはまだ昼過ぎ程度か?その割には人の叫び声や爆発音が聞こえなくなってるけど……あいつらどれだけ暴れてたんだ?」
三十分前までは戦いの最中でも遠くから爆発音やら叫び声やらが聞こえていたが、今になってはそれすらも聞こえない。まるで先ほどまでの喧騒が嘘みたいだった。流石に参加者全員が広場に行ったわけではないだろうし、はたまたタイガやアキラがやられた訳でもないだろう。
一先ずカズも水分を調達しなければ明日の昼まで耐えられないだろうと考え、初日に結界の壁がある場所まで向かっている途中で見つけた二か所ある補給所の内の一か所を見つけているためそこへ向かおうと足を進める。
☆★☆★☆
「あれが……ブレスタに続く門か」
鬱蒼とした森を抜けると、そこには見るのはいつ振りだろうかと記憶を辿ってしまうほどの澄み切った海とこの島とその奥にある島を繋ぐ橋が掛けられていた。近づいてみると一体どうやって掛けたのか疑問に思うが、確実に魔法で作られた事だけは『鑑定』を通して橋に流れる魔力を見て理解できた。そして、今回彼らの目的の一つでもある橋の上に建てられた門。その門は橋の幅員と同じサイズで完全に橋と同化しているようにも見える。
さらに、気になるのは門の中にある透明な薄壁だ。『鑑定』で確認してみるも魔力は通っていることしか分からず、どのような魔法なのかは解らなかった。
「特殊な魔法なのか。それとも人の中に流れる魔力に触れると作動する物なのか解らないな。なぁ、あんたたちはこれに触れたのか?」
少年は自分たちをここまで案内してくれた後ろで橋の上から物珍しそうな目で海を眺める四人の冒険者たちにそう問いかけるも全員が首を横に振った。その反応に彼は少しだけ残念な表情を浮かべるも文句は言わず、橋と門の周りを視続けた。たまに門に向かって魔法を撃ってみるも反応はなし。
「どう?何か解りそう?」
視続けるのも疲れてきた頃、後ろで四人の冒険者と一緒に海を眺めていた少女が声を掛けてきた。しかし、少年は残念そうに頭を横に振りながら答えた。
「うーん、この薄壁が魔法なら俺が使う闇扉と原理は同じだとは思うんだけど、魔力だけとなるとなぁ」
少年はそう言って門をちらりと視線を送るが、見るだけで何かが起きるわけでもなく困ったように頭を掻いた。そして、時間を確認してから少女に視線を戻し、口を開いた。
「とりあえず、明日の昼までは調べようと思うからそれまでは好きにしててくれ。駄目だったら皆の所に戻ろう」
少年の言葉に少女は「そっか、何か解ったら呼んでね」とだけ言葉を残し、未だに海を眺めている冒険者たちの下に戻っていった。
次回更新は7/15です




