新たな旅立ち-14
「……やばッ!今何時だ?」
木の幹に凭れかかった身体が無意識に一度、ビクリと反応して目を覚ました。寝起きのせいか視界がぼやける中、思い出す様に警戒を始め、辺りを何度か確認する。しかし、周りには特に何もなく、あるのは灰が半分だけ積もった金属の小皿が一枚と未だに煙を上げ続けているお香が小皿の淵にギリギリの状態で置かれていた。
カズはまだ完全に覚醒しきっていない脳を無理やり起こし、お香の火を消し、灰を捨てた後、灰の乗っていた小皿と一緒にバックポーチに仕舞い込んだ。そして、寝て硬くなった身体を軽くほぐしながら空を見上げると太陽は完全に昇っており、頭上近くの位置にあった。どうやら、かなりの時間寝ていたようで、誰にも襲われなかったのは運が良かったと思った。
「さて、今日が最終日となるわけだが……なんだ、この感じ。人の気配どころか魔物の気配も感じねぇ」
カズは何度か辺りを確認しながら歩き出すが、一向に人の気配、魔物の気配というものを感じなかった。さらに言ってしまうと、カズは今自分がどの辺りにいるのかも分かっていなかった。治療所でもある広場に近いのか、それとも範囲を示す『結界』の方へと近づいているのかカズには分かりもしなかった。だが、付近に誰もいないということだけは理解しているので、一先ずは誰かが近づいてくるまでゆっくりと身体を休めようと、歩いている途中で見つけた切り株に腰を落とそうとした瞬間、空に魔法が放たれた音が聞こえるとともに空が一瞬だけ光った。
「何だ!……ッ!?」
突然の音にカズは腰を下ろすのを止め、音と光った方角である空へと視線を向けると、そこにはすでに霧散したのか何の形跡もなかった。魔法が放たれたのはたったの一発。しかも、光ったことから属性は光属性の魔法だと察したカズは誰かが他の誰かに放ったものが軌道がズレて空に行ってしまったのか、それとも誤って放ってしまったものなのかと適当に判断し、特に気にする事もなく切り株に腰を落とした。
☆★☆★☆
「そろそろ時間だな。アシュヴィ一発頼む」
そう声を掛けたのはタイガだった。タイガは空に昇る陽の位置を確認するや否や、近くで待機していたアシュヴィと呼ばれた猫耳を生やした獣人に指示を出した。アシュヴィは「了解ニャ」と短く答えると白いローブの中に隠していた木の枝ほどの細さと短さが特徴の杖と思わしき物を取り出し、詠唱を始めた。
「閃光』
そう叫びながらアシュヴィは空に杖を向け、魔法を一発放った。木の枝の先端から放たれた小さい光の玉はふわふわと空へと飛び立ち、一定の距離まで飛んだかと思えば、目を覆いたくなる程の光を一瞬だけ放ち、光とともに姿を消した。
「これで大丈夫かニャ?隊長さん」
「あぁ、ありがとう。この後は手筈通り、他の攻略隊員のサポートに徹してくれ。アキラ、サクラ行くぞ」
タイガは合図を出してくれたアシュヴィに短い感謝を発すると、既に待機していた二人に視線を向け、言葉を発した。二人は無言で頷くと、タイガとともに広場を出て、すぐさま三方向に散った。その三人の後ろ姿をアシュヴィは手を振りながら「行ってらっしゃいニャ~」と見送っていた。
三人が広場を飛び出してから数分後、再度集合するように六人の攻略隊員が広場に集まると同時に三人が向かった方向から爆発音や叫び声が聞こえ始めた。
☆★☆★☆
「結界が縮小されてる?」
結界の縮小が始まった頃、それを外部から見ている者が二人いた。そして、二人の内の一人である少女が結界の縮小に気付き始めた。その際に無意識に言葉を漏らしていたのかもう一人の少年が「どうかしたのか?」と訊ねた。
少女は自分が持っていた双眼鏡を少年に渡し、指で示しながら結界が縮小し始めていることを伝える。少年は渡された双眼鏡を目元に当て、レンズ越しに結界のある方へ視線を向けた。どうやら少女の言っていることは事実だったようで結界は微妙にだが、少しずつ縮小していた。
「縮小しているってことは訓練は終わりなのかな。それともただのスタミナ切れ?」
少女は結界が縮小していることに思いつく限りの理由を口に出すが、少年は少女の言葉を遮り、言葉を発した。
「スタミナ切れはあり得そうだけど、それ場合ならすぐに消えると思うな。他にあるとすれば参加者を困惑させるため、とかか?」
「困惑って何のために?」
少女の問いかけに少年は双眼鏡から目を離し、双眼鏡を少女に返してから答え始めた。
「多分だけど突然の出来事に判断・適応できるかを見るためじゃないか?」
「……なるほど、それならありえそうだね」
双眼鏡を仕舞いながら少女は少年の言葉に頷いていると、背後から話し声が聞こえてくる。二人は咄嗟に身を低くし、息を潜め始めた。二人がいるのは森深くにポツンと建っている廃墟と化した二階建ての民家だった。その民家はすでに屋根や壁の一部などが劣化しており、二人が来た当初は魔物の住処にもなっていた。
そんな魔物の住処になっていた民家を二人は魔物を全て討伐した後に拠点として使っていた。また、二人がいるところはエイガルドからもかなり離れているため、人が来ることはおろか魔物以外に近づいてくる者などは二人がこの廃墟を拠点にしてからは一度もなかった。
「あれは……冒険者、か?四人いるってことはパーティーってところか」
二人は民家の二階にいたが、壁のところどころは痛んでいたり、風化していたりと穴が開いているところがいくつかあり、少年は話し声のした方向を穴越しに確認し、言葉を溢した。少女も近くの穴から話し声のした方向を確認しようと穴を覗き込んだ瞬間、話し声の主達である冒険者四人の内の一人、右手に弓を持っていたハンターらしき女性が何かを察したのか二人がいる廃墟の方に弓を構えた。
仲間の様子に何かを察したのか他の三人も武器を構え、廃墟の方に視線を向けた。そして、最初に弓を構えたハンターの女性が言葉を発した。
「そこに誰かいるの!!」
女性の声に二人は一度顔を見合わせ、どうする?と表情とハンドサインで会話しようと少年が腕を動かそうとした瞬間、二人の間にある比較的大きめの穴から矢が通り抜けた。矢が飛んで行った方向を目で追いかけていると、さらに女性の声が響いた。次は当てるから、と。
その言葉に二人は隠れるのを諦めたのかなるべく穏便に済むように女性の言葉に返事をするため口を開いた。
「分かった。出てくるから武器を下げてくれ。こちらに抵抗の意志も戦う意志もない」
少年は両手を上げ、壁が完全に無くなり全身が見える位置まで移動してからそう言葉を発した。少女も同じように両腕を上げながら全身が見える位置まで移動する。しかし、冒険者たちはまだ警戒しているのか武器から手を離すことなく、質問を続けた。
「そこで何してた!答えなければ今すぐ矢を放つ!」
「この廃墟を拠点として一か月くらい修行していた。ただ、それだけだ」
「……お前たちの名前は?」
女性の問いかけに二人は一瞬言葉を詰まらせた。何故なら、二人が街を出てから数日の間、街全体に捜索願が出されていた上、何人かの冒険者が街周辺を捜索していたからだ。そのことを知っている二人は自分たちの名前を彼女らに明かしてしまうと、街に無理やり連れて行かれてしまうのではないかと危惧してしまった。
しかし、そんなことを考えている暇もなく、隣にいた少女が口を開いた。
「私の名前はマシルです。そして、隣にいる彼はユウキ」
少女—————マシルは微かに声を震わせながらそう答えた。ユウキも突然の事にマシルの方へと視線を向けてしまった。
「マシルにユウキ」
マシルの言葉を聞いた冒険者たちの内、大剣を両手で持った男性が思い出す様に二人の名前を呟いた。そして、何かを思い出したかのように大剣を持っていた男性は大剣を下げるなり、弓を構える女性に耳打ちし始めた。二人はそんな彼らの様子を見ながら、不安を表情に浮かべていた。
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