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ワールド・オブ・ザ・デスゲーム  作者: 悠城 拓
第2章 「騎士の国『ブレスタ編』」
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新たな旅立ち-11

 魔物たちが周りの木々を倒し始めてから数分が経った頃、カズのいる樹からそれほど離れていない所から悲鳴が聞こえた。声音からして女性のようだったが、カズのいる樹は大きく、枝葉も多いことから声の主がどこにいるのかいまいち分からない。だが、その声のおかげでカズを包囲していた魔物たちの視線がその声の方へと向けられ、数体の魔物たちがその声の主の下へと歩み始めた。


 魔物たちのおかげもあってどのあたりに声の主がいるのか大体は把握出来た。どうやら声の主はカズのいる樹から二、三本ほど離れた場所で魔物と対峙しているようで声の主は「なんでこっちに来るンダ!」、「あっち行けヨ!」などと魔物に対して文句を言っていた。


 声の主の届かないであろう魔物への訴えにカズは不覚にも笑いを溢してしまい、その笑い声は声の主にも届いてしまった。


「そ、そこに誰かいるのカ!?誰でもいい助けてクレ!!」


 声の主は微かに聞こえるカズの笑い声が聞こえたのか焦りを含めた声音でそう叫んだが、カズはその声に反応する事はなく口を閉ざした。しかし、カズもその声のおかげでカズを囲んでいた魔物の数は最初に比べると半分ほどにまで減っており、これならどうにか動けるだろうと判断したカズはまずはどう動こうか考え始めた。


「これなら行けるか?」


 思考を繰り返すこと数十分、ようやく考えが纏まったのかカズは小さい声で「よし、やるか」と呟き、魔物の様子を窺う。いつの間にか、自分の周りを囲んでいた魔物の数はさらに減っており、カズにとってかなり動きやすい状況になっていた。


 カズはまず、自分の真下にいる数体の魔物を眼で捉え、『予測』を発動させる。いずれの魔物も全て過去に戦ったことのある魔物だったせいか『予測』する事は容易だった。カズは『予測』で魔物たちの動きを把握すると、なるべく音を立てずに地面に着地し、近くの魔物数体を仕留め始めた。


「よし、これで近くの魔物は終わり。で、今度はあそこか…」


 樹の周りにいた魔物を全て仕留め終えたカズは頬に飛び着いた魔物の体液を袖で軽く拭うと、未だに叫び続ける声の主の周りに集まる魔物の姿を捉えた。自分の周りにいた時より魔物の数が増えてないか?と思いながらも倒れた木々の影に隠れながら様子を窺う。


「あの量は流石に一人じゃ無理だな。あんまり使いたくはなかったけど……」


 カズは自身のバックポーチを左手で漁り、長めの筒と木材で出来た小型のケースを取り出した。ケースの中には数十本の針が仕舞われておりケースの上部分にはまるで分類するかのように赤、黄、青と色が塗られており、カズはその中から青の部分にある針を一本丁寧に抜き出した。


 そして、筒の口を当てる部分にある針を通すための極細の穴に針を装着し、狙いを近くの魔物に定めると息を大きく吸ってから筒の中に思い切り息を吹いた。息を吹きかけられたことにより、筒の中に入っていた針は目には捉えられない速度で筒から顔を出し、狙いを定めていた魔物の背中に刺さった。


 一瞬の痛みに気付いたのか魔物は針の来た方向へと振り向き、カズの姿を目で捉える。しかし、魔物は叫んだり、カズの方へと駆け走ることも無く、そのまま地面に倒れた。それに気づいた他の魔物が倒れた魔物と同じ方向へと身体ごと向けるが、同じ要領でカズに針を刺され、地面に倒れる。


「次はあいつだな……ふッ!」


 次々と針で魔物を射る中、未だ樹の上にいるであろう女性も魔物の異変に気付き、叫ぶのを止めた。そして、落ち着いたのか背中に背負っていた先端が三日月のように曲線に曲がっている杖を手に取り、魔法を発動させた。


「このッ!『風刃(ウィンド・カッター)』ッ!」


 彼女の周りにいた魔物は透明な風と共に切り刻まれ、血潮を上げた。離れた所からはカズが針で射止め、樹の上からは彼女が魔法を繰り出し、瞬く間に樹の周りに群がっていた魔物たちは討伐された。全ての魔物を討伐したのか倒された木の影に隠れていたカズは筒と針をバックポーチに仕舞い、声の主がいる樹の近くに歩みを進めた。


「おーい、大丈夫か?」


 カズは女性がいるであろう樹に向かって声を掛けるが、なんの反応も無かった。もうすでにどこかに逃げたのかと思い、カズが他の所に移動しようと身を翻した途端、先ほど叫んでいた女性の声が聞こえた。何故か涙声で「た、助けてクレ……」と微かにだが、聞こえた。


 カズは声のした樹の下まで移動するとそこには何故そうなったのか理解が出来なかったが、枝と枝の間に背負っていた杖が引っかかり身体が宙に浮いたままの小柄な少女が目尻に涙を浮かべていた。


「えっと、何がどうなってそうなったのか聞いてもいいか?」


 カズは笑いを堪えながら訊ねた。しかし、少女は「何も聞かずに助けてクレ」と顔を両手で覆い、震える声でそう言った。カズもそれ以上は何も聞かず、杖が引っかかっている枝の根本を腰に差していた剣で切り落とす。少女は斬られた枝とともに落ちるが、カズは『予測』で落ちる枝を避け、無事少女を救出した。


「……よっと、これでいいか?」


「その、助かったヨ。……ありがとうナ」


 地面に足を着けることに安堵したのか少女は目尻に浮かぶ涙を指先で拭うと、カズに向かって恥ずかしそうに言葉を発した。少女はカズの肩辺りまでの身長で腰まで伸びた金色の髪と普通の人間とは違い、長い耳を持っていた。


 そして、カズもこの少女の姿には見覚えがあった。サバイバル戦闘訓練が始める前、タイガが紹介してくれた攻略隊員の一人であり、二人いる魔法使いの内の一人だった。


「あんた、確か……チャナとか言ったよな?攻略隊の」


「あぁ、そうだヨ。私はエルフ族のチャナ。ちなみにこれでも歳は100を超えているヨ」


 チャナと名乗るエルフ少女は無い胸を張り、そう言葉を発した。


「それで、あんたも樹の上で一夜を明かしてたのか?」


「あぁ、そうだヨ。まぁ、起きたら魔物たちが木々を倒しててびっくりしたけどナ。ところであんたもってことは……」


 チャナの疑問にカズは無言で頷くと、再度口を開いた。


「それであんたこれからどうするんだ?」


 突然のカズの質問に意味が分からないといった表情を浮かべたチャナはカズの顔を窺った。その様子に呆れたカズはため息とともに「今は戦闘訓練だろ?」と言葉を付け足すと、やっとカズの言葉の意味を理解したのか思い出したように左手の平に右手の拳をポンっと置き、「あぁ、なるほどナ」と一言そう呟いた。

次回更新は6/3です

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