新たな旅立ち-10
「はぁ……はぁ……。やはり、まったく理解が出来ませんね。何故それほどの力があるのに今まで隠していたのかを」
地面の上で仰向けに倒れながらカイザは横目でカズを見つめるなりそう訊ねる。地面に横たわってはいるが、カイザの怪我は腕の切り傷以外にも数か所、カズの攻撃によって出来た傷はどれもそれほど大したことなく、かすり傷程度の物だった。なので、倒れているのはただ体力が尽きただけである。一方、カズの身体には一切の傷はなく、表情は平然としているが、やはり慣れない能力を酷使したためか戦闘が終わってからずっと左目を覆うように手で押さえながらカイザの言葉に耳を傾けていた。
「……別に隠しちゃいないさ」
「なら何故今までその力を出さなかったんですか?その力があれば摸擬戦でも僕に負けることはなかったのでは?それとも何かしらの条件や理由があったとかですか?」
「俺の能力に興味はなかったんじゃなかったのか?」
何故カイザはそんなにも自分の事を気に掛けるのか謎だったが、カズはカイザの問いかけに意地悪な笑みを浮かべながらそう聞き返すと、カイザは自分の発言の矛盾に気付いたのか先ほどまでカズに向けていた視線を逆の方向に向ける。そして、恥ずかしそうに「うるさいですよ」と小さい声を溢す。そんなカイザの姿を見たカズは左目を押さえていた手を外し、頬を掻きながらおもむろに口を開いた。
「俺の能力は『予測』だよ」
「『予測』、ですか」
カズの言葉にカイザは逆方向に向けていた視線をカズに戻し、聞き返す様に言葉を復唱した。『予測』という能力の名前を聞いたカイザは数秒間自分の中で思考した結果、今まで気になっていた『血牙猪』との戦闘での動き、そして、今回の戦闘での攻撃が一切当たらない理由を理解した。
それと同時に何故その力を摸擬戦で使わなかったのか疑問は残るばかりだった。そんなカイザの様子を察したのかカズは一度ため息を溢すと、カイザの近くに座り込む、口を開いた。
「この能力はな、相手の動きを一度と言わず何度か見ないと使えない能力なんだよ。しかも、一度使うと目の奥が熱くなって酷い時なんか頭が割れるほどの痛みが暫く続くようになるんだ。だから、さっきも言ったように俺は能力を隠してたわけではないし、能力を使わなくても勝てるとか思ってたわけじゃない。ただ、この能力はエイガルドに来てから人に対して一度も使ったことが無かった。どれほどの代償が自分を襲うのか怖くて使えなかったんだ」
カイザは視線だけをカズに向け、真剣にカズの言葉を聞いていた。そして、カズが話し終えてから一拍おいて口を開いた。
「そう、だったんですね……」
「まぁ、今となってはお前との戦闘で自分の能力の限界とこれからの課題が見つかったから俺としては御の字だけどな」
カズはそう言いながら少しだけ笑みを浮かべた。その笑みにつられカイザも少しだけ表情を緩め、「そうですか」と短く返した。
「さて、そろそろ俺は移動させてもらうぞ。なんせ、俺との決着はもう着いたんだ。これ以上お前が俺に執着する理由はもうないだろう?」
カズは未だ仰向けに倒れているカイザにそう言いながらその場で立ち上がり、ズボンの臀部部分についた汚れを手で軽く払う。カイザはまだ何か言いたそうに口を開くが、「じゃあな」というカズの一言によって遮られた。カズとカイザの戦闘に幕が閉じ、その日はそれ以上カズの前に誰かが現れるということも無くサバイバル戦闘訓練の一日目は終了した。
☆★☆★☆
サバイバル戦闘訓練二日目の朝。カズはカイザとの戦闘後、夜が更ける前にはタイガの発動した『結界』の能力によって出来た透明の壁が見える位置まで移動しており、その壁に沿って移動していた際に見つけた他の樹木よりも一回り大きい、人一人が乗っても折れない程度の太さの樹の枝の上で一日目を終えた。
そして、現在は—————。
「くそッ!どんだけいるんだ!!」
現在、カズは大量の魔物に囲まれていた。樹の枝の上で目を覚ました時、すでに日は昇っているが、体感ではまだ早朝に近い時間だった。そんな時間にも関わらずその樹を囲むように魔物たちがカズの事を見上げており、カズが目を覚ましたと同時に警戒態勢に入ったのかおのおの声を荒げていた。カズも寝起きですぐには状況に理解が出来ていなかったのだが、時が経つにつれ、今の自分の状況に理解が追い付き、今では頭を悩ませていた。
「ひい、ふう、……数だけでも二十はいるか?ちくしょう!数体なら逃げられたのにこれじゃあッ」
このエイガルドの近くにある森に生息する魔物の強さ自体は冒険者になりたての者でも問題なく倒せるのだが、問題は数だった。数体程度であれば今のカズでも難なく相手する事は出来るのだが、流石に囲まれる程となるとカズも軽々しく魔物の中に降りることは出来なかった。しかし、こんな状況の中でも一つだけありがたいことがあった。それは空を飛んだり、遠距離攻撃に長けた魔物がいないことだ。
そのおかげで樹の上に居ても襲われることや無理やり魔物の中に引きづり降ろされることも無いため、カズはそのことに関してだけは安堵していた。だが、現状は変わらず最悪と言えるものでどう動こうか決めあぐねいていた。
現在、カズの周りにいる魔物は『血牙猪』、『灰牙狼』、『森蟷螂』、そしてこの辺りにはいるはずのない『黒猿種』らが数体ずつカズの方へと視線を向け、威嚇を続けていた。
「ふぅ……取りあえず一旦落ち着こう。先ず、考えるのは魔物の数じゃない。どうやってこの状況から脱出するかだ。普通に降りたところですぐに叩かれる。かといっていつまでもここに居るわけにはいかない。…………どうしよう?」
深呼吸を繰り返し、落ち着いたところで口に出しながら現在の状況を再度確認し、最も適切な行動をいくつか思考するが、どれも自分一人ではどうにもならないものばかりだった。そして、再度頭を抱えるカズに痺れを切らしたのか『血牙猪』たちは一斉にカズのいる樹に突進を繰り出し始め、それに続くように他の魔物たちもカズのいる樹の周りに生えている木々を倒し始めた。
次回更新は5/27です




