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ワールド・オブ・ザ・デスゲーム  作者: 悠城 拓
第2章 「騎士の国『ブレスタ編』」
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新たな旅立ち-7

 あの時から僕は彼の事が嫌いだった。その時は自分でも何故、彼が嫌いだったのか分からなかった。彼と初めて会ったのは摸擬戦よりも前のことだ。確か、彼が『常闇の黒猫』というパーティーに加入する前だったはずだ。僕が騎士というクラスに所属し、初めて依頼を請け負った時、僕は初めて彼と出会った。後から知ったのだが、ほぼ同時期に騎士のクラスに所属した僕と彼はすでに剣の腕だけでなく、戦闘においての技術、魔物に対しての知識の差は明確だった。


 あれは僕が初めて一人で依頼を受け、魔物を倒しに森に入った時だった。当初は依頼された魔物の狩りも順調に進み、一匹ずつ確実に仕留めて行けたのだが、どこから来たのか、それとも迷い込んだのか、いるはずのない場所に『それ』はいた。


「……よし、これで五匹目か。えっと……あと三匹みたいですね」


 目の前に倒れる頭から生えた二本の角が特徴の小さい兎型の魔物『二角兎(ツーホーン・ラビット)』の討伐を証拠する部位である二本の角を取りながら、残りの討伐目標数を確認する。依頼書に記載されたのは八匹分の『二角兎』の角の納品だった。報酬としては少ない方ではあるが、初心者向けというか一人でも安全に狩れる魔物でもあり、ギルドマスターであるマコにおすすめされてカイザはそれを請け負った。


「まだ時間もあるし、少し休憩でもしますかね」


 少し歩いたところに開けた場所があり、丁度いい腰掛けになりそうな岩があったのでカイザはそこに腰掛け、バックポーチから出した水筒を取り出し、栓を開け、口に運んだ。魔物が潜んでいるとはいえ、初心者でも油断さえしなければ一人で狩れるような弱い魔物しかいないためカイザはしばらくの間、岩に腰を掛けたまま、たまに吹く風によって起きる葉擦れの音に耳を澄ませていた。


 しかし、そんなゆったりとした時間もすぐに終わり、カイザの正面にある茂みからガサガサと掻き分ける音が聞こえた。カイザはその音にすぐに警戒をし、岩に立て掛けていた剣に手を伸ばす。今いる場所からしても魔物が現れるとしたら討伐目標の『二角兎』か、あまり群れを好まない『土牙狼(ランド・ウルフ)』などの初心者でも狩れる魔物だ。だが、茂みから現れたのは『二角兎』でも『土牙狼』でもなく、怒った様な表情と黒い毛並みが特徴の大猿型魔物の『黒猿種(ダーク・エイプ)』だった。


 『黒猿種』は冒険者の中でもかなり嫌われている魔物であり、体毛である黒毛を活かせる時間帯である夜間を三から五匹程度の群れで主に行動をするためか、夜間に行動する冒険者からはかなり嫌われている。また、『黒猿種』は群れの中に居る仲間との連携による攻撃も多く、パーティーを組んでいる冒険者でも倒すのは困難を強いる。


 そんな『黒猿種』がカイザの前に姿を現した。しかも、カイザはまだ運が良いのか現れたのは一匹だけだった。いち早く『黒猿種』の姿を確認したカイザは咄嗟に腰掛けに浸かっていた岩の隣にある少し大きい岩の陰に隠れたが、『黒猿種』は嗅覚も優れているためいつ気付かれてもおかしくはなかった。


 鼻を鳴らし、手に持っている棍棒を引きづりながらカイザの方に徐々に近づいていく。すでに距離は飛び込めば届く距離にいた。カイザも近づいてくる『黒猿種』に恐れ震えながらも息を潜めた。しかし、それもすぐにバレてしまった。『黒猿種』が現れた方向とは真逆のカイザが隠れる岩陰の近くから新たに現れた『黒猿種』によって。


「う、うわぁぁあああ!」


 新たに現れた『黒猿種』と目が合った瞬間、叫ぶような悲鳴とともにカイザは茂みに向かって走り出した。手に持っていた武器も手放してカイザは逃げるように走り出した。しかし、そんなカイザの姿を捉えた『黒猿種』も追いかけるようにカイザに向かって走り出す。威嚇するような鳴き声を上げて。右に左にカイザは無作為に走るが、まだ冒険者になったばかりでもあるせいか、長距離を走る体力も長い時間走る体力もないせいか徐々に走るスピードは下がり、追いかけてきた『黒猿種』との距離も徐々に近づいていた。


 お互いの距離が狭まってきたのを確認した『黒猿種』の一匹はカイザが弱まってきたと確信するや否や手に持っていた棍棒をカイザの背中に向けて投げつけた。それは見事カイザの背中に当たりカイザは棍棒の威力とともに数メートル飛び、地面に打ち付けられるように短い呻き声とともに転がった。


 背後からのいきなりの攻撃に意識が飛びかけたが、なんとか意識を保ったカイザはなんとか逃げようと立ち上がろうとするもうまく立ち上がれなかった。起き上がろうと両腕に体重を掛けるが上手く右腕に力が入らない。その代わりズキっとした痛みが右腕に走った。痛みがした右腕を確認するとカイザの右腕は本来向くはずのない方へと向いており、よくよく確認すると指までもが違う方へと向いていた。


「あ、あッ……ぁぁあああ!!腕がッ!指がッ!嫌だッ!嫌だッ!!」


 新たな痛みによって自分の身に何が起きたのか理解すると迫る『黒猿種』を前に泣き叫んだ。逃げようと後ろへと下がろうとするが、痛みによる恐怖からか足が竦んで上手く立てない。


「だ、誰かッ!……助けてッ!助けッ!……ぁぁああああ!!」


 逃げようにもすでに恐怖で竦んだカイザは叫ぶことしかできず、いつの間にか近づいて来た『黒猿種』の一匹に片手で足を掴まれた。そして、足を引っ張られ、自分の顔と同じ高さまで持ち上げると『黒猿種』はカイザの顔をじっと見つめ、少しだけ口角を上げ、にやりと笑った。そして、もう片方の空いた手でカイザの左腕を伸ばす様に掴むと、口を大きく開き鋭い牙を見せ、カイザの左腕に牙を立てるように齧り付いた。右腕でなく左腕を噛んだことに少しでも抵抗しない様にと考えた上でやったことなのかカイザにはすでに思考をする余裕もなく、ただただ痛みと恐怖に泣き叫ぶだけだった。


 視界に映る『黒猿種』が徐々に掠れて見え始め、過度の痛みと多量の出血により徐々に意識も失いそうになっていたその瞬間、未だに腕に噛みつく『黒猿種』とは違うもう一匹の『黒猿種』が短い呻き声をあげて倒れた。そのことに気付いた噛みついたままの『黒猿種』もカイザの腕から口を離すと、倒れた仲間を見て、驚愕の表情を浮かべた。


 しかし、驚愕の表情を浮かべる『黒猿種』は突然の痛みによって表情を歪ませる。薄れゆく意識の中、自分の足を掴んでいた『黒猿種』の腕とともに地面に落とされたカイザは何が起きたのか理解が出来なかった。ただ、微かに見えるのは自分が落とされた近くに先に倒された『黒猿種』の頭、そして先程腕を落とされた『黒猿種』と戦う、剣を持った冒険者の姿だけだった。謎の冒険者と『黒猿種』の戦闘は直ぐに決着が着いた。すでに、視界が霞んできているため謎の冒険者の顔までは分からなかったが、自分に掛けてくる声から自分と同じくらいの年で男だということだけだった。


 カイザは謎の冒険者が二匹の『黒猿種』を倒してくれたことによる安心からなのか必死に声を掛けてくる謎の冒険者を前に意識を離した。

次回更新は5/6です

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