ダンジョン攻略-26
「お、おい?ハヤト?……ハヤトっ!!」
ユウキの発した叫び声によって攻略隊の全員が足を止め、声の主であるユウキの方へと一斉に視線が向けた。そして、いの一番にユウキの下へ向かい、声を掛けたのがハヤトの所属するパーティー『常闇の黒猫』のメンバーとタイガに肩を貸し、先頭に近い位置にいたソウジだった。
「ユウキ、何があった!」
「……おいおい、嘘だよな」
ユウキとハヤトの元へと駆けつけた『常闇の黒猫』のメンバーとソウジはハヤトの姿を見て、信じられないといった表情を浮かべ、目の前に広がるハヤトの姿に目を疑った。そしておのおのが現実を受け入れられない様に言葉を呟いていた。
「ハヤトっ!ハヤトっ!おいっ、ハヤトっ!」
ユウキは近くにいた神官が近寄ってくるのを確認するや否やハヤトの身体に刺さっている矢を一気に引き抜き、神官に治療してもらうため傷口を上に向けながらハヤトへと声を掛け続けた。駆け寄ってきた神官はハヤトの顔見知りなのか彼自身もまた治療を行いながらハヤトへ声を掛けていた。
「まだ体力が残っている者は周りを警戒しながらユウキたちを囲めっ!そして魔力の残っている神官は出来るなら治療を頼むっ!それ以外の魔力の残っていない神官、魔法使いはガーディアンや騎士たちの後方へと隠れろっ!」
ユウキの声によって近寄ってきたソウジは暗く、視界の悪い中一瞬で状況を判断したのか全く見えない周りを一瞥した後、すぐに周りの攻略隊員、冒険者たちに指示を出した。彼らも長いダンジョン攻略で疲弊しているはずなのにソウジの指示を聞くや否やすぐに武器を構え、周りを警戒し始めた。
ユウキたちの近くにいた者たちも武器を構え、ユウキたちをまるで隠すかのように囲み始めた。
「ソウジさんっ!」
「サクラ。敵の位置は把握できたか?」
サクラは少し離れたところでソウジを呼ぶが、ソウジの問いかけには無言で頭を横に振った。サクラ曰く、最初から感じ取っていた魔力以外の魔力が一切感じられないとのことだ。感じ取っていた魔力の正体である魔物はまずもって遠距離攻撃の出来る類の魔物ではなく、ハヤトを襲ったとは考えられず、ハヤトを襲った正体は別にあるとソウジに説明した。
そして、サクラがソウジに説明を終え、引き続き警戒を続けようと戻ろうとした途端、ハヤトに続き、二人目がハヤトと同じく矢を受けた。しかし、彼は悲鳴を上げるだけでハヤトのように倒れたりすることなく、自分で矢を引き抜き、武器を改めて構えなおした。
その一部始終を見ていたユウキは何かが変だと感じ、ハヤトの身体から抜いた矢に対して『鑑定』を行った。鑑定の結果、矢自体はただのどこにでもあるような一般的な矢だったが、矢尻の部分に何かが塗布された形跡が残っていた。ハヤトにも続けて『鑑定』を行うと、ハヤトの鑑定結果、身体状況という新たな項目に猛毒とただ一言、そう表示されていた。
ハヤトの状況が分かった今、ユウキは治療を行う神官たちに毒の治療をお願いした。さらに、ハヤトの次に矢の襲撃を受けた冒険者の一人を『鑑定』したが、彼には一切毒を受けていなかった。ユウキが鑑定を終える頃、また、新たに矢を受けた者が出た。視界は暗く、良好とは言えなかったが微かに視えた矢の軌道からユウキは『鑑定』を行い、魔物を探した。
すると、ほぼ全ての敵が今いる位置から二、三本離れた木の上にいたのだ。しかも、全ての敵がアーチャー系のスケルトンでその中の一体だけ、【固有スキル】を持っていた。
種族:骨弓士
性別:不明
使用可能魔法適正:なし
【固有スキル】
『存在遮蔽』
「ソウジっ!見つけたぞッ!木の上だッ!」
ユウキはソウジだけでなく全体に聞こえる声量でそう言うと周りにいた攻略隊員、冒険者も探す様に木の方へ視線を向けた。
「暗くて何も見えねぇ。ユウキどこの辺りにいる!」
「一度『閃光』を使うから一度目を瞑れ!行くぞッ!」
ユウキはソウジの問いかけにそう答えると、残り少ない魔力を腰のホルダーに仕舞っていた銃に出来るだけ込め、銃口を離れた木の方へと向け、引き金を引いた。高い発砲音とともに魔力弾は木の方へと飛び、一瞬にして光を生み出し、辺り一帯を照らし始めた。
『閃光』によって明るくなったところからは数体の骨弓士が姿を現した。全身骨だけの身体に矢筒を背負い、手には弓を持った骨弓士はまるで『閃光』の効果を受けないかのように飄々とした佇まいを太い木の枝の上でしていた。
お互いに視界が明るくなったことをいいことに骨弓士はまるで選りすぐる様に矢を弓に番え、思い切り弦を引いた。同じようにハンターの数人もガーディアンの大楯に隠れるように姿を出すのを最小限にし、矢を放った。
容易に近づけないせいかしばらくの間、魔法や矢での遠距離攻撃がメインとなっており、その間もユウキはハヤトに声を掛け続けた。そして、やっと目を覚ましたのかハヤトは気だるそうでいかにも毒によって衰弱しているのか弱弱しい声をあげた。
「さっきからずっと人の名前連呼しやがってうるせぇよ、……バカ」
ハヤトは弱弱しい笑みを浮かべ、そう言うが実際は声を出すだけでもきつそうで、少し喋るだけで、口からはあり得ない量の血を吐いていた。毒のせいなのか少しだけ黒ずんでいるようにも見える。神官による毒の治療は適切に行われているはずなのに気付くのが遅かったのか、それとも毒の量が多く難航しているのか神官たちも交代で治療を行うが、ハヤトの状態は一向によくなる事はなく、逆に徐々に弱っていった。
「多分だが、俺は……もう無理だ。吐いた血の量……、流れた血の量からしてももう……助からない。だから、……お前らに頼みたいことが、ある」
「何バカな事行ってんだ。お前も一緒に街に戻るんだよ!」
ハヤトは口から垂れる血を拭うこともなく、ゆっくりと丁寧に言葉を続ける。
「いいか、俺からの頼みはただ……ただ1つ。……生きろ。悠長にお前ら一人一人に言葉を残す力は、もう……残ってない。……だから、俺が思うことはただ……一つ。お前たちには、無事に生き続けて……ほしい」
ハヤトはさらに血を吐いた。その姿は痛々しく、血の匂いがただただ皆の鼻腔を刺激した。
「……これから、先も……同じような、事は起き……るし、俺も……体験した。……今回は、俺がそうだっ……ただけだ。……誰も責めること、はない。……お前らと、パーティー……組めて楽し、かったよ。……ありがとう、な」
ハヤトは少しだけ早口にそう言い切ると、一度だけ呼吸を整えるように息を吸い、吐いた。そしてニコリと笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。それと同時にユウキの握っていたハヤトの手がずるりと地面に落ちた。
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