ネガティブさん
私がネガティブさんを元の大きさに戻したとき、電車は私の最寄り駅に到着した。
「…」
私は席を立ち、電車を降りた。
今日はいろいろなことがあった…
早く家に帰ってゆっくり休もう…
電車を降りた人達が何列にもなり歩いている。私もその集団に加わり歩いていく。階段を下りて、少し歩き改札を出る。すると集団は元からなかったかのようにバラバラになり、私は前に誰がいたかすら忘れてしまう。そして私も私の帰る道へと歩いていく。
はあ、疲れた…体に力が入らない、眠い…。
あぁ、またあのことが頭をよぎる。
考えても答えが見つからないことをいくら考えたって仕方がない…だから辞めようと脳に言うけど、脳はいつも私の話を聞いてくれない。脳はいつもネガティブさんの話しか聞かない。
「はぁ…」
自然とため息がこぼれ落ちた。
なんだかもう…疲れたな。なんで辞めちゃったの?私も辞めたくなっちゃったじゃん!もともと辞めたかったけど…辞めたくて辞めたくて仕方なくなっちゃったじゃん!
私が心の中で手と足をバタバタさせて子供のように怒っている。どこに向けたらいいのかわからない怒りに、私は困惑している。
連絡してみようかな?
でも迷惑だったらどうしよう?
ブロックされてたらどうしよう?
無視されたらどうしよう?
私がまた傷付いたらどうしよう?
私はまた明日も、茜田さんがいない職場に行かなければならないんだ…どうしよう、やだな…。なんだろう…なんか…死にたいな…死んで楽になりたいな。
いつも思わないようにしていた言葉が、何の躊躇もなく出てきた。やっぱり私、疲れてるな…。そう思って前を見ると、少し遠くではあるが急な階段が目に入った。その階段は周りがコンクリートしかない中でそこだけ自然に囲まれていて結構目立つ。もともと山だったところを住宅街にしたらしいけど、そこの階段の周りだけは、ここが元は山であったことを証明してくれる最後のものの様な気がする。
「はぁ…」
私はまた溜息をついた。この階段を上がって5分も歩けば家に着く、着くんだけど…この階段30段くらいあってとても長いし急だし、そしてなぜか横に長いし…ここですべての体力を奪われる…。というよりも、ここに来るまでに駅から15分程掛かる…めちゃくちゃ疲れてるのにこんな急な階段上りたくない!また私は心の中で手と足を子供のようにジタバタさせる。
「はぁ…」
私はまたまた溜息をついた。するとその瞬間何か黒いものが私の足元を通り過ぎ、私を追い抜いた。私が驚き軽く硬直していると、その何かが私を見た。
「…ん?」
辺りが暗く街灯も少ないとこなので、私もそれを目を細めてじっと見る。するとそれはまたゆっくり歩き出し街灯の明かりに照らされた。そこにいたのはまっ黒でとても綺麗なエメラルドグリーンの目をした猫ちゃんだった。