やってしまった…
彼女はぼくを見て目を細めて固まっている。
「…」
不快に思ったのかな?
怖くて、恐ろしくて固まってるのかな?
猫…嫌いだったらどうしよう
このまま後ずさりされて、走って逃げられたらどうしよう
大きな声で悲鳴を上げられたらどうしよう
「嫌い!汚い!近づかないで!」って叫ばれたらどうしよう
「…」
彼女はまだ目を細めている。
「…」
も、もしかして…きちんと見えていない?
「…ぁ!」
そ、そうだ!ぼくは黒猫だ!
黒猫が暗い所できちんと見えるはずがない!
やってしまった…
ぼくは真っ赤な顔をしながら、何事もなかったように街灯の下まで歩いていった。
「…」
そして彼女を見つめる。そこでもまた(どうしよう…)という言葉がぼくの頭の中を占拠した。すると
「あ!猫ちゃん!」
「…」
彼女はぼくの目をきちんと見て、不意にその言葉を漏らした。彼女は自分の声が予想よりも大きかったことに驚いて、辺りに人がいないか確認している。
「ふふ」
どうしよう…彼女がぼくに気付いてくれた。
どうしよう…すごく、すごく嬉しい。
どうしよう…嬉しすぎて笑ってしまう。
ぼく…変な顔じゃないかな?
大丈夫かな?
真っ赤な顔してないかな?
大丈夫かな?
彼女に変な顔の猫だって思われてないかな?
大丈夫…かな?
ぼくは今、どんな顔をしてるんだろう?
タタタタタン
ぼくは歩き出す。
彼女の顔を見ないで歩き出す。
彼女にぼくの顔を見せないために歩き出す。
すごく緊張する。
振り返って彼女がいなかったらどうしようって思う。
不安で振り返りたくなる。
ぼくは階段の前で一瞬止まる。
チラっとだけでも見ようかとも思うけど…ダメだ!怖くて振り向けない。
ぼくはタタン!と階段を上った。
七段目で立ち止まる。また緊張で体から体温がなくなり、手の先からぶるぶると震えはじめた。
どうしよう…
大丈夫かな?
追いかけてきてくれてるかな?
嫌われてないかな?
もし、もしいたとしても…うまくいくかな?
うまくいかなかったらどうしよう…
あぁどうしよう…
ダメかも…ダメかもしれない…
ぼくがそう思ったとき、横の手すりと手すりの間の茂みの中から声が聞こえた。
「クロ!ちゃんと、ちゃんと来てくれてるわ!頑張って!」
「め、メグ?」




