帰して!私をあの優しいお家に帰して!私の事が大好きで、私もあの人たちが大好きで、とってもとっても大好きなお家だったの!
「だって、見れば誰かわかるじゃない。あ、あそこの縄張りの奴だ!とか、この前変に声を掛けてきた奴だ!とか。そんなものにいちいち名前なんて付ける必要も、付ける意味もないじゃない。だってあの時のあいつ!よく見るあいつ!で全部わかるんですもの」
そう言ってメグはくすくすと笑った。
「じゃ、じゃあ君はメグじゃないの?」
「いいえ、私はメグよ。だって人間が私をそう呼ぶんだもの」
「じゃあ…」
「まあだから私が何を言いたいのかっていうと、名前があるの、名前を付けたがるのなんて人間だけってこと!」
彼女はすらすらと、そして淡々とはっきりした言葉で話しを続ける。
「人間は何か一つ一つを区別したがる生き物なの。私は人間と暮らしていてそう思ったわ。何かを勝手に区別して、何かを勝手に重宝して、何かを勝手に見下して、何かを勝手に共有して、意見が多い方に賛同して、何かを勝手に切り捨てる。自分の意見よりも相手の意見。相手が間違ったことを言っていても、それを大きい声や威圧的、何の根拠もない自信を持った声で言われると、勝手に私が間違ってたのかな?ってなって、簡単に意見を変える。私はそんな人間が大嫌い!」
メグは少し怒った顔で言った。メグはどうやら人間が好きではないようだ。ぼくはただただ圧倒されることしかできなかった。だけどメグはそう言いながら目に涙を浮かべているように見えた。メグはそれに自分で気付いていないようだった。メグは腹に溜まっていたものを吐き出すようにしゃべり続けた。
「人間は他の動物たちを下に見てたりしてるけど、動物たちは人間を(かわいそうで哀れな生き物)だと言ってるわ。これは言葉がわからない者同士でもなぜかわかる、数少ない共有された情報なの。自分を信じないで、他人も信じないで、小さな四角い何か得体のしれないものだけを信用する。感動することがあったら四角い何かを出し、嬉しいこと嫌なことがあっても四角い何かを出し、一日中ずっと、誰とも喋らずに、四角い何かを見ている」
メグの目から溜まった涙がポロポロと零れ落ちた。メグは眉間にしわを寄せ、いつの間にか怒った顔から悲しい顔になっていた。そしてメグは大きな声で言った。
「そんな四角い何かがあなたの友達、あなたの家族なら!私なんて連れてこなければよかったんだ!もともと私の事なんてそんなに好きでもないのに、私をあの優しい人たちから引きはがして、小さなお家になって、一人と一匹になって…あなたが私と喋らないなら、私に構わないなら、四角い何かを永遠に眺めているのなら、四角い何かとだけ喋っているのなら、私なんて連れてこなければよかったんだ!」
メグは月に向かって叫んだ。
「帰して!私をあの優しいお家に帰して!私の事が大好きで、私もあの人たちが大好きで、とってもとっても大好きなお家だったの!」
そう言ってメグは泣き崩れた。
「だから私!人間なんて大嫌い!!」
と月に向かって叫んでいる。ぼくはその様子をただただ見ていることしかできなかった。そしてメグは急にぼくをキッと見て、一度鼻をすすって少し落ち着いた口調で続けた。
「だから私、猫の姿をした人間のあなたも大嫌い」
え…?




