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3メートルのおとなりさん  作者: ガバディ
7/12

レイちゃんとはじめてのテレビゲーム

 レイちゃん一人が僕の部屋にやってくるというのは初めての事だった。もじもじしながら彼女は

「ゲームがやりたい」

そう言うのだった。

「仲間がやっているし、近所の子供たちも携帯ゲームで遊んでいるのをみて興味がわいた」

と続ける。

さらには

「どうせやるんだったら、みんなやってないような、つまらないゲームがやりたい」

何という事を言うのだ。

「そういうのをやって、みんなに自慢するんだ」

そんな、つまらないゲームだなんて、

―僕の部屋にはうなるほど置いてある―


 「ゲーム初心者なんだから、まずは少しだけ、普通の面白いゲームをやってみよう」

僕はゲームをしまっている棚から、古いハードを取り出す。クランコンピューター。一族皆で遊べるという、満天堂の大ヒットゲームハードだ。現在のゲームの歴史はここから始まったといっても過言ではないだろう。そしてまずは、

「そうだな、シューティングゲームでもやってみようか」

『グラ・ディース』。名作だ。自機をパワーアップさせながら進めていくこのゲームにハマった人は多いだろう。僕はやたらスピードアップさせることに夢中になっていたことがある。

「おお…これを取って、ボタンを押すのか…レーザーになった!」

レトロゲームだが、今遊んでもじゅうぶんに面白い。レイちゃんも口を半開きにして遊んでいる。

「さあ、次はこれだ」

ゲームオーバーになったタイミングで別のソフトに変える。

「ん?これもシューティングゲームだな…パワーアップは?」

「あるけど、さっきのとは違うから、このタイミングではできないね」

「…そうか」

一機やられながらも、レイちゃんはうまく自機を操作する。わりとセンスがあるみたいだ。

「!なにか出たぞ」

「それを取って…いいね」

一面クリア。

「うまいじゃないか」

レイちゃんもニコニコだ。

「このゲームは1ステージに1つ現れるさっきのアイテムを100個とらないとクリアできないんだ」

「!?」

『煩悩戦艦ガル』。ずっと同じBGMで同じようなステージを延々クリアしなければならない、もはや苦行のゲームだ。驚きを隠せないレイちゃんを尻目に次のソフトを用意する。

「RPGをやってみよう。『ワイバーンクエスト』だ。今も続く日本RPGの元祖みたいなものだよ」

発売日に行列ができたゲームはこれが初めてかもしれない。

「王様がお金くれた…もっとくれればいいのに。これっぽっちじゃ世界すくえない」

王様に対しての感想は宇宙共通みたいだ。

「おっ、敵か?こいつをやっつけるんだな?」

うん、面白い。レイちゃんはスライムを仕留めていく。

その間、僕は別のハードを用意した。SOMY・POLY STATION。通称ポリステ、次世代ハード。ここからゲーム人口が一気に増えたといえる、CDロムのゲームハードだ。そして、『真田の謎』。

「オススメRPGっていうシールが貼ってあるけど、オススメなのか?」

「いいや」

「…面白いんじゃないのか?」

「面白くはないよ」

「…あたまがヘンになっちゃったよ、とか言ってるけど、大丈夫なのか?」

「大丈夫ではないよ」

「…さっきのは上下左右、画面が切り替わって移動できたのに、なんでこのゲームは上にしか行けないんだ?」

「このゲームはね、上下にしかマップが切り替わらないんだ」

「!?」

「ちなみに、さっきやったシューティングゲームは『縦スクロールRPG』なんだ」

「!?!?」

次に用意したのは『スーパーアントニオブラザーズ』。イタリア人の配管工アントニオを操ってさらわれた彼女を救い出すという満天堂の世界的ヒットアクションゲーム。シリーズ累計3000万本以上の売り上げという、まさに名作。満天堂の看板商品だ。

「ほら、『?』マークのブロックを叩いてごらん…そのポルチーニ茸を取るとアントニオは巨大化するんだ」

「おお、意味はわからないけど面白いな…おっ、スッポンを踏んだらブニッてなった」

夢中になると口が半開きになるのも、宇宙共通みたいだ。

「面白い、これもっとやりたい」

「ダメだよ、次はこれをやるんだ」

用意したのはもちろん『スベランカー』。ゲーム界最弱と言われる主人公が洞窟を探検するゲームだ。彼は膝の高さの段差に落ちたら死ぬ。その次には『パンゲアの謎』、操作がシビアなうえ、スベランカー並みに死ぬ主人公を操るゲームが控えている。さらには、原作はレースアニメなのに、実際にはレース風すごろくゲームの『新世紀フォーミュラー サイバーグランプリ』というソフトも、虎視眈々とレイちゃんの精神を蝕もうと狙っているのだ。

「なんで?なんで今死んだ?」「こんなところ、ジャンプなんてできない」

レイちゃんは驚き、とまどっている。

「さあ次は格闘ゲームだ。『アーケードファイター2』を1ラウンド遊んだ後はこのポリステソフト『ファイティング・イヤーズ』をプレイするんだ」

『ファイティング・イヤーズ』はポリステ中期に発売された格闘ゲームだ。当時にあり得ない低クオリティ、爽快感のないアクション、ずれる効果音、はっきり言って全体的につまらない。おまけに画面右端は常にバグっていた。

「なんでこのゲームの説明書にはキャラクターの利き腕が書いてあるのに必殺技が書いてないの?なんでこのキャラは紙袋をかぶっているの?なんで…なんで…」

うつろな彼女の目に映っているのはゲーム画面ではない。絶望だった。

「君は僕にこう言ったね。『つまらないゲームがやりたい』と。だから君はこのゲームをプレイしなければならない」

『本家西遊記 グレートモンキー大冒険』。RPGだ。いや、このゲームがRPGなのかどうか、そもそもゲームと言えるのかどうか、僕は今でもわからない。

「さあ、見えないワープポイントを使ってゴールの天竺を目指すんだ」

レイちゃんは潤んだ瞳で僕を見つめ、力なく首を振る。その肩は小さく震えていた。

「解ったかい?つまらないゲームっていうのはね、本当につまらないんだ。つまらないゲームをふたつやるより面白いゲームをひとつ遊んだほうがいい…それは当たり前のことなんだよ。そのことに気づくまで、僕は3年かかってしまったよ…」

泣いていた。二人とも、泣いていた。


 つまらないゲームは、時に人の心を狂わせ虜にする。それは魅力というより魔力と言える。人は面白いゲームをやれば良い。つまらないゲームはクソゲーなどと呼ばれ蔑まれ、ゲームの闇の世界、すなわちゲーム売り場のワゴンへとその身を落とす。その闇に光を当てる必要など、別にないのだ。この現実世界に勇者は必要ない。闇を知らず、光の中で遊んでいればそれで良いのだ。それに気づいたとき、僕は解放された。あの無駄な日々を、この幼気な少女に覚えさせてはいけない。僕はゲームを愛している。愛しているからこそ、つまらないゲームは面白くないという事をレイちゃんに教えなければならなかった。

「いいかい?もう二度と、つまらないゲームをやりたいなんて言ってはいけないよ…」

「…言わない…もう言わない…」

この頬をつたう涙を止める術を僕は知らない。しかしそれは今、どんな宝石よりも美しく輝いていた。







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