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3メートルのおとなりさん  作者: ガバディ
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僕と大家さん

 ある日の夕暮れ、アパートに帰ってくると、大家さんが空を見上げていた。僕たちの住んでいるアパートのはす向かいに、大家さんの自宅がある。その庭で、大家さんは夕日を背に深い紺色に変わっていく空を見上げていた。

「こんばんわ」

「ん、ああ、こんばんわ、青木さん」

三田さんたちが引っ越してきてから、大家さんと話したのは初めてだった。

大家さんも地球人ではないという。そのことを、ちょっと尋ねてみたいと思った。

「あの、ぶしつけかもしれませんけど、大家さんも、その、宇宙人、なんですよね?」

「…三田さんから聴いたんだね。そう、わたしもいわゆる宇宙人だ。打ち明ける必要もないと、ずっと思っていたんだが…驚かせてしまったね?」

「あ、いえ、驚きはしましたけど、大家さん、やさしいから…」

「そうか。すまなかったね、ありがとう」

二人で微笑み合う。

「空…その、故郷の事でも考えてたんですか?」

「ああ、もうしばらく戻っていないよ。何十年かな、時々思い出してね、ああして見上げるんだ。地球からは見えないのにね」

「ずいぶん遠いんですね」

今のところ、地球の科学では地球上から観測できる惑星に知的生命体はいないとされている。三田さんもレイちゃんも大家さんも、その地球の科学の外の世界からやってきた。

「私はいろいろな星を旅してきた」

空を見上げながら、大家さんが語りだした。まるで僕の心を見透かしたように。

「私たちの星もね、進化の限界に達したんだよ。いや、私たちの星だけじゃない、他にもたくさんの星が発展し、進化の終着点までたどり着いている」

三田さんの言っていたことと同じだ。

「廃退していくしかないかもしれない故郷を憂い、ある星は他の星に新しい進化を求め、ある星は他の星を侵略する。私たちもそうだった。異星の文化を吸収し、自分たちの進化の糧としようした。様々な星を渡り、たくさんの文化に触れてきた。滅びてしまった星、滅ぼされてしまった星、これから発展しようと輝く星、我々と同じ志を持つ異星の友たち。いろいろな出会いがあったよ」

大家さんは懐かしそうに微笑む。

「地球にたどり着いたのは何年前だったか…まだ侍がいたころだったな…」

「そんなに昔から!?」

「ふふ、そうだな、君たちにしてみたら、だいぶ昔の事かもしれないね」

最低でも100年前には大家さんは地球に来ていた。ロズウェル事件よりもずっと前だ。ピラミッドは宇宙人が作った、なんていう話があったから、そう考えればあまり不思議じゃないかもしれない。

「あの頃、地球に降りた私はこの星の各地を回り、衝撃を覚えた。この星の人類の輝きはどうだ、なんてまぶしいのだろう。みんな実に生き生きとしていた。これからの自分たちの未来を必死に作り上げていた。私たちの祖先もかつてはこうだったのだろうか、そう考えた時、私はこの星に定住しようと思ったんだよ。この星の未来を見たいと思ったんだ」

「…」

「私が日本に来た時も、この国の人々はまさに変革の時を迎えていた。武士の時代から近代に。この辺りは、学校で習うような出来事だね。青木さんも習ったろう?衝撃的だったよ」

生き証人というのは、大家さんみたいな人のことを言うのだろう。

「私はここに家を構え、日本が変化していく様子を見てきた。あの頃はまだ戸籍標本なんかもずいぶんいい加減でね、定住してもなんの問題もなかったよ。今でもまあ、何か問題があれば意識操作でごまかせるがね」

大家さんでもそんなことしちゃうんだ…

「ここで暮らしていくうち、私はこの場所が好きになった。懸命に生きている人々も好きになった。大きな戦争や震災を乗り越えて生きていく人々が、大好きになったんだよ」

「…」

「そしてこのアパートを建てた。人々をより近くで見守っていきたいと思ったんだ。私は子孫を残せないからね、子供替わりと言ったら君たちには失礼になるかもしれないが、そういう心持ちになったんだ。そして今、私は青木さんとこうして語らっているんだよ」

「…」

うれしくなってしまった。この人はやっぱりやさしい人だ。この人に出会えてよかった。

「つまらない話だったかい?」

「いえ、ありがとうございます。お話が伺えてよかったです」

にっこり微笑む大家さん。

「あの子たちがここに来た時、私は嬉しくてね。アパートを建てて良かった、ここが地球と宇宙とのつながりの場になるかもしれないと、そう思ったんだ」

大家さんの視線の先に、二人並んで歩いてくる三田さんとレイちゃんの姿があった。こちらに気づいたようだ、三田さんが元気に手を振っている。

「青木さん、これからもあの子たちと仲良くやってください」

「はい!」

二人で、三田さんに手を振り返した。













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