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3メートルのおとなりさん  作者: ガバディ
12/12

僕らの、また始まる日々

 三田さんと出会ってから、どれくらい経ったろう。

 三田さんがいなくなってから、どれくらい経っただろう。

-ちょっと故郷に帰ります-

たくさんの植物の種、パック詰めの肉や魚、土や水のサンプル。それらを入れたビニール袋をぶら下げて三田さんがやってきたのはいつだっただろう。

 突然というわけでもなかった。里帰りの数日前に、そろそろ戻るかもしれない、とは言っていた。いつもの、変わらない日々。それが終わるという事を、ある程度覚悟はしていた。三田さんには使命があった。『地球の食文化を故郷の仲間に伝えること』滅びゆく故郷の再生のため、『食べる』という事を仲間に伝える。『食べる』ことに喜びを見出すことができれば、『食べる』ために『生産する』という行為がよみがえる。『生産』がよみがえれば、そのための施設の建築や土地の改良が行われる。今では失われてしまった、生きるための様々な文化がよみがえる。そして、滅びてしまった生き物たちも、また産まれてくるかもしれない。出会ったばかりのころ、自分が地球に来た理由を教えてくれた。何気ない生活のなかで、三田さんは食文化以外にも様々な地球の文化を、ごく自然に体験し吸収し、蓄積していった。いつか戻る故郷のために。


 アパートの隣人が引っ越していく。そんな、ごく普通の出来事が、こんなにも僕の中で大きくなっている。なんてことはない、三田さんと出会う前に戻るだけだ。そう思っていたが、そうはいかなかった。


 三田さんがいなくなってから数日後、レイちゃんの隣の部屋に引っ越してきた人がいた。祭り大好きウンモ星人・きららさんだった。以前、山奥の奇祭で出会ってから、三田さんやレイちゃんとはちょくちょく連絡を取り合っていたらしい。気の合った仲間たちの近くに住みたい、ということでここに越してきたという。レイちゃんは大喜びだ。きっと、三田さんも大喜びしただろう。

 きららさんが引っ越してきてから数日後、宇宙生物アーサーの飼い主が現れた。三田さんが迷子になっているところを保護してきた、ぶよぶよとした謎の生物。飼い主と連絡がつくまで預かるということで、アーサーという名前を付けて可愛がっていた。別れのその日、レイちゃんは泣いていた。きららさんの大きな胸で声を上げずに静かに泣いていた。きっと、三田さんも泣いただろう。あるいはレイちゃんを慰めたか。あの人だったら、泣きながら慰めて、慰められていたかもしれない。


 三田さんがいなくなってから、どれくらい経っただろう。

 僕らはまた山奥で褌一丁になり炭酸水を浴びせ合った。驚いたのは、その年の祭りのポスターに三田さんたちの水着写真が使われていたことだ。使いますよ、という事前連絡はあったが、まさかこんなにメインに据えられているとは思わなかった。そのポスターの影響だろうか、参加者が増えていたのがまた驚きだった。レイちゃんときららさんが女性陣のリーダーのようになり、祭りは大盛り上がりだった。


 僕らはまた「おもちゃのさいとう」の駐車場で車のおもちゃを戦わせた。レイちゃんに思いを寄せるけんじ君はしかし、その情熱を伝えられることなくまた決勝で敗れた。レイちゃんはV2を達成。試合前にどういう取り決めをしたのか、レイちゃんはきららさんに優勝賞品の「3000円分の商品券」を渡し、その胸をもてあそんでいた。


 三田さんがいなくなってから、僕は夜空を見ることが増えた。三田さんの故郷。どこにあるかもわからないし、地球から見えないことも知っているのに、僕は夜空を見る。あの星は何光年離れているんだろう。あの星から何光年離れているんだろう。


 今日も部屋の窓から夜空を見る。


 -ピーン・ポーン-


 チャイムが鳴る。


ドアを開けると、そこには、身の丈3メートル、例えるなら顔はスイカくらいの大きさの真っ赤なトマト、そこにオレンジの玉みたいなのが二つ、目?なのか?真っ黒なフードを被ったような、人間ではない何かが、両手にたくさんの野菜やパック詰めの肉・魚をいれたビニール袋をさげて、ニコニコしながら、アパートの廊下の低い天井にちょっと窮屈そうにかがんでいるのだった。









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