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3メートルのおとなりさん  作者: ガバディ
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僕と三田さんの出会い

ピーン・ポーン

「あの、私、隣に引っ越してきた三田ミタと申します。引っ越しのご挨拶に伺いました」

 インターホンから聞こえる声は、なんだかきれいなお姉さんを想像させた。

こんな、全部で4部屋しかない、しかも僕以外誰も住んでいない、どちらかというとオンボロな2階建てアパートに越してくるような女の人って一体どんな人なんだろう?

「あっ、こんにちわー、初めまして。これ引っ越しそばです、どうぞ」

ドアを開けると、そこには、身の丈3メートル、例えるなら顔はスイカくらいの大きさの真っ赤なトマト、そこにオレンジの玉みたいなのが二つ、目?なのか?真っ黒なフードを被ったような、人間ではない何かが、アパートの廊下の低い天井にちょっと窮屈そうにかがんでいるのだった。


 「青木宇宙さんとおっしゃる?『宇宙』と書いて『たかひろ』と読ませるとは、いやあなんとも珍しい地球人類名ですね?あ、お茶いただきます」ずずっ

「え…飲めるんだ?お茶?口ないのに、どうやって?」

「そりゃあもう皮膚から直接吸収ですよ」

「そうなんだ…いや、お客さんだから一応出してはみたものの、どうしようかって思ってたから」

この黒い服の、なんだかわからない生き物は、自分はいわゆる宇宙人だと名乗り、わけあってこのアパートに越してきたのだという。

「それにしても、私の姿を見て失神しない地球人類はなかなかいませんよ?大抵の人類は卒倒しますけど?」

「いや、まあ、驚いてはいるけど、それなりに勉強してたというか、なんというか。大丈夫だったみたいです」

 宇宙タカヒロなんていう名前を貰った僕の趣味は、やっぱりというか天体観測、そして宇宙のロマン『UFO』や『宇宙人』の研究だった。研究って言ったって別に大したこともない、好きだからいろいろ調べてるとか、その程度のことだ。今、僕の部屋のちゃぶ台で正座?をしてお茶をすすっているこの黒いのだって、本で見たことがあった。1952年9月12日アメリカのウェストバージニア州フラットウッズに現れたエイリアン、フラットウッズ・モンスター、通称『3メートルの宇宙人』だ。その見た目から一部で熱狂的ファンがいるという。じつは僕もソフビ人形を持っているくらいの宇宙人だ。身長は3メートル以上もあるのに乗ってきたUFOの全高は1.8メートルしかないとか、もうたまらない。何度も本を読みなおし、会いたい、とまで思ってしまっていた憧れの宇宙人なのだ。それが今、目の前にいる。気絶どころか、ちょっと舞い上がっている自分もここにいる。だからこんな状況も、割と大丈夫だった。

「そうですか、それは良かった、こんなに宇宙人怖じしないおとなりさんだなんて、私もうれしいですよ。あ、おせんべいいただきます」ズリョォっ

「ズリョォって…食べられるんだ?口ないのに?」

「そりゃあもう、接触部分から消化液を出して吸収しますよ」

「えぇ、まじかよ…」

「本当は、私たちの種族は食物で栄養を摂取する必要はないんです。だから口もない。皮膚から直接、大気や水分や栄養分を吸収してるんですよ。スゴイでしょ?」

「そうなんですか。?じゃあ、今僕に聞こえてる声って?口ないのに?」

「これはアレです、テレパシー的な感じで直接あなたの脳に語りかけてる的なやつです。よくありがちなやつですよ」

「なんか説明がフワッとしてるけど、やっぱりそうなんだ。すごい、こんなの初めてです」

 感動してしまった。脳に直接だなんて、日本中の中学2年生が一番体験したい出来事だろうに、この年になって経験できるとは。

「口といえば!あなた方のよく知ってるリトルグレイさん!彼らの種族は物を食べますよ!ズリョォ、ん、ようかんもうまい」

「ようかんまでいった…でも、口小さいから、あんまり食べられないんじゃ?」

「そうですね、基本は流動食のようなものです。でもイクときはTボーンステーキとかイってますよ」

「まじかよ…結構いけるクチなんだ…あっ、まさかキャトルミューティレーションて!?」

「そういうノリでやってるって、私の友達言ってました。『やっぱり疲れた時は肉が効く』とか」

「牧場主のおじさん、ただ食いされてるのか…」

「口のある種族、ない種族、地球人類に近い体形をしたもの、そうでないもの、みんなそれぞれの星で独自の進化をしてきました。なんとも不思議で、面白いですね」

 表情なんてないも同然の顔つきだけど、その時、ぼくには彼女?がニコッと笑っているように見えた。


「あの、ちょっと質問いいですか?三田?さん?」

「どうぞ、なんなりと!私たちが地球人類に興味があるように、あなた方も私たちに興味がおありでしょうから!ささ、遠慮なく!」

リンゴも一個食べきって、すっかりくつろいだ様子の三田と名乗る宇宙人はなんだかワクワクしているようだ。

「そもそも、なんで『三田』なんです?」

「ああ、『3メートル→サンメーター→サンミーター→ミタ』で、三田です」

「サンメーターって…じゃあ、昔地球にやってきて、3メートルの宇宙人って呼ばれてたの知ってたんですか?」

「はい、あの時地球に降りたのは私じゃありませんけど、地球人類が私たちをどう思っているのかは予め調べておきましたから。あの時の人、泣きながら帰ってきたってはなしですよ。『地球の子供たちにくさいって言われて逃げられた』って」

「メンタル弱いんですね…そういえば、三田さんはクサくないですね?」

「消臭スプレーふってきましたから!初対面で失礼があってはいけませんので!地球にはいいものがありますね!近所のドラッグストアで買ってきました!」

胸を張って自慢げだ。ん?買った?どうやって?

「あの、買ったって?その姿でどうやって?お金どうしたんですか?」

「お金はですね、地球に降りるにあたって、私の所属している組織から支給されるんです。拾ったやつ」

「拾った?」

「昔から私たち宇宙人の目撃報告ってあったでしょう?あれ、地球中に落ちているお金を拾いにきた部隊が見られちゃったりした例です。こつこつコツコツ、そりゃあもう気が遠くなるほどの時間と労力を使ってたくさんお金集めたんですよ!自動販売機のつり銭口パカパカしたり!」

「すげえな、頭わるいのかな…?」

「あと、姿ですけど、基本的には相手の意識をコントロールして、普通の地球人類の姿に見えるように洗脳してます」

「怖え、やっぱりかよ!」

「でも、初対面で失神するような相手には、ですよ。普段街を歩くような、不特定多数の人類のなかに出ていくときは自分の姿を変えます。こんな感じで」

そういうと、三田さんは一瞬で普通の人間に、いや、僕にしたらすごくきれいな、なんというか素敵なお姉さんの姿になった。このきれいな声のイメージそのものだ。

「ね!この姿で出歩くんです!」

「はー…すごい…」

見とれてしまった。3メートルの時の名残りといえば、黒づくめの服装と長い黒髪、オレンジ色のきれいな瞳、あとは身長が高く、スレンダーな体つき。いけない、これでメガネを掛けられでもしたら、僕はそっちに転んでしまう。

「でもこの姿してると疲れちゃうんですよ。だからあんまり長時間は出かけたくないんですよね。地球人類的にいえば、腕立て伏せ20回やった後くらいの疲れがでるから」

「大したことないじゃないですか…」

「?どうしました?なにかおかしい部分あります?」

まずい、凝視しているのに気づかれた。

「いや、全然!平気ですよ!いやあ、はは…」

「そうですか!よかった!」

三田さんの笑顔はとても素敵だった。


「じゃあ、これで失礼します。またお伺いしますね」

元の3メートルの姿に戻ってしまった三田さんを玄関まで送る。

「あの、三田さん」

「はい?」

「これからよろしく、お願いします」

「こちらこそ!よろしくお願いします!」

そういって、トマトのような顔がほころぶ。まだ出会って一時間くらいしかたっていないのに、今でははっきり三田さんが笑ったのがわかる。

「今度からは地球人類の姿で伺いますね!」

とてもうれしい一言を置いて、三田さんはとなりの部屋に帰っていった。













 

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