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女は幸福だったのか・・〜大都会の夜外伝 

女の足取りは重たかった。


一歩一歩ビルの階段を屋上へと登って行く・・・・・。

やっとの思いで女は屋上に出た。

深呼吸をして天空を見た。満月が女を妖しく照らしている。

胸を躍らせながら、女は東京に出て来た。しかし、恋人に裏切られ、やくざに弄ばれたそのDVDが街中に出回っていた。

「死のう・・・。」

女はそう決心して、このビルの屋上に来たのである。

苦労して女は金網の外に出た。

夜風が女の長い髪を揺らした・・・”神様、天国で私は幸せになれるでしょうか・・・?!”

ビルの遥か前方を、光の線となって列車が通過している。

女は眼を瞑り胸で十字をきった・・・・・・・・・・・。



「どうした?女神!何を泣いているのだ!?」

下界を見ながら泣いている女神に神は優しく聞いた。

「あの下界の女性が不憫ふびんで・・・。」 女神は泣きながら神に言った。

神は下界の女性を見てすべてを悟り、女神の肩を抱いて呟いた。

「・・女神、見てごらん今ビルの下を走り抜けて行った車を、愛人を殺してトランクに積め込み大都会の夜をさまよっている。そうかと思えば、今すれ違った車はハネムーンの最中の、希望に夢を抱いている若い夫婦だ・・・下界とはそう云う所だ・・・・・

・・・アッ!女神何をする。」


女神はその女が飛び降りた瞬間に、女を数か月前にタイムスリップさせた。

下界の人間に対してはご法度とされている天界の業である。

神はあたりを見回した。

「よし、どの神も気づいていない・・・。」

神はホッと胸をなでおろした。

「数か月だけど・・・幸せになってね・・・。」 そんな神の心配をよそに、女神は下界を見ながら呟いた。


女は目が覚めた。

隣を見ると見知らぬ男が寝ていた。”だれ、このひと・・?!”

女は、横で寝ている男の名前は勿論、自分の名前、記憶をも無くしていた・・。


俺の職業は報道カメラマンだ。しかし、今の俺は、女に食わしてもらっている唯のヒモのような生活をしている。

その女というのが不思議な女で、俺が朝目覚めると、その女が横に寝ていたのだ。女は、記憶を失くしていた。何を聞いても解からないと首を振るだけであった。

俺たちは、一緒に暮らし始めた。しばらして、女はスーパーで働き始めた。もちろん保証人は報道カメラマン?の俺だ。

その女が来て、1ヶ月位から俺の写真が売れ出した。今日発売の「週刊○×」にも、俺の撮った写真が、大きく載っている。


二人が同棲(?)生活を送って、はや数か月が過ぎ去っていった。

幸せの中にも、女は自分の過去の記憶がない事に、言い知れぬ不安を感じているのだった。

「今日は遅くなると、確か言っていた。」

女は夜空を見ながら苦笑いを浮かべた。天空には満月が輝いている・・。

”奇麗な月・・・。”

その時、女の中で何かがハジけた・・・・・・・・・・・・。

・・・時は来た・・女は全てを思い出した。

「私は、高層ビルから・・・。」

女は呟くと、その姿は蜃気楼のように・・・消えた・・。


俺は今、一流出版社の課長とナイトクラブで別れたところだ。

俺は女が待っているアパートへと急いだ。夜空には大きな満月が輝いていた。あるビルの側を通りかかったら、深夜にもかかわらず人々がたくさん居て、口々に喋っている。どうやら、高層ビルから投身自殺したらしい。

私は好奇心に駆られて、人の輪に近づいて行った。


「私は、女の人が落ちてくるのを見たのよ」と飲み屋風の女。

「あんた目撃者か・・!」野次馬たちが女を見てる。

「それが、おかしいのよ・・途中で消えたの・・・そして、闇の中から現れて、路上に激突したのよ・・」

「あんた、それは光の加減で見失っただけだよ」 他の野次馬も肯き合っている。

俺の好奇心は、今の会話で満たされた。何処かの女が、あのビルから飛び降りたらしい。

そんな事より早く帰ろう・・・女が心配している。俺は走った。頬に当たる風が、火照った顔に気持ち良かった。

大都会の闇が、まるで生き物のように息づいているのを、男は気付かなかった・・・。


「女神、気が済んだかい?! あの女性も、一時の夢を見て幸せだったろう・・・。」

神は優しく女神の肩に手をのせた。

女神は数回首を振りながら、

「・・・私には聞こえたわ・・閻魔大王の笑い声が・・。」



・・女神の眼から大粒の涙がこぼれおちた・・・・・。



             (完)





この、短編はズラえもん氏・ゴジラ氏との共作小説「大都会の夜」の中の”外伝 ”を加筆・修正した作品です。

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