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異世界探訪 初日

いきなり要人や勇者と対面です。


異世界セレブとは。

「それほどのこととは思わなかった」

「お前様、朕をなんだと思っておる」

魔王が拳を俺の顎に当ててくる。

殴られてはなかったが、グリグリと押し付けられては、気持ちは伝わってくる。


「ヘイカ、仲がおよろしいですね。臣下として、おともだちとして、うれしいわ」

キャスリーンは、嬉しそうに話す。

「へいかのほほえましいお姿は、こちらに来て初めてです」

ジャスパーも同じらしい。


「ウム、朕もこういう気持ちになるとは、思いもしなかった。お前様のおかげよ」

「大袈裟だよ」

褒められると照れてしまう。

それも大袈裟だし。


「ヘイカ、これからどちらへ?」

「うむ、ヤシロがブルゴータの見物をしたいと申すのでな」

キャスリーンは何か思うところがあったのか魔王に予定を尋ね、帰ってきた答えで表情を変えた。


「ヤシロ様、ヘイカに大禍をなすようであれば、お覚悟いただくことになりますわ」

フワフワした感じが冷気に変わったように錯覚するほどの視線を向けられる俺。


「え?プルコーダ(ここ)って、見物とかダメなの?」

俺は、正直驚いている。

彼女の地元を見学するのが、それほどのことなのかと。


「あなたにその意思がなくとも、記憶を覗かれては、侵攻の際には」

「キャス、行き過ぎた忠誠は、時に毒になろうことよ。あとお前様プルコーダではないぞ、ブルゴータよ」

キャスリーンの言葉を遮る魔王のそれは、凍てつくようにぞわりと広がった。


「あー、都合が悪いなら、別にいいよ。戦略上、知らないのが一番だもんな。拷問されても、答えようがないしな」

「ダメじゃ、お前様がそこまで言うなら、無理にでも見物して、記憶に刻み付けてもらおうぞ」

「おいおい。ムキになるな。たいしたことじゃないし」

「ブルゴータ、我が地、我が分身が、お前様にとって、大したことがないとな!」

「いやいや、見て回ることが大したことじゃないってことで」

「朕の身体も見たくもないとな!」

「・・・・わざとだろ」

「ギクッ」

「構って欲しいんだろ?」

「ギクギクッ」

プーリは目を逸らして、俺を見ようとしない。


「仕方ないな」

プーリの頭をポンポンと軽く手を当てて、クシャクシャと髪を弄る。

魔王は、目を細めてされるがまま、頭を差し出してくる。

この娘は、甘えたいのだ。

それが俺の仕事なんだ。


「お前様、朕は、朕は・・・・」

魔王は感極まったのか、抱き着いてきて、おでこを擦りつけてきた。

軽く抱きしめてやる。

「不敬罪で死刑だな」

「お前様に限っては、不敬は存在せぬ。むしろ、これは幾千金に値しよう」

彼女は、言い終わる前に腰に手を巻き付けてきた。


そのしぐさで、俺のが少し元気になったしまった。

「お前様、もっとシャキンとせぬか」

魔王に悟られた。

いい年こいて童貞並みに反応している自分が恥ずかしい。


「我慢できなくなったら困るから、これ以上はなし」

不敬かと思ったが、魔王を押しはがす。

「あん、・・お前様は意地悪じゃ。朕はもう」

いつの間にかプーリの胸がほぼ平らになっていた。

「やーめーてー」


 = = = = =


4人が仮設のテラスでお茶を嗜んでいる。

「先ほどはご無礼いたしました。家族の意味をはき違えておりました」

キャスリーンは、ころころと微笑んでいた。

「ヤシロ様は、どちらの方ですか?わたくし、諸国を旅しましたが、ご装束をお見受けしたことがございません」

「ジャー君もそうだったのね」

ジャスパーとキャスリーンは、プーリの振る舞いから俺の素性に興味を持ったようだ。

「ニッポンという国の出身です。ブルゴータ(ここ)ほどではありませんが、水に恵まれ人里離れれば自然の豊かな島です」

差し障りのない説明をしておこう。


「どこの島でございますか?」

キャスリーンが問いを重ねてきた。

俺は間近に座る魔王を見た。

彼女は特に意識することなくお茶を飲んでいた。


俺は、嘘で繕う必要はないと判断した。

都合が悪ければ、魔王が助け舟を出してくれるだろう。

「東の海にあって、大陸からは見えないけど、それほど遠くでもない」

まあ、ここが地球じゃないから、存在しないけどね。


「ところで魔王って、此処の支配者みたいな立場じゃないのか?」

「まさにその通り。朕がこの地を治め、魔族らを束ねておる」

俺の疑問に彼女は即答し、元に戻った胸を張る。


「うーん」

「急に唸って、どうしたのじゃ?」

彼女は不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。


「いやな、キャスリーンさんやジャスパーさんが頭を下げた俺に跪くというのに周りが全然気にしていないのがな」

「ふふふ、それはじゃな、魔王として民草の前に見参(げんざん)するときには変装しておるからな」

彼女が得意そうに言ったのが今一理解できなかった。


「十一候でもヘイカの素顔を知らない者がおりますよ」

キャスリーンの言葉は俺を驚かせた。

「有力者なのに知らないんですか?」

本人が目の前に居るというのに思わず質問してしまった。

「朕が教えてやろうぞ。領地が国境近くにある者たちはいつ記憶を覗かれるかわからぬのでな、知らぬほうがいいのよ」

「戦略上の方策か」

俺はシンプルな理由に納得した。

「それにじゃ、いやらしい目で見られるのが不愉快よ。気にいらぬからと言って頸を刎ねるわけにはいかぬし」

本当の理由がこっちだとすぐにわかった。


魔王を手に入れた時を想像する不逞の輩もいるだろう。

その視線は尋常じゃないのは想像に難くない。

美女と権力が目の前にあれば、邪な野心を抱くやつもいるだろう。


「そういや、最初に会った大男は、お前の顔を知ってたな」

俺が思い出したことを口にするとキャスリーンとジャスパーが固まっていた。

「あれは近侍でな、人族の兵士程度なら片付けようて」

「単純に頑丈そうだもんな」


「あ、あの。ヘイカ、お話中申し訳ございません、ちょっとよろしいでしょうか?」

キャスリーンがめちゃくちゃ躊躇いながら会話に割り込んできた。

「うん?キャス、どうしたのよ」

「ヤ、ヤシロ様がヘイカを【お前】とお呼びになったかと」

いつもと違うのかプーリは半ば心配そうにキャスリーンに尋ねると彼女は俺がお前と呼んだことを気にしていた。


「何かおかしいかや?」

プーリはコクンと首をかしげて不思議そうだった。

「い、いえ、おかしくはございませんが、そ、その・・・・」

キャスリーンは言葉を見つけられなかったようだ。


「えーっと、やっぱりマズかったかな?」

やっちまったか?俺。

急にほのぼのではなくなりました。

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