初めての異世界
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
ようやくファンタジーっぽくなってきました。
ではでは~
「うーん、飲み過ぎたか、風呂で眠って夢を見てるんだな、きっと」
俺は、見たことを全否定する。
そう、こんなことは、ラノベを読んでるとほぼ毎日起きていることだ。
今、向こうに異世界が広がっていて、ドラゴンが居たりするんだよ。
≪グルルル≫
へんな音が聞こえる。
≪グルルル≫
≪よしよし、お利口さんにしていたかい?≫
彼女だ。
彼女が撫でてるよ。
アレだよ。
ドラゴンだよ。
「悪酔いしてるな。・・・てか、飲んでないし。夢の方だな」
「お前様、入って参いられい」
彼女の呼ぶ声。
「おじゃましまーす」
夢だし、遠慮はいらないだろ。
「皆、下がれ」
≪ゾゾーーーゴソゴソ≫
何やら気配がするが、遠のいていく。
「大きな部屋だな≪ぁぁ≫」
今立っている場所だと声が反響する。
「ここまでは攻めきれなかったようで、助かりました」
彼女は、安堵しているようだ。
「攻められていたんでしょう?」
なんとなく丁寧に話してしまう。
「はい。打って出た後で、ここの護るために退路を消したのです」
「そのせいで、ウチの近所に?」
「はい。劣勢になりましたので逃げました。情けないことです」
彼女が打って出るってどういう状況だろう。
「国の方は大丈夫なの?」
「民草が心配です」
国家より国民を心配するんだ。
(いい子だな)
「日本にどうやって来たの?」
「越境した先は、行ったことのない場所だと、特定できませんので、偶然です。そして、感謝しています。お前様に会うことができました」
風呂の時と違って、表情はクールなままだ。
≪グルルルル≫
どこからかさっきのドラゴンが唸っている。
「お止め。ごはん抜きにしますよ」
≪クルルルル≫
彼女が諫めると唸りが寂しそうに変わった。
ドラゴンは、彼女に懐いているようだ。
感情があるのは、意外というかやっぱりというか。
爬虫類って、感情が判らない生き物だったと思い出した。
(俺は、噛み殺されそうだな)
「ところで、扉はどういうわけ?」
「はい。越境するためには、力が必要でしたので」
彼女は、心なしか恥ずかしそうだ。
「ふむ」
俺は、顎に手を当てて思案する。
「お、お前様!あまり深く考えずともよろしかろ!」
俺は得心いった。
「腹が減ると力が出せないとか?」
「にゃにゃ。なにをにゅう」
図星だった。
彼女の狼狽えっぷりは、半端なかった。
「大袈裟な反応だな」
クスっと笑ってしまった。
「お前様には、わかりません。朕は威厳を保たないといけないのです」
彼女は脹れる。
「かわいい顔して、威厳もあったモノじゃないと思うけど」
正直に言ってしまった。
一言多かった。
「お前様は朕を愚弄するのか!」
「え?そんなつもりはないけど」
彼女は機嫌を損ねたようだった。
否定したが、聞く耳を持とうとしないのは態度でわかった。
「悪かった。君がかわいいので、つい言い過ぎた」
年下が相手なのでついつい言葉が過ぎたよ。
彼女も人格があるのだから、気を付けよう。
「・・・」
「すみませんでした?」
「お前様は、卑怯です」
「申し訳ありませんです」
どうも彼女は怒りを治まらないようだった。
彼女がこちらにやってくる。
ジム通いしていた頃のジャージを着ている彼女。
風呂で見た姿が重なってしまう。
身体の輪郭が如実に現れている。
彼女の力だと俺の首くらい簡単に捻じ切るんじゃないと思えるが、なぜか身の危険は感じない。
彼女は、目の前までやってくると俺の首に手を掛ける。
いや、掛けたんじゃなく、回してきた。
少しばかり彼女の方が低い。
何も言わない彼女の瞳に吸い込まれそうになる。
神秘的な美しい金色の瞳。
時間が止まったように錯覚する。
何も言わず見つめ合うことになってしまった。
その沈黙を彼女の方から、終わらせる。
「お前様、朕は、魔王として魔族をまとめ、人間を滅ぼす。手を貸してくださいな」
「え゛!」
いかがでしたか?
人間に人間を滅ぼす手伝いをしろと無茶ぶりです。
次話をお待ちください。