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7月31日
10時30分位の出来事だ。
いつもとは違い仕事帰りではなく、この道を通るわけではないのであるが自然と足が向いてしまった。
周期が違うため、会えると期待はしていなかった。
でも毎回俺と会える日にだけに来ているとも考えられなかったし、いそうな予感も少なからずはあった。
「あれ、お兄さん?」
「おう」
いつものベンチに向かうと少女ちゃんは既に座っており、俺を見つけるなり少し驚いた顔で声をかけてきた。
「アイスでも食いに行くか。おごってやるぞ」
「いいんですか?」
「大人をなめるなよ、ガキにアイス奢る位どうってことない」
「……そんなこと言いながらもちゃっかり割引が効く日じゃないですか」
「……割引聞いたところで普通よりもだいぶ高いぞあの店」
「えへへ、ご馳走様です」
少女ちゃんとアイスクリーム屋さんへと向かう。
少女ちゃんの歩みは若いわりにゆったりとしていて遅い。
いや、もしくはただの身長差のせいでそう感じるだけかもしれないが。
「少女ちゃんは何味が好き?」
「僕はですね、あの体に悪そうなカラフルなやつですかね」
「ああ、あれか」
「あ、なんか少し予想外って感じの顔してますね。抹茶、とか落ち着いた感じのやつ答えた方が良かったですか?」
「いや、予想外でも何でもないぞ。少女ちゃんは割とその……」
「なんですか?」
「よくいってガキっぽい」
「よく言ってそれですか!?」
「悪く言えば大人びようと頑張っている――」
「それの方が普通よく言えばの方じゃないですか?」
「――マセガキ」
「両方とも結局悪く言ってるじゃないですか!」
「いや多分良く言ってるよ、多分」
「多分て……。まあ、いいです。お兄さんは何味が好きですか?」
「俺はだな、普通にバナナ」
「それ普通なんですか?」
「普通だろ」
「……お兄さんて割とずれていますよね、世間とかから」
「今更だな」
「開き直ってますねぇ」
「それが楽な生き方だぞ」
「……なんとなく心の片隅にとどめておきます」
「あんまり参考にしてもいいもんじゃないしほんとにこんなこと言ってる人がいたな程度にしとけよ」
「了解です」
そんなこんな話しているうちにアイスクリーム屋さんについた。
俺はカップのダブル、少女ちゃんはコーンのダブルを買い店を出た。
「いただきます。僕ダブルって実は初めてなんです」
少女ちゃんは目をキラキラさせながらスプーンでアイスをつつく。
しかしこの炎天下の中、いくら日陰でもアイスの溶けるスピードが尋常じゃない。
「わ、わ、下のアイスが上のアイスにつぶされちゃいそうです。あぁ、垂れてきたってか、落ちちゃいます! お兄さんお兄さん!」
コーンを選んだ弊害が少女ちゃんの身に降りかかっている。
スプーンを使う暇もないのかアイスを慌ててペロリと舐めている。
これを見れただけでもなんとなく奢ったかいがあったってもんだな。
助けを求められたから少女ちゃんのアイスの垂れそうになっている部分をスプーンですくい取って食べる。
「あ……」
「ん、どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです……いや、僕のアイスだけ食べられたのもなんか不公平なのでお兄さんのも少しください」
「いいぞ、ほい」
差し出してあげたカップをジィーっと見つめている少女ちゃん。
持っているスプーンがうろうろと迷っている。
「早くしないと自分の手元が今以上にひどいことになるぞ」
「えっ、ああ!」
少女ちゃんは手元を確認し、すぐ俺のアイスを一口食べた後自分のアイスにかぶりついた。
少女ちゃんの顔は少しばかり赤かった。
それからまもなく二人ともアイスを食べ終えた。
「……手がべたべたです」
「トイレならあっちにあったはずだし手洗いに行くか。それまで我慢できなければないよりましだがこれで拭いておきな」
ポケットからハンカチを取り出し少女ちゃんに渡す。
少し抵抗があったみたいだがすぐにハンカチを受け取った。
「安心しろ。まだ今日は未使用だから綺麗だぞ」
「折角かしてもらったのにそこは別に気にするところじゃありません。ただ汚してしまうことに抵抗があっただけです。それに僕がハンカチも所持してないみたいに思われていて少し……」
むすぅーッとしているが実際持っていなかったのか、これ以上は何も言ってこなかった。
手を拭いてから、ハンカチを自分のポケットにしまった。
「洗ってから返します」
「そこまで気を使わないでくれていいんだがな」
「デリカシーないですよ」
「そうか、それはすまなかったな」
「アイスご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「じゃあ、お兄さん、また、です」
「気を付けて帰れよ」
今日は少女ちゃんの方ももともとそれほど長くいる予定ではなかったのだろう。
公園に戻るなりすぐに俺たちはわかれた。