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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
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7月30日

 午前10時50分くらいの出来事だ。

 いつもより少し遅くなった俺がいつものベンチについた時には、すでにいつもの少女ちゃんが座っていた。

 鼻歌を口ずさみながら、重ねた手の親指をリズミカルにトントンとしている。

 手を重ねる時は左手が上かなどとどうでもいいことが頭に浮かんだ。

 だいぶご機嫌そうである。

 同時に隙だらけでもある。

 斜め後ろにいるのにもかかわらず未だに気付いた様子はない。

 あまりにも隙だらけであるので俺は我慢することができず――


「うひゃぁ!?」


 手に持っていた買ったばかりのジュースを少女ちゃんの首元に押し当てた。

 少女ちゃんはなかなか可愛い声で鳴いてくれた。


「な、何するんですか!?」

「軽いいたずら」

「もうっ! セクハラです!」

「悪かった悪かった」


 少女ちゃんに押し当てたジュースをそのまま手渡す。

 

「ほらお詫びだよ」

「……ありがとうございます」

「今日は遅くなったからいるとは思ってなかった」

「……もう10分も休んだら行こうと思ってたところでした。それにお兄さんだって、ジュースをわざわざ二本買ってありますしなんとなくいるとおもってたんじゃないんですか?」

「まぁ、ジュースは最悪帰ってから冷蔵庫にでも入れておけば問題ないしな」

「そうですか。……なんとなく待ち伏せしちゃったみたいで気持ち悪かったですかも、すみません」

「気にすることでもないさ。俺もいつもここで休憩してるし待ち伏せとは別物だろ」

「ふふっ、ありがとうございます」

「でこんなところで休憩していた少女ちゃんは暇なのか?」

「はい、暇ですよ!」


 少女ちゃんの期待のこもった目がなんとなく眩しい。


「お話でもするか」

「はい、その言葉を待ってました」

「こんなおじさんなんかと話して楽しいか?」

「まだおじさんって歳でもないでしょ」

「話すったって話題が無いだろ」

「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」

「そんな話俺は出来んぞ」

「ははは、僕もだよ」

「だったら意味ないじゃないか」

「ならさ、心理テストの本を持ってきたんだけどこれをやってみないかい?」

「心理テストの本?」

「うん、楽しそうじゃないですか」


 心理テストか、一時期流行ったな。

 俺みたいなおじさんは割と何回もやった内容かもしれないが少女ちゃんとかの年齢の子には目新しくて面白いのかもしれないな。


「わかった。やってみるか」

「なんだかわくわくしますね」


 無邪気なもんだな。


「じゃあ一個目のやつやってみましょう。『貴方はとても長い等を登っています。しかし、登っている途中で貴方は疲れ果ててしまいました。この時、あなたが自分自身を励ます言葉として使うのは以下のうちどれ?

1、辛くて当然だからまだまだ頑張ろう。

2、これくらいどうってことない。

3、もうすぐ頂上だからあと少し頑張れば出来る。

4、ここまでよく頑張れたな』だって。お兄さんはどれ?」

「俺は4かなぁ」

「僕は3かな。答えを見てみます。これは貴方が上司になった場合の部下に対する説教を現します。4を選んだあなたはまず労いの言葉をかけることが重要、と言う論を重視しています。だって」

「ほう、俺はねぎらいの言葉をかけることから始めるのか」

「流石お兄さん、優しいです」

「めんどくさいから怒れないだけのような気もするがな。それに元は自分を励ます言葉だろ。ただ自分を甘やかしたいだけだよ」

「それでもちゃんと褒めてくれる人はいいい人だと思うよ。僕だったらそんな上司ならどんな会社でもやっていけそうだと思うし」

「……そんなに社会は甘くないぞ」

「それでもです。じゃあ次は僕の答えの方を見てみるね。3の人は頑張れば何でもできるという論を重視しています。だって」

「当たってるか?」

「う〜ん、どうだろ、何か外れてるっぽいかなぁ。僕、頑張った所で無理なことはあると思ってるますし」

「ほう」

「そもそも部下ができるイメージが分かんないです」

「その年じゃそれもそうだろうな」

「よし、気を取り直して次の問題いってみよー。次はどれにしようかな。っと、これにします。

『貴方はドラマのプロデューサーです。そのドラマに脚本家が4つのシーンをかきましたが、時間の関係で3つのシーンしか放映できません。あなたはこの四つのシーンのうちどのシーンを選びますか?

1、主人公が親友を事故から救うシーン

2、主人公が恋人とデートをするシーン

3、主人公がビジネスで成功するシーン

4、主人公が死にそうな母親の見舞いに行くシーン』だって、お兄さんはどのシーンを外します?」

「3かなぁ」

「僕は重いドラマとか好きじゃないし4を外すかなぁ……。結果を見てみるね。この心理テストではどのシーンを選ばなかったかと言うのがポイントになります。選ばなかったものが1か4だった人は、自分を中心に考える傾向にあります。逆に選ばなかったものが2か3だった人は自分よりも他人の幸せを追求する傾向があります。要するにどれを一番に切り捨てるかと言うテストだって。お兄さんが外した3は仕事を切り捨てるんだって」

「少女ちゃんの4は?」

「……家族だって」

「家族か。少し意外だな」

「そうですかね?」

「今までの会話からは友人とか切り捨てそうだけどな」

「なんてこというんですか!?」

「まぁまぁ、気を取り直して次行こうか」

「むぅ……ごまかされている気がしますがまぁ、いいです。次行きます。『今日はとてもいい天気です。なので恋人とデートに行くことにしました。さて車の色は何色ですか? 赤、青、黄、白、黒、虹、透明から選んでください』ですって」

「なかなかにファンタジー色が混じってるな」

「近未来的でいいじゃないですか」

「お、少女ちゃんは透明か?」

「それとこれとは話が別です。僕は赤ですかね」

「俺は……直感で選んで虹か」

「うわぁ……。僕だったらその車でデートはごめん被りたいですね」

「まぁ、そういうなって。で、結果は?」

「えっと、赤はいつも自分を燃えさせてくれるモノを探しているタイプ、だそうです。で虹は……常識が足りないみたいです、まったくもってその通りかもです」

「そいつはちょっと失礼じゃないか?」

「いや、虹色車はちょっと擁護できないって言うか……。実際にそこら辺を走ってる姿を想像してくだ――」

「そいつはきついな」

「即答じゃないですか。わかってるならデートに乗ってこないでくださいよ」

「ん、まぁ、うん? 俺とデート行くのか?」

「行きませんよ」


 若干そっぽを向きながら少女ちゃんは答えた。

 顔はよく見えない。


「さ、次行きますよ。『貴方の家の庭には一本の大きな木があります。ある冬の寒い夜、雪が降りました。その大きな期にはどれくらい雪が積もっていますか?

1、ところどころにつもった

2、つもらなかった

3、全体的に厚く積もった

4、埋もれて見えなくなるくらい積もった』。どれを選びます?」

「俺は4かな。実家じゃ動けなくなるくらい積もるとかざらだったからな」

「そうなんですか。僕は生まれも育ちもここらへんなのであんまり積もってるイメージわかないので1ですかね」

「結果は?」

「えっと、1の『所々に少し積もった』を選んだあなたの露出欲求度は80%です。露出したい欲求が溜まっていると言えます。自分をさらけ出したい、素の自分を見て欲しいという思いが溜まっているようです。なんですか、これ、全然当たってませんよ!」

「ほう、少女ちゃんは脱ぎたがり屋さんか」

「セクハラですっ! 勝訴しますよ」

「勝つ前提かよ……。それで、俺の方は?」

「4の『埋もれて見えなくなるくらい』を選んだあなたの露出欲求度は100%です。見えないところでスリルを楽しむ変態野郎さんです」

「はいはい、で、本当は?」

「……4の『埋もれて見えなくなるくらい』を選んだあなたの露出欲求度は0%です。露出がないどころか殻に閉じこもってしまっている状態かもしれません。秘密主義で、周りとの会話も煩わしいと思っていませんか? ……そうなのですか?」


 少女ちゃんは上目遣いで俺に尋ねてきた。

 可愛い。

 おっといけない何でもない。


「そんなことはないこともないかもしれないことはない」

「どっちですか!?」

「ほんとに煩わしかったら今日もわざわざジュースを持ってここになんて来てないだろ」

「……えへへ」


 少女ちゃんは年相応のキラキラしている笑顔でとても愛らしかった。

 おじさん(24)はこんな時代無かったなぁ。


「まぁ、俺はそこそこ楽しんでるよ」

「ならよかったです。そろそろ時間なので行かないといけないんですけど、この続きはまた今度やりましょう」

「次あったときか?」

「いえ、次話題が無い時です」

「……おう」


 何回も会うことが前提になってきている。

 悪い気分ではない。

 妹がいたらこんな感じなのかな。


「ではお兄さん、また」

「気を付けて帰れよ」

「お兄さんも、田んぼとかに落ちないようにね」

「……おう」








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