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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
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7月27日

 午前10時30分くらいの出来事だ。

 仕事につかれた俺は、帰り道、公園のベンチで座り込んでいた。

 とても暑いこの時間帯だが、ベンチは木陰となっており少しばかり快適である。

 

「お兄さん、おはようございます」

「ん、また会ったな」

「そうですね」


 少女ちゃんが挨拶をしていつものように隣に座る。

 いつもといってもまだ三回目だけれど。


「お兄さんもいつも通り暇ですよね」

「いつも通りだな」


 少女ちゃんもいつも通りと言う言葉を使った。

 考えてる事はだいたい同じか。


「お話ししましょう」

「こんなおじさんなんかと話して楽しいか?」

「まだおじさんって歳でもないでしょ」

「話すったって話題が無いだろ」

「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」

「そんな話俺は出来んぞ」

「ははは、僕もだよ」

「だったら意味ないじゃないか」

「ならさ、ドジった話をしてよ」

「今日は『してよ』か……」

「うん、僕も話すけどやっぱここはガキのちっちゃい失敗なんかよりも大人の経験談とか聞いてみたいじゃないですか」

「俺はそんなに経験豊富じゃないぞ」

「この前、大人だからな、とか言ってたじゃないですか」

「いや、まぁ、言ったような気もするが……」

「いいじゃないですか。教えてくださいよ」

「ドジった話ねぇ……。大した話じゃないんだがそれでもいいか」

「もちもちです!」

「そうだな、話をしよう、あれは今から36万……いや、1万4000年前だったか、まぁいい、私にとってはつい昨日の出来事だが、君たちにとっては多分明日の出来――」

「一番いい話を頼む」

「突っ込むのが早いってか、知ってるんだなこのネタ。こんな話で大丈夫か」

「大丈夫だ、問題ない」

「じゃあ気を取り直して話を続けるぞ。レポート……まぁ、宿題の事だな。宿題が忙しくてまともに寝る時間もなかった時の話だ」

「そんなに忙しかったんですか?」

「あぁ、書いても書いても再提出になって、どんどん宿題が積み重なっていくって言う現象が起きてた」

「うわー、恐ろしそう」

「小中学生なら義務教育だから出さなくても最悪関係ないだろうがその時は専門生、大学生みたいなもんなんだが宿題を出さなきゃ安くない金額を払ってもう一年、てことが普通にありうるんだ」

「留年ですか……。もう一年同じ授業を一個下の人たちと受けるってどんな気分なんでしょうね……」

「幸いそれは回避できて何よりだよ」

「やっぱ肩身が狭いって言うか、居場所がないんでしょうかね?」

「そうなんだろうなぁ……。実際に留年したら学校やめる奴多いし。高校とかは特にそんな感じのイメージがある」

「やむを得ない理由で一個下と一緒に勉強しなきゃいけない場合ってどうなんですかね?」

「全く知らない場所で一からやり直すとかじゃないか?」

「年齢の事とか隠すんですかね?」

「人によるんだろうが、俺だったらなんとなくだが後ろめたいし聞かれなかったでしばらく通すと思うぞ。いずれ隠し切れなくはなるだろうがな」

「僕だったら……かくすんですかね? なんとなく友達ができてるイメージがわかなくて隠す必要性すらない可能性があるんでよくわかんないです」

「おいおい、友達いるんだろ?」

「……いますよ。ただ1からとなると作り方が分かるかわかりません」

「それはあるかもしれないな」

「お兄さん、新しい環境、そうですね、高校って事にしておきます。高校に入学した時新しい友達はどうやって作りました?」

「高校か。高校の時は中学からの友達がいてな、そいつはカリスマ性があるってか、よく人を引き付けるよう奴だったんだ。そいつが俺の回りをうろちょろとしてたら自然に俺にもできてたな」

「……お兄さんが1から友達を作ったのはいつが最後ですか?」

「一応専門生時代は誰もいないところからスタートだったぞ。そのさっき話した友達がいないから最初の方は全然人が寄ってこなくて友人なんてどうやって作るんだっけってことになったが俺が言ってたところは女が多くて男が少数でな。そのうえ講義が難しいから団結しないとやっていけなくて自然と友人と呼べるものは出来てたな」

「女性ばかりですか……」


 少女ちゃんが少しばかり不機嫌そうな顔になった。

 何を考えているのかよくわからん。


「お兄さんは天性のたらしですか?」

「女がいたところで素が良くない俺がモテるわけないだろ」

「どーですかね。お兄さん普通に受け悪くなさそうじゃないですか」

「どーだろね。ただ専門生時代は彼女はできなかったしモテては無かったな」

「ふーん」

「なんとなくとげを感じるぞ」

「別におかしなことは考えていませんよ」

「そうか、ならいいが」

「話は戻ります……ってか少し変わりますけど、何も共通点が無い集団の中で友人なんてできますかね」

「なんだその仮定。共通点が全くないってどんな状況だよ」

「えーっと、例えば無作為に神に選ばれて複数人が異世界に召喚されたとか」

「唐突なファンタジーだな。そっちの話がいける口か」

「むぅ、笑わなくてもいいじゃないですか。一生懸命考えたんだから」

「悪い悪い。で異世界召喚だったっけ」

「はい」

「それは多分だが仮定が成り立たない。年齢や性別、他にも元の世界とかが違ったところで『召喚された』もしくは『選ばれた』っていう共通点ができちまうからな。そいつらはまとまったりするのはだいぶ簡単だと思うぞ」

「……理屈はわかりますが屁理屈を聞いている気分です」

「理屈も屁理屈も変わんないさ」

「なら……う〜ん……」

「何も共通点が無いってのは難しいと思うぞ。俺なら屁理屈こね回して返しきれると思う」

「僕の完敗です」

「完敗も何もないだろ」


 いつから勝負になっていたんだと俺は苦笑を漏らす。

 少女ちゃんは悔しそうな顔をしている。

 不覚にも少し可愛いと思った。


「お兄さんは男の人と女の人、どちらの方が仲良くなるの得意ですか?」

「俺は同性の方が仲良くなりやすいな」

「ちょっと意外かもです」

「さっきの話から意外性も何もないだろ」

「それでもお兄さんは僕からしたらモテそう……ってか女の人が自然とやってきそうな雰囲気を醸し出しています」

「なんだそれ」

「僕のイメージの話なのです。気に入らなければスルーしてください」


 よくわからんがここはお言葉通りスルーさせてもらおう。


「で、話の続きはなんだ?」

「『オタサーの姫』って知ってます?」

「むしろお前が良く知ってるな」

「知識は財産です」

「前も言ってたような気がするなそれ。座右の銘か何かか」

「そんな感じです」

「オタサーの姫だったな。さえない男ばっかのグループに女が一人入り込めば、その女がパッとしなくても、ちやほやされるって意味だろ」

「知ってるなら話は早いです。お兄さん、さっき女性が多くて男性は少ないクラスとか言ってましたね」

「あぁ、そうだな」

「オタサーの姫の逆はなりえなかったんですか?」

「女ってのはシビアなもんでな。逆はまずないぞ」

「イケメンに限るって奴ですね」

「そうだな。てかそこら辺の知識は財産にする価値が無いぞ」

「いえいえ、重要な財産です」

「そうかい」

「で、お兄さん、実際はちやほやとかほんとになかったんですか?」

「体のいい力仕事担当としてしか扱われなかったな」

「現実はそんなもんなんですねー」

「ああ」

「やっぱ友達作るのって難しいですね」

「最初の一言の勇気が出せれば大丈夫だろ。俺に話しかけてきたみたいに」

「……あれもなかなか勇気出したんですよ」


 ぼそりと少女ちゃんが何か言ったが俺は聞こえなかったことにした。


「それは置いといて、お兄さん、話を一番最初まで戻しましょう」

「んん、あぁ、そういや元はドジった話だったな」

「そうですそうです。お兄さんの盛大にドジった話まだ聞いてませんよ」

「なんかすごい引っ張った形になっちまったけどほんとにくだらないからな」

「楽しみです」

「忙しくてろくに眠れてないってところまでは話したよな」

「はい」

「道と少し段差がある水の張ってあった田んぼの近くをチャリで走ってたんだが、その田んぼを見つめながら子供がぽろぽろと涙を流してたんだ」

「思ってたのと大分どころかとてつもなく違う展開ですね」

「いくら眠くてもそのまま素通りするのは目覚めが悪くてな、しょうがなく立ち止まって声をかけたんだ。『何してるんだ?』って」

「優しいですね」

「でもその子は一瞬びくっとしただけで泣き続けてろくに話もしなかった。しょうがないっちゃしょうがないんだが」

「それでゆっくり泣き止むのを待ってあげたんですか?」

「いんや。とりあえず近くに行こうとチャリから降りたんだがそこで足をもつれさせてな」

「え」

「俺は盛大に田んぼにどっぼーーーんだ、チャリごとな」

「……」

「俺は見事に泥人間だ。子供の方は少し泥がはねただけで巻き込まなかったのが不幸中の幸いだった」

「うわぁ」

「唐突な出来事に流石に泣き止んでな、その後にあろうことか笑い始めやがった」

「笑われてもしょうがないと思いますよ」

「辛かった。泥だらけのチャリを田んぼからサルベージした時、奇跡が起きたのか泥だらけのペンダントのような物がチャリに引っかかっててな。そのペンダントがその子供が泣いていた理由だったっぽい。もう眠いし泥だらけだったしで早く帰りたくてよく覚えてないんだけど」

「……あるんですねそんなこと」

「人生何が起こるかわからんぞ」

「……肝に銘じときます」

「ってことでこれが俺の盛大にドジった話だ」

「お疲れ様でした。割と面白かったです」

「ん、さんきゅ」

「じゃあお兄さん、僕そろそろ行くね」

「おーう。気を付けて帰れよ」

「はーい、また今度もお話ししてくださいね。話題なんかしいれておきます」



 手を振って歩き始めた少女ちゃんは最後に一言


「きっとその女の子は今でも泥だらけのヒーローさんに感謝してますよ」


 と呟いていった。

 感謝されていようが人の出会いは一期一会。

 もう会うことは無いだろうし気にすることでもないな。

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