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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
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8月30日

 午前10時40分頃の出来事だ。

 俺はいつも通りベンチに座り休んでいた。

 とても暑いこの時間帯だが、ベンチは木陰となっており少しばかり快適である。


「おはようございますお兄さん」

「おはよう少女ちゃん」

「……もう8月も終わっちゃいますね」

「まだまだ暑いがな」

「そうですねー。まだまだ、汗で気持ち悪い季節です。所で、お兄さん、今暇なんですか?」

「暇っちゃあ暇だな」

「そっかー、僕も暇だから少しお話ししてよ」

「こんな初対面のおじさんと話なんかして楽しいか?」

「まだおじさんって歳でもないでしょ」

「話すったって話題がないだろ」

「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」

「そんな話俺は出来んぞ」

「ははは、僕もだよ」

「だったら意味ないじゃないか」

「ならさ、自分にだけしか見えていない世界の話について話そうよ」

「自分だけにしか見えていない世界の話?」

「うん。別にファンタジーな話をしようってんじゃないよ」

「現実的で自分にしか見えていない世界の話ねぇ……」

「例をあげればさ、映画にもなったとある天才数学者の人の話なんだけどさ」

「なるほど、統合失調症か」

「流石お兄さん、理解するのが早いですね」

「見たことあるからな」

「それなら話は早いです。彼は自分にしか見えていない世界があったんです。彼の眼には確かに友人がそこにいたのかもしれない」

「人が見えているものと自分が見えているものは違うかもしれないって話か」

「はい。そういうことです」


 言い切ると同時に少女ちゃんが視線を誘導してきた。

 誘導された先には犬の散歩をしている親子がこちらを見ていた。

 


「ねー、あの人、なんで一人で話しているの」

「しっ、見ちゃいけません!」


 やけにはっきりと親子たちが話している会話が伝わってきた。

 それにはっとして少女ちゃんを見つめる。


「……つまりそういうことです」

「……よくわからんな」

「お兄さんが見ている光景は本当に現実ですか?」

「これが現実以外の何だって言うんだ」

「中学生くらいの女の子が話かけてくるなんてありえますか?」

「普通は無いと思ってたな」

「僕は本当に実在する人物ですか?」

「……」

「お兄さんにしか見えていない世界だけに登場する人物って可能性、考えたことありますか?」

「あるわけないだろ」

「僕はお兄さんにしか見えていない存在かもしれませんよ。そうだったらどうします?」


 少女ちゃんが俺を試すように問いかけてくる。

 俺は少女ちゃんの頭をぽんぽんと撫でてからその手をほっぺたへと持っていく。


「しっかり触れるな」

「さ、さわれるのは脳がそう認識しちゃってるからじゃないですか?」


 少女ちゃんに顔を近づけ匂いを嗅ぐ。


「いい匂いもする」

「げ、幻臭じゃないですか?」


 いつもならここらへんでセクハラです!とか言われるのだが今日の少女ちゃんはまだ耐えている。


「もしも少女ちゃんが俺にしか見えてなくて触れもしない存在だったら……」

「だ、だったら……?」

「いっそのこと食べてしまおうか」

「はうぅっ!?」


 ノックアウト。

 ゆでだこのように真っ赤になってしまった。

 ここまでこみで俺の幻覚だったらもう末期だよな。

 おもちかえりぃ〜できてしまうな。

 まぁ、それはそれでありかなどと考えてしまう自分はもしかしなくても末期であった。


「少女ちゃん、あそこまでしこんでやることがこれとはちょっと趣味悪いぞ」

「し、仕方がないじゃないですか。逆にお兄さんが僕にしか見えていない可能性だってあるんですから」

「ほう、それはどうして?」

「普通ここまで優しくしてくれるようなお兄さんはいないからです」

「優しくした覚えはそこまでないがな」

「……それは少し客観的に見れていない気がしますよロリコンお兄さん」

「俺はノーマルだ」

「……だとしても女の子の匂い嗅いだりあまつさえ唇まで触ったんですよ? これは訴えられたら負けますよ」

「訴えられたらまず負けるな」

「そこの自覚はあるんですか……」

「危ない橋はわたりかけている自覚はある」

「危ない橋とか失礼です」

「少女ちゃんとは一緒にいるだけで危ない。なんたっておじさんが挨拶しただけで通報されてしまうような世の中だからな」

「いろいろ大変ですね」

「俺みたいなおじさんには生き辛い世の中さ」

「まだそんな歳でも無いでしょ」

「ありがとよ。そう言ってくれるのは少女ちゃんだけさ」

「そんなこともないと思いますけど。っと、そろそろ時間なので僕、いかなくちゃです」

「おう。気を付けて帰れよ」

「はい。ありがとうございました」

「ん」


 少女ちゃんは珍しく大きく手を振って帰っていった。

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