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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
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8月23日

 大体午前9時半位の事だ。

 俺はいつもの公園に約束の30分前にたどり着いた。

 ベンチに到着すると同時に少女ちゃんも同時にたどり着いたようだ。

 陰でこっそり待ってタイミングを合わせたというものでもない限りはぴったしである。


「あ、お兄さん、おはようございます」

「おはよう、タイミングぴったしだね」

「そうですね、っていってもまだ約束の30分前ですよ」

「少女ちゃん、もう少し遅れてきてくれないと俺がカッコつかないぞ」

「そのままでかっこいいから大丈夫ですよ」

「そうかい、ありがとよ」


 少女ちゃんのお世辞を軽く受け流し、少女ちゃんの格好を見る。 

 キャップタイプの帽子をかぶり、後ろの穴から髪の毛を出し、ポニーテールとなっていた。

 服装は半袖のチャックが付いているパーカーのチャックをある程度まで上げ、ジーンズと言うボーイッシュにしている。

 似合っており普通に可愛いのだが、色々考えたであろうことがうかがえる。

 デートだしスカートの方がいいかな、でも恥ずかしいからやっぱりジーンズで……的な?

 俺のただの想像だが。

 ただ、俺の好み的には、下のジーンズがハーフパンツで二ーソでもはいてれば……なんでもない。 


「お兄さん、じろじろ見すぎです」

「すまんすまん」

「その……なんか変なところありますか?」

「いや、普通に似合ってて可愛いよ」

「えへへ、ありがとうございます」

「で、行きたいところはありますかお姫様?」

「お兄さんが連れて行ってくれるならどこへでも……は流石に困りますよね」

「まあな」

「んー、なら服を見に行きたいです」

「服か」

「……意外ですか?」

「そうっちゃそうかもしれないしそうじゃないっちゃそうじゃないかもしれん」

「いや、意外であろうことは僕自身しっかりわかってますよ。ただ、定番っぽいじゃないですか」

「定番なのか」

「多分です」

「定番なら仕方ないな」

「そうです仕方ないのです」

「とりあえずあのカオスな商店街でいいか?」

「無問題です」


 少女ちゃんの許可を得たところで電車の方へ向かおうとする。

 が、少女ちゃんはなにやら言いたそうな顔でこちらを見ていた。

 手をもぞもぞさせてる時点で察せてしまった。

 少し恥ずかしいがまぁ、今日は俺は奴隷だからな。


「あっ」

「いくよ、少女ちゃん」

「……はいっ!」


 可愛い。 

 ムニムニを楽しみつつ改めて、電車の方へと向かう。

 とりとめのない会話をしながら目的地へと向かった。

 

「少女ちゃん、おみくじとか興味ある?」

「あります!」


 電車から降り、目的地に向かう道中にあるお寺で軽い参拝をしつつおみくじを引く。


「これにします」

「少女ちゃんどうだった?」

「……可もなく不可もなく吉です」

「そいつはまぁ、悪くは無いな」

「お兄さんはどうです?」


 少女ちゃんに聞かれ、引いたおみくじを見るとそこには大吉と書かれていた。

 

「おっ、大吉だ」

「流石お兄さん、持ってますね!」

「えーと、何々」


 大吉をひき嬉しかったが読み進めるにつれてこれは本当に大吉か不安になってきた。


「『願い事……できないようで危ないですが適うでしょう』、『待ち人……支障があってこないようです』、『失物……出難いいです。下の方にあるようです』、『旅行……盗難に注意していくことです』、『商売……買うのはよくありません』、『学問……安心して勉強しなさい』、『方向……西と南の間ならよろしいでしょう』、『争事……時がたたないと勝てないでしょう』、『求人……気に行ったようになります』、『転居……行かないがよろしいでしょう』、『お産……軽くありません、用心してください』、『病気……意外に長引きますが心配ありません』、『縁談……親類の妨げがあってすぐにはまとまらないでしょう』、ネガティブなことばっか書いてあるがこれ本当に大吉か?」

「おもしろいですね、お兄さんの」


 キャッキャと笑っているが俺的には笑えない。

 これ結んでいった方がいい奴かもしれないぞ。

 

「親類の妨げ……」

「少女ちゃん的にはそこが気になるのか」

「……いや、お兄さん名家の生まれかなんかですか?」 

「そんなわけないだろう。普通に公務員の息子だよ」

「どんな相手を選んだら妨げなんか入るんですかね」

「……さあな」

「……」

「俺じゃなくて相手の家の妨げかもしれないぞ」

「あ、それは無いと思います」

「なぜ少女ちゃんが断定できちまうんだよ」

「……秘密です」


 にこやかに笑う少女ちゃんが可愛いからとりあえずこの話は置いておこう。

 何気にこの話は危ないような気もするし。

 話を切り上げ、本来の目的へと向かう。


「お兄さん、お兄さん」

「なんだ?」

「お兄さんには、僕を着せ替え人形にする権利を与えましょう」

「そいつは光栄だな」

「可愛くしてくださいね」

「元から可愛いから大丈夫だ」

「……」


 攻撃を仕掛けたつもりが反撃を受けたようで少女ちゃんは真っ赤である。

 反撃を受ける前からすでに真っ赤だったが。

 ふざけることをほどほどに少女ちゃん着せ替え人形ゲームを開始した。

 とりあえずさっき言った通り短いジーンズを見つけ少女ちゃんに装備する。

 縞々二―ソももちろんだ。


「お兄さん、これはコスプレみたいで恥ずかしいです……」

「そうか? 普通に可愛いと思うが」

「褒めてくれるのはうれしいですが、恥ずかしいです。あと次はなるべく露出控えめが嬉しいです」


 今の状況で既に露出は控えめだと思うのだが……。

 腕と絶対領域位なのに……。

 少女ちゃんの発言は気にしない方向で進めよう。

 次は少し派手な肩を出しているタイプのTシャツを着てもらおう。

 スカートでもいいのだが今はいている短パンでも普通に可愛いのでそのままで行ってみよう。


「だからお兄さん、露出は控えてってお願いしたじゃないですか!」

「着せ替え人形にしていいって言ったのは少女ちゃんだぞ」

「そうですけど……むーーー」

「まあまあ。アイドルみたいで可愛いよ」


 むくれている少女ちゃんをよそに次の服を探す。

 あ、あれは……どうだろうか。


「ちょっと待ってくださいお兄さん、今タンクトップ見ましたよね!? 露出のレベルがどんどん上がってますよ!?」

「大丈夫。別のと組み合わせるから多少減る」

「多少じゃ問題です!」


 へそ出しタンクトップに袖なしパーカー、サスペンダーのついたショートパンツ、これらを組み合わせて着てもらうか。

 

「おお、厨二っぽくて悪くない感じ。指無グローブとかあったらなお面白いかも」

「確かにこれ面白いですけどコスプレですよこれ。絶対に普段着としては使えません。あとへそ出し服は嫌です」

「少女ちゃん綺麗なお腹してるんだから全然問題ないさ」

「セクハラです!」


 女の子服とかなかなか珍しいものが多い。

 見ていて飽きないな。

 これなんか結構おしゃれっぽい。

 タンクトップの上に透けている薄い半袖がかぶさっているようなTシャツを少女ちゃんに渡す。


「これならまぁ……」

「年相応のおしゃれな娘って感じだな」

「ちゃんと女の子に見えますか?」

「女の子以外にはどうやったって見えないだろ」

「……ありがとうございます」

「スカートはまだ選んでないけどスカートもはいてみるか?」

「スカートはあまり得意じゃないので遠慮です」

「制服とかスカートだろうに」

「もしかしたら私服の可能性もあるんじゃないですか?」

「中学はまずないだろ」

「そうですね」

「てことではいこれ」

「……お兄さんのエッチ」


 その後も制服っぽいのやお嬢様っぽいのとかを着せて楽しんだ。

 ついでとばかりに着替えるたびに写真を撮り、俺のスマホの中には今日だけで可愛い写真が沢山増えた。

 変なことに使わないでくださいね!と少女ちゃんに念を押されたが、変なことなどに俺が使うわけない……はずだ。

 俺も少女ちゃんにこれ着てみてくださいと言われたのを何個か着たがそこは割愛しよう。

 その中で少女ちゃんが気に行ったのを何個か買ったため、荷物が多少増えた。

 コインロッカー的なの探した方がいいかも。


「さて、服は結構見たし、飯でも食うか」

「いいですね」

「お昼時もそろそろ落ち着いてきただろうし」

「どこで食べます?」

「少女ちゃんオムライスとか大丈夫か?」

「大丈夫です」

「なら決まりだな」


 幸いお店に行くとすぐ座ることができ、スムーズに昼食を済ませることができた。

 おいしそうに食べる少女ちゃんを眺め、楽しいひと時を過ごした。

 

「この後はどうする?」

「お兄さんの予定に従いますよ」

「はいはい、仰せのままにお姫様」


 少女ちゃんなら楽しめるだろうとサブカル関連のお店へと向かう。

 フィギュアやらなんやらを一通り見終わった後、ゲーセンへ。

 太鼓をたたいたり、クレーンゲームをやってみたりと楽しんだ。

 年ごろの娘の相手なんて何していいかさっぱりだからこれが俺のせい一杯さ。

 それでも大きなぬいぐるみを抱きながら少女ちゃんも楽しんでくれているみたいでよかった。

 そろそろ帰ろうか、と思ったのだがうちのお姫様はまだまだ遊び足りないようである。

 いつもの公園の近くにカラオケがあった気がするからそれを提案したら少女ちゃんの機嫌が上昇した。

 さて、向かおうかという時の話である。

 交差点で信号待ちをしていた俺たちはめんどくさい事態に巻き込まれることとなった。

 動きが変なバイクが目の前の赤信号を無視してい走っていった。

 必死にブレーキをかけているにもかかわらず全く効いていないようだ。

 さらにやばいことに操作がうまくいってないのか反対車線に突っ込んでいく。

 不幸はこれだけでは終わらない。


「あーーー、まじか」

「どうかしましたお兄さ――――」


 少女ちゃんを引っ張り、急いで抱きしめ視界を塞ぐ。

 直後聞こえた爆音に少女ちゃんの体がこわばるのがはっきりわかった。


「え、え!? お兄さん!? 何が起こったんですか!?」















「え、え!? お兄さん!? 何が起こったんですか!?」

 

 お兄さんが突然まじかとかいいながら僕を引っ張り抱きかかえた。

 直後にものすごい音が聞こえたがお兄さんに抱きしめられるようにして視界が塞がれていて僕には何が起きているのか全く分からない。

 少ししてお兄さんは安全を確認できたようで僕を離した。

 そこに広がる光景はまさしく地獄絵図と言っていいものだった。

 横転するバスやバスの後ろにあった車たち。

 玉突き事故が起きたらしい。

 原因となったバイクの主は……。

 

「あまり細部まで見ない方がいい」


 お兄さんが僕の前に出るようにして視界を塞いできた。


「……学生の頃に聞いた話なんだがな、数年に一度救急で心肺蘇生措置をやらなくちゃいけない場面に日常生活で遭遇するらしい。まさかその一回が折角のデート中にやってくるとは思いもしなかったが」

「お、お兄さん落ち着いてるように見えますけど、何かしなくていいんですか? 皆テンパってあたふたしてますけど」

「……まともに、冷静に行動出来てる人がすくないな。しゃーなしだ、人でも足りてなさそうだしちょっと行ってくるわ」

「ぼ、僕も手伝います! 僕でも多少なりとも役に立つはずです!」

「少女ちゃんは無理してみる必要がある光景じゃないから荷物を持ってカフェかどっかにいてくれ」

「そんな!?」

「とりあえずスマホも預けておくから、他の人も済ませてると思うけど119に連絡入れといてくれ。んじゃ行ってくる。あと財布は自由に使ってくれ」


 手伝うことを申し出たがお兄さんにやんわりと拒否されてしまう。

 そしてお兄さんは、スマホを預けるなり現場の方へと向かって行った。

 お兄さんに言われた通り電話だけ済まし、その場でポツンとお兄さんの方を見る。

 行くと同時にすぐさま中心となり周りの人に指示を出している。

 声はここではあまり聞こえなく、何を言っているのかわからないがなんだかカッコいい。

 前練習したなんちゃって読唇術を試みて見るものもなんちゃってじゃ全然わからない。

 「……とり…えず…ED…も…きて」だの「他……識…確認……すませ……」だの断片的に補完でできそうなのもあるが大半はわからない。

 AED位なら僕でもとりに行けたのに……。

 お兄さんはAEDのある場所を通るたびに視線がむいていたので僕も場所くらいは覚えている。

 お兄さんにカフェにでも行ってろと言われたのだが、そんな気も起きずただただお兄さんを見てしまっている。

 今お兄さんは一番重症であろうバイクの人の心肺蘇生を行っている。

 血みどろになりながら行っているが正直すごい。

 何人かがお兄さんに連絡を入れているがお兄さんは手を止めずに対処している。

 お兄さん以外に中心となって動けている人はいないことは無いのだが、お兄さんのやってる仕事を手伝おうという人はいない。

 他にもけが人がいるため指示を出せるレベルの人が二人も付きっ切りというのも厳しいのだろうが、なんとなく納得がいかない。

 僕だって手伝えるのに……と思いながらも足は動かない。

 頭の片隅に確かにあの仕事を僕に手伝えなんて言えるはずもないだろうなと人事のように考えている僕がいた。

 ……そのまま救急車がきて、お兄さんが事情説明しているまでの間僕は何もすることは出来なかった。

 そんな自分が嫌で、肉体労働したせいか物凄い汗だくのお兄さんにせめて飲み物くらいは渡そうと自販機でジュースを買っておく。

 ……お兄さんのお財布からだけど。



「お疲れ様です」

「ん、ありがとう少女ちゃん。ずっとここにいたのか、ってあんまり俺に触れないほうがいいよ、汚れちゃうから」

「すみません、言われたこと無視しちゃって」

「まぁ、それはいいんだけど」

「カッコよかったですお兄さん。てかそれ以上にすごかったです」

「あれくらいなら車の免許取るときとかにでも習うから大体の人ができる」

「習うのと実際にできるのは別ですよ」

「少女ちゃんも将来は出来るようになるさ。さて、帰りどうするかな。すれ違う人がギョッとしそうな恰好なんだけど」

「カラオケどころじゃなくなっちゃいましたね」

「ごめんな、この埋め合わせはそのうちするさ」

「全然大丈夫ですよ」

「ま、タクシーでも拾うか」

 

 タクシーを呼び、いつもの公園までお願いする。

 運転手さんとお兄さんがたわいもない話をしている時、僕は外を眺めながら考え事をしていた。 

 ……もう夏休みも終わっちゃうな。

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