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7月24日
午前10時30分くらいの出来事だ。
仕事につかれた俺は、帰り道、公園のベンチで座り込んでいた。
とても暑いこの時間帯だが、ベンチは木陰となっており少しばかり快適である。
「お兄さん、また会いましたね」
つい先日と同じように少女が隣に座ってきた。
散歩が趣味と言っていたような気もするし日課なのだろうか。
「お前は暇なのか」
「んー、暇っちゃ暇ですね」
先日の俺の真似なのか、少しどや顔で答えてきた。
……少し腹が立った。
「そうか」
「そこは『俺も暇だから少し話でもするか』的な事を返さなくちゃだめですよ!」
「俺暇前提か」
「……違うんですか?」
「……暇だけど」
やっぱりそうじゃないですか、とばかりの顔を向けられた。
暇で何が悪い。
「別に悪くないですよー」
「心を読むとはやるな」
「心は読んでないですよ。顔に全部出てます」
「まじか」
「まじです」
断言されてしまった。
「それよりお兄さん、約束通りまた一緒にお話ししてくれますか?」
前回の別れ際にそんなことを言ったような気もするな。
特に断る理由も無い。
「こんなおじさんなんかと話して楽しいか?」
「まだおじさんって歳でもないでしょ」
「話すったって話題が無いだろ」
「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」
「そんな話俺は出来んぞ」
「ははは、僕もだよ」
「だったら意味ないじゃないか」
「ならさ、趣味の話をしよう」
「趣味の話?」
「そう、趣味の話!」
「この前もしなかったけ?」
「別に僕、散歩が趣味なわけではないよ。好きなものと趣味が一緒とは必ずしも限らないんだよ」
「まー、そんなもんか」
「お兄さんは飲む、吸う以外に趣味ないの?」
「んー、ないな」
「ゲームとか漫画とか、そういうのに興味は無いんですか?」
「あー、それなら多少は」
「……お兄さん、”あー”とか”まー”とか”んー”とか禁止ね」
「えー」
「”えー”も禁止」
「それは、俺にしゃべるなと言うことか!?」
「お兄さんそれしか語彙が無いの!?」
「ないかもしれんなぁ」
「……うん、話を戻そうか。趣味の話をしよう」
「そうだな」
「多少漫画とか興味あるとかいってましたよね。どんな漫画とか読むんですか?」
「月曜に発売される雑誌に載ってるやつとか、ネット上で読めるのとかだな」
「割と幅広いですね」
「そっちはどうなんだ」
「僕も雑食気味で少女漫画から少年漫画、青年漫画まで幅広く手を出していますよ」
「青年漫画はまだ早いだろ」
「知識を得ることに早すぎることなんてないんですよ」
「どや顔のところ悪いが早すぎることがあるからR指定とかあるんだからな」
「……冗談ですよ。そこまで過激なのは読んでません」
「さいですか」
「僕のおすすめはそうですね、カ○ュクスって漫画がおすすめです」
「どんな漫画なんだ?」
「ネタバレしない範囲で言うと、文字通り命短し恋せよ乙女、な話です。話も泣けるし、絵柄が凄く可愛くて僕好みなのです。正直言って僕のバイブルといえる本ですね」
「気が向いたら買ってみるわ」
「ぜひそうしてください! お兄さんはなんかおすすめは無いんですか?」
「俺のおすすめか……。そうだな……マニアックなところでごち○さ、とかかな」
「あ、それ知ってます。最近有名ですよね」
「んん、読んでると和む」
「あ、お兄さん、ロリコンって奴ですか」
「俺がロリコンだったら危ないぞ君」
「僕、男の子ですよ?」
「……まじ?」
「どう思います?」
「女の子だと思ってたよ」
「ふふっ、正解は秘密です」
「……そうかい」
少女ちゃんは少年君である可能性も少々あるみたいだ。
「どっちだろうが別に問題は無いか」
「むー、それはなんか不満が残ります」
「じゃあどうしろってんだ」
少女(仮)ちゃんの不満顔に苦笑を漏らす。
「まぁ、いいですよ、存分に悩んでください。……失礼です」
少女(仮)ちゃんは胸に手を当てながらぷんぷんと怒り気味である。
本当によく表情がころころと変わるもんだ。
「また話戻しますけど、他の趣味とかはどうですか?」
「どうだろな、麻雀やパチンコとかは付き合いでやる程度で趣味って程でもないし」
「ギャンブルですか。なんか大人って感じがしますね」
「大きくなっても手を出さないほうが賢明だぞ」
「そうですね。気を付けます。ところで……」
「どうした?」
「ここにあります一枚の10円玉」
「はぁ」
「表か裏か、外したお兄さんがあそこでジュースを一本買うってルールでどうでし――イタッ」
俺は少女(仮)ちゃんの額をデコピンした。
ギャンブルはやめた方がいいぞって忠告した次の瞬間にこれか、いい度胸してるな。
「はぁ……裏だ」
「あ、なんだかんだでやってくれるんですね。僕は表ですね。じゃあ行きますよ」
少女(仮)ちゃんがコインをはじく。
上手にそれることなく少女ちゃんの手の甲にそれは乗った。
軽く手のひらを開け自分だけ見えるよう確認してから、俺にも見えるように開いた。
器用なもんだ、バレバレではあるが。
「あ、裏ですね。負けちゃいましたか」
「それは残念だな」
「残念ですね」
「ジュースはお預けだな」
「そうですね」
「代わりにジュースの横のアイスの自販機でアイスなら買ってやるよ、どれにする」
「え?」
「ほら早くいくぞ」
「え? え??」
「ほら、さっさとしろ」
ガキにアイス一本おごるくらいどうってことは無い。
そこそこ稼いではいるからな。
戸惑いながらもソーダとバニラの混ざり合った棒のアイスを選んびご満悦である。
「ありがとうございます」
「大人だしな、これくらいはどうってことない」
「ふふっ、かっこいいですよお兄さん」
かっこいいといわれて悪い気はしない。
「お兄さん、今日も楽しかったです。ありがとうございました」
「俺もそこそこ楽しかったから気にするな」
「また次あったときお話しできるよう話題考えておきますね」
「機会があったらな」
「楽しみにしていてください」