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8月21日
午前10時30分くらいの出来事だ。
いつものベンチに向かうと既に少女ちゃんが座り込んでいた。
……何か様子がおかしい。
少女ちゃんはこの世に絶望したかのような顔をしている。
なんて声をかけていいかわからなく何も言わず隣に座った。
「……あ、お兄さん」
「元気が無いけど大丈夫か?」
「……とりあえずなら」
「飲みたいものあるか?」
「……特には」
ベンチから立ち上がり、自販機まで行き適当にスポドリを買い戻る。
「……ありがとうございます」
「悲壮感漂わせてこんなところに座り込んでる少女ちゃんは今日はどうしたんだい? 暇なのかい?」
「……暇と言えば暇ですね」
おじさん、どこまで入り込めばいいのかわからないぜ。
「気晴らしにお話でもするか」
「……お兄さんにも少しはデリカシーとかあるんですね」
「おいおい、めずらしく毒舌だな」
「……そうですか?」
「まるで抜身のナイフのようだよ」
「……うるさいな」
「おおう、本格的に余裕がないね」
今の少女ちゃんはまだおじさんて歳でもないでしょ、とか返してくれずに黙っててよおじさん、とか言い放ちそうだ。
でもここにいるってことは何かしら聞いてほしい話があるってことだろう。
「で、何があったの?」
「……お兄さんには関係ないですよ」
「そっか、っていって立ち去ってもいいんだけどさすがにそれは薄情な気がするんだよな」
「……別に立ち去ってくれてもいいですよ」
「今日はツンが激しいね」
「……ちょっとうざいです」
本音……かどうかはわからんが今日の少女ちゃんは相当きているみたいだ。
あたりが強い。
「ま、俺はもう少しここにいるから少女ちゃんも好きにするといいよ」
「……すみません、ありがとうございます」
尖ってるというか情緒不安定だな。
流石にほっといて帰るのは心配すぎる。
さっき買ったスポドリを飲みながら待つこと5分。
「……その、お兄さん」
「どした?」
「……少し話を聞いてもらってもいいですか?」
「いいよ」
「……ありがとうございます」
ぽつりぽつりと少女ちゃんは話し出した。
「……朝、くだらないことで親と喧嘩しまして」
「親と喧嘩するくらい珍しいことでもないだろ」
「……確かに最近しょっちゅうなんですが今日は特にひどくて」
「……」
「……口に出しちゃいけないような事を叫んで家を飛び出してきたんです」
「少女ちゃん、いつ頃からここにいたの?」
「……大体2,3時間前くらいからです」
「おう、思ったより結構ここにいるんだな」
「……お兄さんが来る2、30分前だったかもしれません」
「要するによくわからないんだな」
「……時間なんてすぐに過ぎていくものですよ」
「軽い冗談言える程度までは復活できたんだな」
「……復活って何ですか、復活って。……僕はそもそも死んでませんよ」
「珍しく目が俺みたいに死んでるぞ」
「……それは嫌ですね」
「それは俺が傷ついたぞ」
「ははっ」
少しは笑える程度まで元気が戻ったようだ。
乾いたような笑いでいつものかわいらしさが少しばかり足りない。
「少女ちゃんは親御さんに何を言って出てきちゃったんだい?」
「…………聞きたいですか?」
「少女ちゃんが話したくないなら無理には聞かないよ」
「……『勉強もろくにしないでガキなんか作るな!』です」
「思ってた以上に半端ない一撃だな」
「……いや、わかってるんですよ。
……文句を言えるような立場じゃないことぐらい。
……全部本心かって聞かれたら言い切ることはできないです。
……それでもつい口に出ちゃうことってあるんですよ」
「ま、気持ちはわかんなくはないぞ」
「…………なんか、もうぐちゃぐちゃで何がしたいのかわかんないです」
大分堪えているようだな。
俺は、何かを言うことができるだけの経験は無かった。
無理矢理何かを言ったところで軽い言葉にしかならないことが目に見えている。
何も言わず、ただ少女ちゃんの頭に手を置いた。
「……キザですよお兄さん」
「うるせぇ。笑いたかったら笑ってもいいぞ」
「……ありがとうございます」
少女ちゃんは俺の手を払いのけることはせず、心地良さそうにしていた。
「ありがとうございましたお兄さん」
「ん、もう大丈夫そうか?」
「とりあえず、ですけど」
「やけになって変なことはするなよ」
「しませんよ、さすがに」
「完全に駄目になる前に頼ってこいよ。頼りにならんかもしれんが」
「頼りにしてますよ、お兄さん」
「それならいいが」
「頑張ってみますよ」
「ん」
「じゃあ、お兄さんありがとうございました」
「がんばれよ」
「はい! ではまた明日です」




