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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
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8月20日

 午前10時30分くらいの出来事だ。

 いつも通り、仕事につかれた俺は、帰り道、公園のベンチで座り込んでいた。

 とても暑いこの時間帯だが、ベンチは木陰となっており少しばかり快適である。

 昨日のアレのせいか、相も変わらず少女ちゃんが視界の端をうろちょろしている。

 次の日恥ずかしがるくらいならやらなければいいのに。

 しょうがないから今日は俺から声をかけてあげることにする。


「おはよう少女ちゃん」

「ひゃ、ひゃい、おはようございましゅ、お兄さん」


 だいぶテンパっているが話ができないほどではない。


「きょ、今日も暑いですねー」

「あぁ、死にそうだ」

「この暑い中、毎日毎日公園に来るお兄さんは暇なんですか?」

「大分失礼な言い方だな今日は。まぁ、暇だけど」

「そっかー、同じようにこの暑い中公園に来ている僕もいつも通り暇だから少しお話ししてよ」

「こんなおじさんと話なんかして楽しいか?」

「まだおじさんって歳でもないでしょ」

「話すったって話題が無いだろ」

「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」

「そんな話俺は出来んぞ」

「ははは、僕もだよ」

「だったら意味ないじゃないか」

「ならさ、とあるアニメで見てから少し気になったんだけど臓器提供についての話をしようよ」

「また重いテーマを持ってきやがったな。どのアニメかはなんとなく察せるけど」

「死んだ世界のあれの話ですよ」

「予想通りだった」

「まぁ、それは置いておいてですね、本当に免許書とかの後ろ側にあるんですかあれ?」

「あるよ」


 俺は財布の中から免許を取り出して少女ちゃんに渡す。


「写真が……今と変わりませんね」

「更新したばっかだからな」

「お兄さん、中型自動二輪と普通車があるんですね。あ、自動車はAT限定なんですか」

「先にバイクの方とってそれで十分のつもりだったんだが就職する前に車もとっとけとうるさかったからな。正直ATで十分だろ」

「僕、マニュアル車なんてほとんど乗ったことないです」

「そうだろ? それにこっちは電車で大抵移動することできるし」

「お兄さん車はあんまり好きじゃないんですか?」

「バイクの方が楽しいのは確かだな。本題戻ろうぜ」

「そうですね」


 少女ちゃんは免許証を裏返し、本題であった臓器提供の意思表示の欄をみた。


「こうなってるんですか……ってお兄さん丸つけてるんですね!?」

「どうせ死んだあとに捨てるだけってのももったいないだろ。有効活用してもらえるならその方がいいし」

「そこのところ結構ドライなんですね」

「待ってる人に使って貰えた方がいいからな。俺の知り合いは結構な確率で提供派だ」

「珍しい……んですか?」

「それはわからん。ただ、あのアニメの影響で割と増えたんじゃないかとは思う」

「すごいですねあのアニメ」


 カードを眺めながら興味津々のようだ。


「お兄さん、眼球とかって取られたら葬式の時に見栄え悪くなるとか聞いたことありますけどバツ付けないんですか?」

「今は詰め物的な物してもらえるんじゃないかな。俺の知り合いにも眼球はしないってのがいたけど。あともしもバツ付けるとしたら俺は肺につけるかな」

「肺ですか」

「おう。なんせ真っ黒だからな」

「……お兄さん」


 少女ちゃんのジト目が可愛い。

 癖になりそ……なんでもない。


「提供したくない臓器にバツをつけてくださいの欄にいろいろ選択肢がありますけど臓器提供って膵臓や小腸もあるんですね」

「詳しい解説が必要ならできるぞ」

「お兄さん博識ですね」

「少女ちゃんじゃないけど知識は力だからな」


 ってのは冗談で職業柄覚えたってだけの話だが。


「膵臓、小腸の働き知ってるか?」

「前見たことがある程度でほとんど知らないです」

「中学生なら知らなくて当たり前かな」

「膵臓は糖尿病についての番組かなんかで見たと思います」

「ほうほう。なら教えることはほとんどないな」

「雑ですね」


 そこまで答えが出ているならばもはやいうことは無い。


「保険証とかの後ろにも免許と同じのあるぞ。少女ちゃんは将来丸つけたりする気あるのか?」

「僕はですね……どうなんでしょうね」

「若いうちはわからんよなぁ」

「……お兄さんはいつ頃つけましたか?」

「俺は、免許取ったときには付けてたような気がする。バイクでこけたらあっさりと死んじまうし」

「へぇー」

「あと、俺が死んだ後の心臓はきっと銀髪の美少女に移植されて感謝されるんだ、とか思ってたなあの時」

「うわぁ」

「若気の至りって奴だ」

「お兄さんも青春を謳歌しなかった人たちがいく世界に行きたかったんですか?」

「いけるもんなら行ってみたかったな」

「僕は逝けるかもしれませんよ?」

「……縁起でも無いこと言わないで少女ちゃんはこれからなんだからちゃんと青春しろよ」

「はーい」


 声色と言い、聞き流すかのような適当な返事なことがうかがえる。

 

「捨てちまうもので誰かが助かるってのは悪い気分でもないしな」

「……そうですね」

「俺は現実で臓器移植待ちの娘を見たことがあるがなかなか胸に来るものもあったしその影響もあるかもよ」

「お兄さんの同級生あたりにそんな子がいたんですか?」

「んにゃ、たまたま病院にいたってだけの話だ」

「ちなみにその子は間に合ったんですか」

「残念な結果になったとだけ言っておこう」

「……そう都合がいい奇跡みたいなことが簡単に起こることなんてないんですね」

「物語みたいにいってくれるといいんだけどな」


 しんみりとしてしまった。

 少しばかり重いテーマだからこうなってしまうのもしょうがないといえばしょうがない。


「臓器提供にまるつけたとして臓器が使えるかのチェックってどんなものがあるか知ってます?」

「というと?」

「えっと、例えば、癌の人とかが臓器提供しようとして使える臓器とかのチェックとかってどんなものがありますかって話です」

「んー、すまんがあんまり知らない」

「そうですか」

「ただまぁ、癌の人や感染症で亡くなった人は少し難しいかもな。眼球とかできる部位があるかもしれんが」

「なら癌とかでも提供の意思に一応意味はあるんですね」

「意味はあるよ」

「僕もカードが手に入ったら丸つけときましょうかね」

「丸つけるのは個人の自由だが、家族ともめる場合があるからしっかり話を付けておくことはやっておかなきゃだめだぞ」

「……はーい」


 こちらを見ずに公園のどこかを見ながら、さっきと同じような返事をした少女ちゃん。

 少女ちゃんは親の話題を出すときに若干ぎこちなくなる。

 お年頃だしそういうものかと納得は適当にしこう。


「所でお兄さん」

「ん?」

「話が変わるような変わらないようななんですけど、お兄さんは自分の手の届く範囲に困ってる人がいたら積極的に助けるタイプの人ですよね」

「積極的にかどうかは断言できないぞ」

「お兄さんならなんだかんだ言いながら、きっと手を差し伸べると僕は思いますよ。臓器提供なんて手の届かない範囲まで助ける気満々なお兄さんですもの」

「周りに動ける人が俺しかいなかったらそうかもしれん」

「周りにお兄さんしかいない状況とかどう判断するんですか?」

「それはだな……うん、まぁ、なんとなくでわかるだろ」

「あはは、お兄さんらしいです」

「流されるままが俺のモットーだからな」

「ならこれから一つ、とある事を流されてほしいんですけど」

「は?」

「この前、お兄さんの鞄の中に消毒液とか絆創膏が入ってるの見たんですけど今日も持ってますよね」

「一応持ってるな」


 少女ちゃんの視線の先を追うと公園の先で小学校低学年位の子供たちが集まっていた。

 中心では座り込んで女の子が一人泣いている。


「あぁ、そういうことか」

「はい、そういうことです。周りにはお兄さんしか動ける人いませんよ?」

「消毒液と絆創膏渡すから若くて可愛いお姉ちゃんが行ってくれた方が子供たちも喜ぶと思うんだが?」

「そ、そんな見え見えのお世辞に引っかかると思わないでください!」

「最近は俺みたいなおじさんが挨拶しただけで通報されてしまったなんて案件をよくニュースで見るんだよなぁ」

「温かみが無い世の中ですね」

「世知辛いなぁ」

「そんなグダグダ言わずに早くいってあげてくださいよ」

「……しゃあねぇ」


 ベンチから立ち上がり子供たちのたちのところまで行く。

 知らないおじさんが突然きたことにより子供たちの何人かが身構えた。

 真ん中にいる女の子は泣き続けている。

 周りの子にどうしたのかを聞くと案の定、鬼ごっこしている最中にこけてしまったらしい。


「立てるか?」


 俺の問いかけに泣きながら女の子は首を振って答える。

 女の子は、膝をすりむき流血しており、その上、足首をひねったのか立ち上がることも厳しいようだ。

 とりあえず血を流したいから水道のところまで行きたいのだがどうしたものか……。

 しょうがないか。

 

「ちょいと失礼するぞ」


 女の子をお姫様抱っこで持ち上げる。

 なんとか俺のなまりきった筋力でも持ち上げることができた。

 そのまま水道まで行き水で傷口を洗った。

 一応染みるぞ、と声をかけたが対した効果もなく、女の子はさらに強く泣いてしまった。

 はたから見たらつかまってもおかしくなさそうな案件だよなぁ。

 一通り応急処置をし、近くのベンチに座らせてあげた。

 その子はケータイは持っていないが家がそこまで遠くないらしく、お友達の子が家まで親に連絡しにいってくれたからもうじき親が来て俺はお役目御免となるだろう。


「……おじちゃんありがとう」

「気にするな」

 

 ぐずぐずに泣きながらもお礼はちゃんと言えるできた娘のようだ。

 ティッシュを渡し鼻をかませる。

 …………おじちゃんか。

 いや、深い意味は無い。

 本当にないからな?

 自称してるくせに実際に他の人に言われたら少しグサッときたとか全然ないんだからね!。

 そんなどうでもいいことを考えているうちにその女の子の親御さんがやって来た。

 親御さんに状況を軽く説明して一応病院に連れて行った方がいいとだけ言っておいた。

 俺に感謝を述べてから子供をおんぶし、病院へと向かっていった。

 悪い気分じゃないがとても疲れた。


「お疲れ様ですお兄さん。かっこよかったですよ」

「……見つけたのに俺に押し付けて我関せずな少女ちゃんはどうかと思うぞ」


 離れたところから様子を見ていた少女ちゃんがやってきてねぎらいの言葉をかけてくれた。

 

「あはは、僕はお兄さんほど手際よくないですし遠くから見ているだけが最適解だったのですよ」

「こんなんに手際も何もないだろ」

「ありますよ」

「……はぁ、おじさんは疲れたよ」

「まだおじさんって歳でもないでしょ」

「少女ちゃんは可愛いなぁ」

「ふぇ……!?」


 あ、やば。

 つい口に出ちゃった。

 少女ちゃんは顔を真っ赤にしてうろたえている。


「すまん、口が滑った」

「あの脈絡で口がどう滑ったらその言葉が出てきたのか詳しく教えてほしいです。可能な限り詳しく!」

「おじさんの年齢位になるといろいろあるんだよ」

「そ、そんな頭を撫でられたくらいでうやむやにできるようなちょろい女だと思わないでください!」

「あっはっは」


 少し納得が言ってなさそうな感じはするが無事に流すことはできた。

 ちょろく無いとか自分で言ってるけどやっぱりちょろいよ少女ちゃんは。


「……むぅ、納得が色々と行きませんがそろそろ時間なので帰りますね」

「おう。気を付けて帰れよ」

「はい、ではまた明日ちゃんと聞かせてもらいます」

「覚えてたらな」

「絶対に覚えてますよ!」

「なら気が向いたらな」


 どうせ明日になればきっと忘れているだろう。

 うん、大丈夫。


「……ではまた明日です」

「ん」





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