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8月19日
午前10時30分くらいの出来事だ。
いつも通り、俺は公園のベンチで座り込んでいた。
とても暑いこの時間帯だが、ベンチは木陰となっており少しばかり快適である。
「おはようございますお兄さん」
「おはよう少女ちゃん」
「筋肉痛は大丈夫ですか?」
「今のところは……下手をすれば明日くる」
「あはは、それは楽しみですね。あ、昨日返し忘れたんですけど、傘、ありがとうございました」
「あぁ、そういえば一昨日貸してたんだったな」
「おかげで風邪ひかずに済みました」
「よかったよかった」
俺も風邪をひかなかったし、オールオッケーだな。
いや、俺は明日筋肉痛で動けなくなるし、オールオッケーとは限らんが
「ところでお兄さん、今暇なんですか?」
「暇っちゃあ暇だな」
「そっかー、僕も暇だから少しお話ししてよ」
「こんなおじさんなんかと話して楽しいか?」
「まだおじさんって歳でもないでしょ」
「話すったって話題が無いだろ」
「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」
「そんな話俺は出来んぞ」
「ははは、僕もだよ」
「だったら意味ないじゃないか」
「ならさ、胸がきゅんとする話をしようよ」
「胸がきゅんとする話?」
「うん。そうだね、一時期壁ドンだの、顎くいっ、なるものが流行っていたじゃないですか」
「あー、なんかあるなそんなもん」
「あれって本当にどきっ、やキュン、ってするもんなのかな?」
「それは……どうなんだろうな?」
「……うん、なら試してみましょうよ」
「は?」
少女ちゃんはそういうなり俺を引っ張り壁があるところ――公園のトイレの後ろへと連れて行った。
「さぁ、お兄さん、どんとこいですよ」
「なにこれ、俺が少女ちゃんに対して壁ドンすればいいの?」
「わかってるじゃないですか」
「……はぁ」
仕方がないのでしぶしぶと少女ちゃんに壁ドンを実行する。
「!?」
来るとわかっていても多少はびっくりするものなんだな。
少女ちゃんは少し怯えたような表情でこちらを見上げている。
……可愛い。
「で、実際にやってみたけどどんなもんだ?」
「……今ほどスマホと言う現代機器を持っていないことを後悔した日はありませ――なんでもないです。いや、好意を持っている人じゃない人にやられても案外ドキッとするもんですね、ええ、たとえ何とも思ってない人でも! 少し世の中の女の子の気持ちが分からないでもないような気がします」
「……そうか」
どうでもいい人強調とかなんとなくだがグサッときた気がする。
まぁ、満足はしてもらえたようだし壁から手を放そうとするが少女ちゃんに遮られた。
「まだ、顎くいってやつが終わってませんよ」
「それもやらなくちゃだめなのか……」
「もちろんです!」
楽しみにしている様子の少女ちゃんの期待を裏切れるわけもなく壁に手をついたまま、少女ちゃんの顎をくいっと持ち上げ目を見つめた。
少女ちゃんの柔肌はすべすべし――なんどうふぇもにゃおい、失礼、噛みました。
真っ赤なお顔の少女ちゃんは目があうと最初少し戸惑っていたが自然と目を閉じていった。
何かを待つような少女ちゃんに俺は少々どぎまぎしながらゆっくりと――
「いたっ!?」
躊躇なくデコピンをかましてあげた。
「なにするんですか!?」
「変な雰囲気に流されそうになったらいろんな意味で痛い目を見るってことを学んだな。やったな、これでまた財産が一つ増えたぞ」
「そんな財産は要りません!」
「おやおや座右の銘はどうしたんだ?」
「〜〜〜〜」
「さて戻るぞ」
正直、変な気分になりかけていたのは俺の方で、無事何事もなく流せたことに安堵している。
戻ろうとしたとき、ふいに変な力に引っ張られた。
「――――」
左頬に柔らかい感触を感じた。
何が起きたか思考停止してしまった俺はべぇーっと舌を出す少女ちゃんが逃げていく様を見ている事しかできなかった。
なるほど、どきっ、やキュン、とする話か。
ときめきを覚えてしまった俺は敗北感を抱えながら帰宅した。
……たとえ恋愛対象じゃない娘でもほっぺに――されるだけで案外萌えてしまえるもんなのだな……。




