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8月18日
1時50分くらいの事だ。
俺は約束通りの時間にベンチに座り少女ちゃんを待っていた。
暑い。
昨日の雨のせいもあるのかひどくムシムシしている。
「お兄さん、こんにちは」
「おう、こんにちは」
「すみません、待ちました?」
「ん、いや、今来たところだ」
このやり取り少女ちゃんは頬を赤らめた。
「なんか恋人っぽいやり取りですね」
「そういわれてみればそうかもな。ま、でもこれから向かうのはトランポリンだしデートとは程遠いかも」
「トランポリンデートだって全然普通ですよ!」
「そ、そうか」
少女ちゃんと話しながら一緒に駅へと向かう。
乗り換えも併せ、大体一時間弱位ゆったりと電車に揺られ、目的地にたどり着いた。
電車は丁度すいている時間で二人並んで快適に座ることができた。
照れくさそうに座る少女ちゃんは可愛かった。
「お兄さん、ここが目的地ですか」
「ああ」
ちっちゃい体育館みたいなところの目の前で少女ちゃんが尋ねてきた。
見た目からじゃいまいちわかりにくいよなここ。
中に入ってからさらに少女ちゃんは驚きの声を上げた。
本格的なトランポリンが三個埋まってる形で存在し、少女ちゃんよりもさらに小さいような子たちがぽんぽん宙返りを決めている。
「うわぁ、すごいですね」
「まぁ、感動はそれくらいにしておいて俺らも着替えてから遊ぼうぜ」
「了解です」
「二階で着替えれるスペースあるからさっさと着替えるか。着替え終わったら奥のおっきいところ集合な」
「はい」
少女ちゃんの隣の個室で俺もさっさとジャージに着替えトランポリンへと向かう。
正直わざわざ着替えなくてこのまま飛んでもいいんだけど流石に汗かくからな。
俺が着替え終わるのとほぼ同時に少女ちゃんも着替え終わったようだ。
「ほぼ同時ですね」
「少女ちゃん早かったな」
「ジャージに着替えるだけですし女の子一人ならこんなもんですよ」
「そんなもんか」
少女ちゃんは前話していたようにピンクのジャージだ。
なかなかに可愛い。
俺がじろじろと見ている間にも少女ちゃんは早く跳んでみたそうにうずうずしている。
「少女ちゃん、早くとびたい気持ちもわかるけどしっかり準備運動はしてからね」
「わかってますよ」
はしゃぐ少女ちゃんをいなしながら、トランポリンの端の方のマットに座り軽く柔軟をする。
おじさん、もう歳だからゆっくり体を動かさなくちゃ死んじゃう。
少女ちゃんは軽い準備運動をさっさと済ませ、こちらをキラキラした瞳で見ている。
「準備できたなら先飛んでみていいよ。おじさんもう少し柔軟してるからさ」
「はい!」
少女ちゃんは楽しそうに、それでいて少し慎重にトランポリンに足を踏み入れた。
「わっ、わっ」
初めてのトランポリンの感触を楽しんでいるようだ。
ちなみにまだ跳んではいない。
トランポリンの上を軽く歩いている。
真ん中までたどり着いたら恐る恐る飛び跳ね始めた。
ふむ……、揺れ、ないな。
そんなことは顔に出さずにぽよんぽよん楽しんでる少女ちゃんを見る。
和む。
「少女ちゃん、飛ぶときにばんざーい」
「え、こうですか?」
「おっ、うまいうまい」
ジャンプ時に遊んでいた両手が仕事を始めるようになって跳び方も安定し始めてきた。
両手を上手く使えるようになって、大きく動いているのに全く揺れない。
俺は真顔で少女ちゃんにばれないようにガン見した。
少女ちゃんは楽しそうに……、いや、若干こちらをジト目で見ている。
……ジト目で見られる要素なんてあったけな。
まぁ、気にしないでおこう。
「あっ、うわ」
少し集中力を欠いたのか、バランスを崩して尻もちをついた。
「少女ちゃん大丈夫?」
「は、はい、なんとか」
「跳んでる最中に他のことに気を取られると危ないよ」
「……はい」
不服そうな顔をしているがとりあえず少女ちゃんは頷いた。
「じゃあ、次は俺が跳ぶわ」
「どきますねって、わ、地面が変な感覚します」
「懐かしいなぁ」
少女ちゃんが地面の感覚にあたふたしている間にぽんぽんと跳び、体を慣らす。
久しぶりすぎてあんまり動ける気がしない。
普通に跳んだあと、トランポリンに落ちる時、長座の姿勢で落ち、跳んでから再度通常の姿勢に戻ったり、背中で跳ねたり、腹うちで跳ねたりしているうちに少しばかり感覚を取り戻し始めた。
軽く捻りも加えてみる。
半捻り、一回捻りはいけた。
一回半はギリギリいけそう。
これなら宙返りもいけそうだな。
腹打ちする時、少しぐぎっとなったから慢心はしないけど。
いや、腹打ちするくらいなら宙返りの方が楽か。
躊躇したら危ないので行けると思ったら一気に跳ぶ。
高く引き上げて首を一気に返す。
引き上げた手に膝を持っていく。
さすがに前ほどではないが空中で体を開く位の余裕は持てたため、良い姿勢で再度トランポリンに落ちることができた。
おお、まだできるもんだな。
少し感動した。
少女ちゃんはさっきとは違いキラキラした目でこちらを見ている。
悪い気分じゃない。
飛ぶ勢いを緩めて着地した。
「お兄さんすごいです!」
「何とかってレベルだけどね」
「僕も宙返りやってみたいです」
「もう少しなれたら補助付けてやるからやってみるか」
「ありがとうございます」
昔友達に連れてこられた時やってもらった補助なら多分できると思う。
ちょっとばかし問題が無いこともないが……。
少女ちゃん位の体重なら俺でも回せそう。
楽しむ少女ちゃんに長座で落ちてまた戻るやり方とかを教えてあげた。
少女ちゃんも言うほど運動神経悪くはないと思うんだけどなぁ。
「じゃあ一緒に跳ぶか」
「うぇっ!?」
少女ちゃんが跳んでいるところに入り込む。
「ちょっ、お兄さん」
「うまくバランスとってな。俺と交互に跳ぶような感じに」
あわててた少女ちゃんに最初は俺が上手く合わせることでバランスをとる。
だんだんと息があってきて、跳ぶ高さが高くなってきた。
少し余裕が出てきたのだろう。
多分それが慢心だったな。
少女ちゃんのタイミングがずれてしまい俺に突っ込んできた。
「ぴゃあぁぁぁ!?」
「おっとっと」
突っ込んできた少女ちゃんを抱きかかえ後ろに倒れ込んでしまった。
トランポリンで再度跳ねたりしない様に気を使いながらは割と大変だった。
「いたたっ。大丈夫か少女ちゃん?」
「すすすすみません! お兄さんの方こそ大丈夫ですか!?」
俺に馬乗り状態の少女ちゃんが真っ赤になりながら尋ねてくる。
大丈夫の意味も込めて少女ちゃんを撫でる。
少女ちゃんがさらに真っ赤になった。
しまった、セクハラだったな。
「ごめんごめん」
「……イヱゼンゼンモンダイナイデスヨ」
なぜか少女ちゃんは片言だった。
……まぁ、大丈夫なら問題ない。
「少女ちゃんも宙返りやってみたいんだっけ?」
「いいんですか!?」
「いいけど……」
「いいけど、なんですか?」
「補助のために少し年ごろの女の子には恥ずかしいことするけどセクハラとか言って訴えないでくれよ」
「訴えませんよ別に」
ちなみに本来未経験者の宙返りは危ないから禁止されてるよこの店。
まぁ、補助がいれば大丈夫だろ。
※慢心駄目です。
「じゃあ行くぞ」
そう言い俺は少女ちゃんの背中側のTシャツと一緒にパンツの中まで親指を突っ込んで、パンツの縁をしっかり掴み込み、少女ちゃんを持ち上げられる準備をする。
「!?!?!?!?」
「先に言っておいたぞ」
「確かにセクハラみたいにゃことはいってましたけど! できればなにやりゅかもいっておいてほしかったです!」
「それはそうかもしれないな」
「うぅぅぅ」
「まぁ、恥ずかしさには耐えてくれ。一緒に跳ぶからそんなに高くなく跳ねてみてくれ」
「……はい」
小さくぽんぽんと少女ちゃんが跳ねるのに俺も併せて弾む。
身長差が結構あるため俺はほぼ跳ばなくて良く補助がやりやすい。
足が付いていなくては回せないからな。
「じゃあ行こうと思ったら跳んでから思いっきり首を返してくれ」
「首を後ろにガクってすればいいんですか?」
「むち打ちしない程度にな」
「了解です、やってみます」
「跳んで首を返したら、トランポリンが見えるはずだ。最初は余裕ないからわからないかもしれないけど。俺がしっかり補助するから信じてくれ」
「ダイジョブです、信頼度はマックスです」
「その割にパンツに手を突っ込んだ時は慌ててたよな」
「あれは誰でも慌てますよ!」
「はっはっは」
どうでもいいけど、パンツに手を突っ込むってやばい字面だ。
「……いきます」
少女ちゃんが意を決して宙返りに行った。
首の返しが甘い。
回転量が弱いがそこは俺が無理矢理回しきる。
「ひゃあ」
少女ちゃん軽いから何とかできたが、成人の男性の補助は正直俺には無理だ。
よくアイツ俺を回せたな。
「うしっ、とりあえず何とかできたな」
「……」
少女ちゃんは感動のせいかうまく言葉が出てこないようだ。
なんとなく気持ちはわかる。
「気持ちいだろ」
「っはい」
うんうんと俺は頷く。
「もう一回やるか? 一人じゃまだ危ないから俺の補助付きだけど」
「お願いします」
何度か補助を付けたら少女ちゃんは一人でできるようにまでなった。
楽しそうに跳んでて、これが見れただけでも連れてきたかいがあったと思える。
俺も少女ちゃんに負けてはいられないと伸身姿勢の宙返りをやったり、半分ひねったり、側方宙返りをやって見せたりもした。
流石にダブルや一回捻りは俺には無理だったけど。
そんなことをしていれば一時間などあっという間に過ぎいき、お時間ですよ、と声がかかってしまった。
「さて、着替えて帰るか」
「そうですね」
「楽しんでもらえたか?」
「当たり前じゃないですか」
「ならまたいつか来るか」
「お願いします」
満面の笑みで答える少女ちゃん。
可愛い。
「っと、着替える前にこれあげるよ少女ちゃん」
「なんですかこれ?」
「制汗シート」
「制汗シート?」
「拭けば気持ちいいから使ってみ」
「ありがとうございます」
自分も着替える前に制汗シートで体をふいておいた。
スース―する。
着替え終えて出てきた少女ちゃんも同じような表情をしている。
「すーすーします」
「気持ちいだろ」
「……気持ちいいことは気持ちいいです」
「ん、じゃあ」
「……なんですかその手?」
「ゴミは始末しておくよ」
「え? ちょっとお兄さんまじでいってます?」
「なんかまずいか」
「……それはデリカシーが無いにもほどがあるような気が」
「デリカシー関係あるのか」
「いいですかお兄さん、これはうら若き女の子が体をふいたシートですよ?」
「ようするに使用済みのゴミだろ」
「使用済みって言葉が出てくるところで少し何かに感づいてほしかったです」
「ん?」
「いや、まあ、お兄さんがどうしてもほしいって言うなら渡すこともやぶさかではないのですが……いや、やっぱりそれは流石に……いや、お兄さんは本気でゴミとしか思ってなさそうなところも少々癇に障るかも」
「何言ってんだ」
「なんでもないです! 兎に角このゴミは自分で始末します。な、なんなら僕がお兄さんの分も始末しておいてあげてもいいですよ」
「おじさんの体をふいたものを女の子に渡すのは訴えられちまうだろ」
「さっきの自分の言動を思い出してくださいいいいい!!」
もうやだ、とかつぶやく少女ちゃんを笑いながら帰宅の道を行く。
コンビニで買ったものだしこれくらい許してくれよと、ちかくのコンビニに捨てさせてもらい駅へと向かう。
電車で揺られながら帰り道を行くが案の定少女ちゃんはぐっすりだった。
座れて良かったよ。
制汗シートの匂いと少女ちゃんの匂いが混ざったようないい香りが俺にもたれかかる少女ちゃんからしてドキッとしたのは内緒のお話である。
降りる駅にたどり着いたときに少女ちゃんを起こしたのだが、いつも通り少女ちゃんの黒歴史が一つ増え、和んだ。
「じゃあ、少女ちゃん、気を付けて帰りなよ」
「はい、今日もありがとうございました!」
「楽しんでもらえて何より」
「お兄さん、また明日です」
「ん、また明日」




