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8月16日
午前10時30分くらいの出来事だ。
いつも通り、俺は公園のベンチで座り込んでいた。
とても暑いこの時間帯だが、ベンチは木陰となっており少しばかり快適である。
スケベ少女ちゃんがいつかのように視界の端をうろちょろして出てこようか迷っているのが目に映っている。
可愛い。
じゃなかった、面白い。
とりあえずもう少し放置することにする、
平和だな。
「うぅぅぅ」
スケベちゃんはうなり始め、必死にアピールをしているかのように見える。
そんなにうなる位なら出てくればいいのにな。
しかし俺は放置する。
こんなこともあろうかと買っておいた缶コーヒーがおいしい。
「……」
おや、スケベちゃんは諦めたのか、去ろうとしている。
今日は帰るのか。
まぁ、そんな日もあるよな。
スケベちゃんが去るのを見届けて俺も帰ろうと立ち上がり、スケベちゃんと反対方向に向かおうとするとスケベちゃんが急いで戻ってきて怒りつけた。
「なんで追ってきてきくれないんですか!?」
「ん? てっきりスケベちゃんは忙しいのかと」
「スケベちゃんってなんですか!?」
「失礼、心の中の呼び方をついうっかり」
「本当に失礼です! 僕スケベちゃんじゃありません!!」
「まぁまぁ」
「……今はそれは置いておきますよ。なんで声をかけたり追ってきたりしてくれなかったんですか?」
「少女ちゃん忙しくて今日は帰るのかと思ってな」
「ずっとこっちを見てにやにやしていたくせに」
「んー、そうだったかな」
「そうです。どうせ全部わかっててやってるんだからほんとお兄さんは最低のサディストさんです」
「悪い悪い」
「……押しても引いても駄目な相手ってどうすればいいんだよ……」
「ずらせばいいんじゃないか?」
「扉の話じゃありませんし、ボソッと言った独り言は聞かないでください。主人公たるもの難聴であるべきです」
「おじさん主人公じゃないから難聴じゃなくても大丈夫だな」
「むーーー」
「そもそも難聴系主人公ってイライラしない?」
「それはするかもしれませんけど、話を作るためにはしょうがないことだって思ってますから。あと、言いたいけど恥ずかしくて言えない、それでも口に出したいって女の子の気持ち、僕、なんとなくわからなくもないですもん」
「ほぅ。存外……って言うほどでもないが少女ちゃんは相変わらず乙女ちゃんだな」
「スケベちゃんの次は乙女ちゃんですか」
「スケベ乙女ちゃん」
「いろいろと残念すぎる表現ですね」
「それにしても『言いたいけど恥ずかしくて言えない、それでも口に出したい』って表現なかなかいいな」
「そうですか?」
「おう、俺的にアレンジするならこうだな。『見たいけど恥ずかしくで堂々はできない、それでもつい行動に移しちゃう』とか」
「〜〜〜〜〜〜」
少女ちゃんが俺の肩をぽかぽかと殴りつけてくる。
あまり痛くは無く、和む。
「少女ちゃん、言い返せないからって暴力はよくないよ」
「泣き寝入りするくらいなら世界を変えます」
「危険思考だなおい」
「それ位、セクハラは罪が重いのですよ。……ま、本音を言えば世界なんて変えようがないってわかってはいるんですけどね」
「世界なんて簡単に変わるぞ」
「あはっ、お兄さんにしては珍しい。中二病ですか?」
「男ってのはどんな年になっても中学二年生の心は忘れられないもんさ」
「それなら僕と同い年ですね」
「……おじさん、よく考えたら精神的にくたびれてるし中学二年生の心なんて持ってなかったわ」
「あ、照れちゃったんですか? 僕と同じ学校に通っていたらとか妄想して照れちゃったんですか?」
「はっ」
「鼻で笑われた!?」
「そもそも少女ちゃん、友達いないだろ」
「だから何回もいるって言ってるじゃないですか!」
「なら男友達は?」
「……いたかもしれません」
「なら、たとえ俺が少女ちゃんと同い年だったところでかかわりは無かっただろうな」
「むぅ……。それなら今の年齢でよかったかもしれませんね」
「嬉しいこと言ってくれるね」
「そこで嬉しいことって言ってくれてるってことはあれですか、同じ学校に通ってたら僕と深い関わりになれないことを残念と思ってさっき発言をいきなり撤回したって解釈をしてよろしいのですか?」
「間違っちゃないかもな」
「ぐはっ。……ここで否定をしないとかほんとくそたらしかよ」
「ん?」
「なんでもないです」
「そうか」
「まぁ、いいです。で、お兄さん、いつも通り暇なんですか?」
「暇っちゃあ暇だな」
「そっかー、僕もいつも通り暇だから少しお話ししてよ」
「こんなおじさんと話なんかして楽しいか? ってかさっき帰ろうとしてたけど用事は無いのか?」
「まだおじさんって歳でもないでしょ。しつこい男は嫌われますよ」
「すまんすまん。話すったって話題が無いだろ」
「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」
「そんな話俺は出来んぞ」
「ははは、僕もだよ」
「だったら意味ないじゃないか」
「ならさ、さっき言ってたけど、生きていてさ、世界の在り方と大きな自分にずれをあってさ、息苦しく感じたら、自分を変えますか? それとも世界を変えますか?」
「どっかのギャルゲー……ってか、最近のアニメで聞いたことがあるようなセリフだな」
「ばれちゃいましたか」
「まぁ、問題ないさ」
「で、お兄さんだったらどうしますか?」
「そうだな……変わんないって選択肢は?」
「我を貫くお兄さんらしいけど今回は無しで行きましょう」
「そうか。なら俺は、リアル路線で考えて、自分を変える、かな」
「どんなふうに変えるんですか?」
「そりゃ、まぁ……」
「……」
「……なるようになるだろ」
「……はい、なるようになるでしょうね」
「よし、俺の話はやめよう」
「えー。僕の話はそんなにありませんよ。それこそさっき言ったとおりですよ」
「少女ちゃん、変えたい現実的な物はある?」
「……それなら山ほど」
「例えば?」
「う〜ん、思い通りになってくれないこの体とかですかね」
「現実的……」
「どこを見ていってるんですか、どこを見て! セクハラすぎます!」
現実的なもんじゃないような気がして少女ちゃんの方を見ていたが、少女ちゃんはなんだか別の意味で受け取ったようだ。
そう受け取れたってことは自覚があるってことだな。
いや、別に俺は成長加減についてはなんも思っていませよ。
本当に。
「まだ少女ちゃん幼いんだしこれからだよ」
「なんで若いって表現じゃなくて幼いって表現にしたんですか」
「なんとなく。ま、中学二年生ならまだまだこれからだよ」
「……別に身長の事で悩んでるんじゃありません」
「身長じゃないなら」
「お兄さんが見ているような部位でもないです! 今日は直接的なセクハラが酷いですよ!」
「いやいや、俺は直接的な事は何も言ってないぞ」
「言外に言うのも直接言うのも直接なセクハラに変わりはありません!」
「世の中の理不尽を垣間見たよ」
「こんなのは理不尽に入りませんよ。もっとひどい理不尽に世の中はあふれています」
「悟ってるねぇ」
「悟ってるんじゃなくて現実を知っているだけです」
14歳が何を言ってるんだか。
とは思ったものの少女ちゃんの顔は真剣そのもの。
それ以上突っ込むことを、俺はやめておいた。
「ま、赤ちゃんをコウノトリが運んでくるとかサンタさんはいないとかわかってれば十分現実を知っているうちに入るか」
「え、サンタさんはいないんですか」
「……」
「……流石に冗談ですよ」
「あんまり焦らせないでくれや」
「うち、煙突無いからサンタさんは来れないから代わりにって親がプレゼントくれてたんですよね」
「へぇ、いい親じゃないか」
「……そうかもですね」
少女ちゃんはあまりいい顔をしておらず、うつむいていた。
反抗期かな。
「すみません、そろそろ時間なので帰りますね」
「ん、気を付けて帰れよ」
「はい、また明日です」
「また明日な」




