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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
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8月11日

 午前11時位の事だ……と思う。

 仕事から帰る途中の俺は休憩のつもりで立ち寄ったいつもの公園のベンチで倒れていた。

 点滴したり強い解熱剤ぶっこんだりとしたおかげで今まで何とか持っていたが今は効果が切れてしまったのか辛い。

 そのせいで、えっちらおっちら死にかけながら歩いてきたからいつもよりだいぶ遅くなっていた。

 昨日、今日は来れないかもと伝えておいたしいつもの時間でもないし少女ちゃんはいないだろう。

 もう少し、休んだら帰ろう。


「お兄さん!?」


 聞き覚えがあるような声がした。

 正直なところ、それでころではなく何もしたくない。


「なんだ、幻覚か」 

「お兄さんは幻覚で僕を求めるほどなんですか?」

「……」

「ってお兄さん、そんなジョーク言ってる場合じゃないくらいやばいじゃないですか。自分の足で帰れます?」

「……しんどい」

「あぁ、もう。なんで公園なんか来たんですか」

「疲れてたから」

「疲れてたんなら家でゆっくり休んで出歩かないでください! なんか僕にできることありますか?」

「……わからん。……あ、すまんが、俺のスマホでタクシー呼んで、貰えるか? ……タクシー会社の番号は入ってるはず……」

「了解です。お兄さん、ちょっとケータイ借りますよ」


 少女ちゃんは少し躊躇した後に俺の荷物を物色し始めた。

 でもスマホは俺のポケットの中にある。

 そのことに気が付いたのか少女ちゃんは少しのためらいの後、一気に俺のポケットに手を突っ込み、スマホを取り出した。


「お兄さん、ロック解除は……ってこの真ん中の触るだけですか。ずさんすぎません?」


 少女ちゃんに何か返事を返してあげたいとは思ってるけどしんどい。

 不慣れな手つきで少女ちゃんは俺のスマホをよいしょよいしょといじくっている。

 

「えっと、これですかね。……あ、もしもし――」


 少女ちゃんは無事タクシーを呼んでくれたっぽいな。


「お兄さん、すぐ来てくれますよ」

「ありがと」


 それからすぐにタクシーは来たようだ。

 少女ちゃんに手伝って貰いながらタクシーに乗り込む。

 この時点でもはやもうろうとしていて記憶があいまいである。


「お兄さん、少し財布借りますね」

「ん」

「えっと、ん? なんだこれ? ……今は置いといて、あ、免許に住所書いてありますね。すみません、この住所までお願いします」

「はいはい」


 俺の家自体はそんなに遠くもなく、すぐにつく。

 

「お兄さん、すみませんけどお財布の中身勝手に使わせてもらいますね。あ、運転手さん、領収書ください。木陰で」

「はいよ」

「ありがとうございました。お兄さん大丈夫ですか」

「……なん、とか」

「大丈夫じゃないですね。鍵は……これっぽいですね。じゃあ行きましょうか」


 少女ちゃんに誘導され、自分の家へと入った。


「おじゃましまーす。……流石お兄さん、無駄にキレイにしてありますね。お兄さんとりあえず横になってください」


 促されるまま、ベッドに倒れ込んだ。


「その恰好じゃ寝苦しそうですね。パジャマは……使わない人っぽいですね。でもこのジャージならまだゆったりできそうです。お兄さん、服脱いでください」


 言われるがままに服を脱ぐ。

 パン一状態になった。


「きゃー、って一昨日見たばっかでした。怒らないでくださいね。あと少し体拭かせてもらいますね。あ、なんか彼女みたいってかきゃー、照れますね」


 ……?

 適当に箪笥からタオルを出し、少し濡らしてから恐る恐るといった感じで俺の体に触れた。

 最初はぎこちが無かったが徐々に慣れてきたのか、遠慮が無くなってきた。

 悪い気分ではない。


「……お兄さん、なかなか引き締まってるいうか、いい体してますね。背中拭き終わったので前も拭かせてもらいますね」


 タオルを再び濡らして、少女ちゃんが前へと周った


「……失礼します。お兄さん意識もうろうとしてますし少しくらい役得あってもいいですよね?」


 彼女のテンションが少しばかりおかしい。

 俺は意識がもうろうとしていて何も不思議に思うことは出来なかったが。

 少女ちゃんは俺の胸板にペタリと素手で触り、はしゃぎ始めた。

 少女ちゃんの細く柔らかい指が俺の乳首に触れた辺りでタイミングよく声が出てしまった。


「んっ」

「……っ! これは、いけないことしている気分になるといいますか……いや若干本当に弱ってるのをいいことにいけないことしているんですが……」


 そんなことを言いながらも少女ちゃんは執拗に俺の乳首を攻めてくる。

 考える力が足りてないが恐ろしいことに気持ちがよかった……気がする。

 それでも変な気持ち良さに流石に不思議を覚えてしまい、だんだん顔が近づいてきていた少女ちゃんに声をかける。

 瞬間、少女ちゃんはびくっとなり、言い訳を始めた。


「べべべっべ、べつにやましいきもちとかあるわけじゃにゃいれすよ! 舐めてみようかなとか思ってなんかもないんれすからね!」

「……?」

「……お兄さんが辛い時にふざけてしまいすいません」


 少女ちゃんは申し訳なさそうな顔になりタオルを手に再び俺の体をふき始めた。

 上半身が拭き終わり、下半身に移った時に少女ちゃんの顔はさらに真っ赤になった。

 弱っていたし、子孫を残そうとする能力が主張していたこともあるのだが、少しは少女ちゃんのせいもあるので我慢して貰った。

 他の部分を拭いているときも一度気になり始めたら目を離せないみたいでずっと凝視している。

 当然俺は不思議に思える体力も残っていなかったためスルー。

 記憶がはっきりと残っていればこのことでしばらく少女ちゃんをからかったに違いない。


「……お兄さん、終わりました。とりあえずこのズボンとTシャツを着てください。あと暑いのでクーラーかけますね」


 この暑い時期に風邪をひくと本当に大変である。

 今でこそクーラーなどと言うものがあるが昔はどうだったのであろうか。

 想像するだけで現代に生まれてよかった、と思える。

 ズボンとTシャツをなんとか着て、再びベッドに倒れ込んだ。


「お兄さん、何かほかにしてほしいことありますか? 水が欲しいとか、熱冷ましの冷えるやつ張って欲しいとか、な、なんなら手を握っていてほしいとかでもいいですよ?」


 照れながら少女ちゃんはそんなことを言う。

 普段の状態だったら可愛いとでも思うのだろうが今はそれどころじゃないのが本音である。

 

「えっ、きゃっ!? お兄さん、それはいくらなんでも大胆すぎと言いますか、ってか力強い!? 抱き枕扱いは嫌じゃありませんけど、お兄さん? お兄さーーーん」


 ……。

 …………。

 …………………………。












 いい匂いがする。

 あと柔らかい。

 力を入れればその分弾力が跳ね返ってくる。

 思わずすりすりした。

 心地が良い。

 ここで意識が完全覚醒した。

 ……やべぇ、やらかした臭がぶんぶんだぞ。

 未成年誘拐拉致監禁……、冷や汗が止まらない。

 とりあえずもう一回だけぎゅっとしてついでにすーはーしてから少女ちゃんの様子を見る。

 寝顔が可愛い。

 恐る恐る少女ちゃんを起こす。


「少女ちゃん、少女ちゃん」

「ん、あ、お兄さん、体調はどうですか?」

「……悪くない」

「そうですか。それはよかったです」


 お互いに顔が赤い。

 ちなみにまだ少女ちゃんは俺の腕の中。

 俺は力を既に緩めている……つもりではある。

 少女ちゃんも少女ちゃんでなかなか出ようとしない。

 

「……少女ちゃん、ちょっと動いてもらってもいいかな」

「……お兄さんこそ、力を少し緩めてください」

「俺は緩めているぞ」

「僕こそ動こうとしてます」


 再びいうが俺はもう力を込めていない。


「ちょっと水をとってもらってもいいかな」

「あ、はい、わかりました」


 あっさりと動いた少女ちゃん。

 

「どうぞ、お兄さん」

「ん、ありがとう」


 水を飲み、のどの痛みも少しだけ治まった。

 こうなるとヤニが欲しい。


「そこの灰皿とタバコとライターをとってくれない?」


 少女ちゃんに頼むとおもむろにたばこセットを隠されてしまった。


「少女ちゃん?」

「そんな咳してるんだから自重してください」

「……こればかりは風邪が関係ないんだよ少女ちゃん。おとなしく後ろに隠したタバコを渡すんだ」

「駄目です!」


 少女ちゃんの意志は固い。

 タバコを求める欲求には抗えないため俺は交戦する。


「……少女ちゃん、タバコを求める欲求は赤ちゃんがお母さんに対しておっぱいを求めるようなものなんだよ」

「聞いて事あります」

「つまり、タバコを吸うやつは乳首依存症ともいえる」

「――ッ!」

「ん?」

「お、お兄さん、今日の記憶ってどれくらいあるんですか?」

「ほとんどないぞ。ここまで来たのだってタクシー使ったっぽいがほとんどおぼえてない」

「……ほっ」

「なんか俺に覚えていられたらまずいことでもあるのか?」

「ないですっ!」

「……そうか。話を戻すが、乳首依存症の俺からタバコを奪うってことはどういうことだかわかるか?」

「……どういうことなんですか?」

「少女ちゃんが俺に乳首を提供しなくてはいけないと言うことだ」

「!?」

「あーあー。どうするのかなー?」

「……午前中の事もありますし、お兄さんがそれほどまでに望むのならば僕の乳首提供ぐらいやぶさかではないといいますか……」


 少女ちゃんは迷っている様子だ。

 やはり午前中に何かあったのだろうか。

 てか、悩まなくてもタバコを俺に渡してくれれば済む話んだがな。


「お、お兄さん、タバコ吸うよりはのどに悪くないですし……」


 少女ちゃんが服をたくし上げようとしてる。

 いやいや、俺捕まっちゃうから!


「待った待った! そこまでしなくてもいいよ、もう……。タバコは今は諦めるよ」

「……僕が帰った後も駄目ですよ!」

「……それは善処する」

「駄目ったら駄目です!」

「くっ、善処で精いっぱいだ」

「もし吸ったら、乳首吸わせろって言われたって言いふらしますよ」

「それは本気でやめてくれ!」


 しまった、墓穴ほったと言うか、黒歴史作ったというか。

 やらかした。


「駄目ですからね」

「あー、わかったよ」

「ならいいです。あ、台所借りますね」

「いいけど、今ろくなもんないぞ」

「れ、冷凍ご飯さえあれば大丈夫です」

「それなら多分ある」

「なら大丈夫です」


 少女ちゃんは手際よくおかゆを作り始めた。

 俺はそっとタバコを取り寄せ――。


「怒りますよ?」

「なぜ後ろを見ないで俺の行動を」

「もろばれですよ」

「くっ」

「もう少し待ってくださいね」


 ……幼な妻。

 そんな印象が浮かんでしまった俺は末期な感じがして怖い。

 煩悩を頑張って退散していたら少女ちゃんのおかゆが完成したようだ。


「お兄さん、どうぞです。あんまり自信はありませんが」

「いただきます」


 ……うまい。

 風邪で味覚が死んでるからか正直味はわからないけどとてもおいしい気がした。

 誰かの手料理なんて久しぶりだな。


「いただきまし――ごちそうさまでした」

「今なんていいかけたんですか?」

「手料理なんて実家以来だから少し方言が出かけた」

「へー。別に使ってもいいのに」

「まわりがぽかーんってなるからな」

「そういうもんですか」

「そういうもんだ。少女ちゃん、おかゆおいしかった、ありがとう」

「お粗末様です。お兄さん、僕そろそろ帰りますけど大丈夫ですか?」

「おう、大丈夫」

「……タバコだめですよ」

「……気を付ける。あ、少女ちゃん、もういい時間だし、タクシー呼んどいた」

「いや、この時間ならまだ歩いて帰れます」

「道分かる?」

「……自信あるとは言えないかもです」

「今日一日お世話になったお礼だ……ってか責任だ、受け取れ」

「ありが……ってこんなにはいらないですよ!」

「どれくらいの距離があるかわからんからな。もしあれだったらおつりを返してくれればいいよ」

「……ちゃんと領収書と一緒に返します」

「了解」


 少しのんびりしていると、タクシーが付いたようだ。

 少女ちゃんを送り出す。


「今日は色々と助かった」

「いえいえ。こちらこそいろいろとご馳走様です」

「何がご馳走様かはよくわからんが気を付けて帰れよ」

「……お兄さんもあんまり期待ばっか持たせるような行動は控えてほしいかもです。脈ありなんだかどうだかわかんないけど期待しちゃう僕が憎いです」

「ん?」

「なんでもないでーす。それじゃまた」

「ん、それじゃまたな」


 少女ちゃんは時折聞かせたいのか聞かせたくないのかボソッと言う癖がある。

 今日のはよく聞こけなかった。

 そういえば、少女ちゃん、今日は寝起きがよかったな。

 増える黒歴史を見ることができなくて残念だ。

 煙草を咥えながら、ふと思った。

 ライターでカチカチするも火が付かねぇ。

 ……少女ちゃんの悲しそうな顔が頭に浮かんでしまった。

 ……少し禁煙するか……。

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