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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
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8月9日

 午前7時10分くらいの事だ。

 最近とんでもなく暑くて昨日も隣の県ではとてつもない気温になっていたそうだがこの時間ならば少しはましである。

 木陰を走るのはなかなか涼しくて気持ちが良い。

 少女ちゃんを待たせてはいけないと早めにつくようにした。

 所が既に少女ちゃんはいつものベンチに座って待っていた。


「あ、お兄さん、おはようございまーす」

「おはよう。ところで、少女ちゃん、早すぎじゃない?」

「えへへ、楽しみすぎて早く着きすぎちゃいました」

「楽しみにしてくれるのはうれしいがしっかり寝たか」

「はい。ばっちしです」

「ちなみに俺は3時半起きだ」

「早いですね」

「あぁ、時差が憎い」

「あぁ、なるほど……。お兄さんリアルタイムで見てる辺り友人がに教え込まれただけじゃなくて普通に好きってレベルじゃないですか」

「そうかもな。とりあえず、日本おめでとう!」

「それはそうとお兄さん、バイクかっこいいですね」

「おー、ありがとう」

「なんかバイクらしいバイクって感じがします」

「バイクと言ったらこれって感じがするもんな」

「えっと、はーれーとか言うやつですか」

「ちょっと違うかな。そんなに詳しくなる必要はないだろうがこのバイクはドラスタ400のクラシックとでも検索すればでてくるぞ」

「へー」

「二人乗りは割としやすいぞ、ほいっ」

「わわっ」


 ヘルメットを少女ちゃんへと渡す。


「フルフェイスですか」

「あぁ、もってるのがそれとこれの2つしかない」

「お兄さんのはフェイスガードが下りる奴ですか」

「フルフェイスの方が安全だから少女ちゃんはそれを使ってくれ」

「了解です」

「あと、嫌かもしれんがしっかりと俺に抱き着いてくれよ」

「りょ、了解です!」

「じゃ、少し早いけど安全面かねてゆっくりめに走るつもりだしそろそろ行くか」

「はい」

「少女ちゃん、乗れる?」

「た、多分大丈夫です」

「抱っこしようか?」

「だ、大丈夫です!」

「ぎゅっとしてあげようか?」

「……ちょっとしつこいですよ」

「ごめんごめん」


 少しムッとしながらも照れてる辺り可愛い。


「ん、大丈夫そうか」

「はい」


 おそるおそる腰に回した後、ぎゅっとされた。

 ぎゅっとされるのは俺の方だったか。

 女の子後ろに乗せたことは無かったけど、うん、悪くないな。

 押し付けられているかもしれんがほんのりとしか感じない、何がとは言わないが。


「出発するぞ」

「だ、大丈夫です」


 少女ちゃんを乗せ、ゆっくりバイクを発進させる。

 俺を抱きしめる手に少し力が入った。

 ふむ、なかなか良い。

 しばらく走ってると慣れたのか、少女ちゃんも楽しみ始めたようだ。

 気配でしかわからないが。

 一時間も走らないうちに目的地へとたどり着いた。


「はい、到着」

「ふぅ、楽しかったです」

「んー、そいつは何よりだ。じゃあ、バイクおいてくるからちょっとここで待っててくれ」

「わかりました」


 駐車場にバイクを置き少女ちゃんのところまで戻る。


「おまたせ」

「そろそろ入場券買えますね」

「HPみて悩んだんだよな」

「何をですか?」

「小学生、大人は書いてあるけどその間の中学生とか高校生が書いてないんだよなぁ。たぶん大人になるんだけど……」

「……どうかしましたか?」


 嘗め回すように少女ちゃんの全身を見る。


「大丈夫そうだな」

「何がですか!?」

「少女ちゃん、君は小学生だよね」

「ちょっと無理がありませんか?」

「少女ちゃんは自分を客観的に見るのが下手くそだなー」

「いやいや、お兄さんに言われたくありませんよ!」

「ま、金はあるし大人でいいか。割引関係の物は……持ってないな」

「あ……」

「ん、なんか持ってる?」

「……いえ、なんでもないです」

「そうだよねー。まぁ、いいか。並ぶか」

「あ、僕も今度は一緒にならびます」

「待っててくれてもいいけど暇か」

「はい、待ってばっかりも寂しいです」

「今日は待ってばっかになるぞ」

「大丈夫です! 話題は沢山考えてあります」


 少女ちゃんとたわいもない話をしていたらすぐさま順番がやってきた。

 大人2枚の遊園地、プールに入れてアトラクション乗り放題のチケットを買った。

 

「さて、少女ちゃん。まずはプールからだけどいい?」

「はい」

「じゃあ更衣室に……と、その前に」

「なんですか?」

「ちょっと写真とっていい?」

「……何に使うんですか?」

「そんなに警戒しなくても」


 苦笑しながら少女ちゃんへと事情を話す。


「何かあった時に探しやすいだろ。少女ちゃんケータイ持ってないし。てか俺ら実は名前も知らないよな」

「そういえばそうですね」

「迷子の放送で使うかもだから少女ちゃん、名前教えてくれる?」

「迷子の放送は出来れば使わないでほしいですけど名前は教えます。小諸純恋こもろすみれです。小さいに諸外国の諸で小諸、純粋な恋って書いてすみれです」

「キラキラしてるな」

「まともに読んでもらったことないです」

「そうかもな。純恋ちゃんって呼んだ方がいいか?」

「それはそれでうれしいですけど照れくさいです」

「なら今まで通り少女ちゃんでいいか?」

「んー、悩みます」

「ま、少女ちゃんでいいか」

「……お兄さんが呼びやすいならとりあえずはそれでいいです。お兄さんの名前も教えてください」

「俺の名前は別に知らなくてもよくないか?」

「駄目です!」

「はいはい。木陰明緒。木の陰で木陰、明るいの明に、綾○の声優さんの緒で明緒だ」

「とてつもない紹介の仕方をしますね。僕はわかるからいいんですけど」

「少女ちゃん分かるのか」

「はい、序からQどころか、アニメの一話から旧劇まで一通りは目を通しました」

「旧劇の方は発禁ついてるから見ちゃだめだぞ」

「大丈夫です。禁止じゃなくて自粛しましょうなので」

「そうだったけか? 細かいところまで覚えてないや」

「大丈夫ですよ」

「とりあえず大丈夫って事にしておくか。じゃ、撮るぞー」

「可愛く撮ってくださいね」

「少女ちゃんはどんなのでも可愛いから大丈夫だよ」

「っ!?」


 あ、なかなかいいのが撮れた。


「……このくそたらしめ」


 少女ちゃんが何かぶつぶつ言っているがそれはよく聞き取れなかった。


「少女ちゃん、とりあえず男の方の出口のところらへんにいるから」

「わかりました。すぐ着替えていきますね」

「時間かけてもいいからこけたり他の人にぶつかったりしないようにな」

「気を付けます」


 少女ちゃんと別れた後、俺はトランクスタイプの水着にさっさと着替えた。

 ふむ、鍛えたせいかが少しはでたかな。

 なんて考えた後プールの方へ向かった。

 そんなに待つこともなく少女ちゃんもやってきた。


「すみません、お待たせしました」

「全然待ってないから気にするな。可愛い水着だな」

「ボーイッシュな感じでよろしくお願いしますって頼んだらこれをもってきたので即決です」

「ふむふむ、なるほどな」


 少女ちゃんは青のフリルの水着で下は短パンみたいなタイプのものを着ていた。

 可愛い。

 可愛いが……。

 やはり小学生料金で行けたな。


「お兄さん、視線がエッチぃです。いや、それ以上に失礼な気配を感じます」

「悪い悪い」

「……いいですけど。それにしても、こんな時間なのに人多いですね」

「あぁ、すでにいも荒い状態に近いとは恐れ入るな」

「スライダーとか乗りに行きましょうよ」

「いいけど、ここのはパンツが食い込むことで有名だからあんま激しくないのにしたいな」

「パンツが食い込むお兄さんもきっとかっこいいから別に大丈夫ですよ」

「いや、パンツ食い込んだ青年がかっこいいとかそれはそれでやばいだろ」

「……すごい絵面かもです」

「かもじゃないな。すごい絵面だ」

「だ、大丈夫です。とりあえず行きましょうよ。今ならまだそこまで並ばなくても大丈夫そうです」

「そうだな。1個乗ったら流れるプールでも行ってゆったりしようぜ」

「了解です」


 思っていたよりも早く進み割とあっさり乗れたのだが……。

 スライダーはやばかった。

 もう2度とは乗りたくないね。

 その後も流れるプールでのんびり流されたり、別のスライダーに挑戦したりしていたらあっという間に午前中が終わってしまった。

 イモ洗い状態だったためまともに泳ぐことはあまりできなかったが。


「そろそろ上がって昼飯を済ませてから遊園地の方行こうぜ」

「わかりました。時間が進むのって本当、早いですね」

「そうだな」


 着替えをすまし、遊園地の方へ。

 ドライヤーを使わなかったのか少し少女ちゃんの髪が乾き切っていないがこの暑さだ、すぐに乾くだろう。

 ……プール上がりの女子ってなんとなくドキドキしたような記憶があるなぁ、いや別に今関係ないけどさ。

 ぼったくりみたいな値段のフランクフルトや焼きそばを昼飯として済ませ、早くアトラクションに行きたくて仕方がない様子の少女ちゃんを手を握る。


「!?!? お兄さんどうしたんですか!? 妙に積極的ですね!? 何のサービスですか!?」

「何を混乱しているのかよくわからんが少女ちゃんがうろちょろしたら危ないし、はぐれるのあれだろ? 少女ちゃんがいやなら手を握るのはやめとくが」

「いえいえ、僕的には最高なので問題ないのです!」

「時々少女ちゃんは何を言っているのかよくわからない時があるよな」

「僕はこんなにもはっきりとしているのにわからないお兄さんが異常です。てゆーかラノベとか読んでるくせにおかしいです」

「?」

「なんでもないです」

「そうか、少女ちゃんがいいなら別にいいけど。どれから回る?」

「あ、円盤に乗ってくるくる回るやつ逝きましょうよ」

「フリスビーか。手始めにはちょうどいいか」


 たわいもない話をしていたらあっという間に順番がやってきた。

 1個目でおじさんはグロテスクとなった。

 少女ちゃんは元気で次は何にしますか?と無邪気に聞いてくる。

 船のやつ、大車輪しちゃうやつ、急降下するやつなどを乗った後流石に厳しくなったので少し休憩をはさむことに。


「お兄さん、次はお化け屋敷とかどうですか?」

「あぁ、お化け屋敷ね。いいよ。少女ちゃん唐突に抱かれても驚かないでね」

「ばっちこいです!」


 そんなことをいいながら入ったはいいが少女ちゃんもあまり強くないのか俺の腕に抱き着いている。


「二人してこれじゃ大丈夫かよ」

「お、思ったより怖いんですもん」


 二人して悲鳴を上げながら道を進んだ。

 正直もうやめておきたいな。

 その後、定番のすごいやつ、高いところで旋回するやつ、カップに乗ってくるくる回るやつ、カートに乗るやつ、時間のある限り色々なものに乗った。

 俺はグロッキーだが少女ちゃんはどれも楽しそうにしている。

 あの笑顔を見れただけでも連れてきた良かったと思える。


「お兄さん、お兄さん」

「どうした」

「最後あれ乗りましょう」


 少女ちゃんが指をさしたのは観覧車。

 あれなら楽そうだしおじさん的にはうれしいかも。

 二人で観覧車へと乗り込む。

 最初のうちは、二人して話すこともなく外の景色を楽しんでいた。


「綺麗ですね」

「いや、少女ちゃんの方が綺麗だよ」

「っなんでいきなり口説いてくるんですか!?」

「なんたってとげがあるほど綺麗な花らしいからな」

「〜〜〜〜お兄さんは意地悪です!」

「はっはっは」

「……もうっ」


 少女ちゃんは真っ赤になって外の景色を眺めている。


「……お兄さん、本当に今日は楽しかったです。下手したら人生で一番」

「そこまで楽しんでもらえるとか主催者側冥利に尽きるな」

「そろそろ頂上ですね」

「一番高いところか。なんとなくだがロマンチックな感じがするよな」

「……先の先をつぶしてくるあたり悪意を感じて仕方ないです」

「あ?」

「何でもないです。お兄さん、大事な話があります!」

 

 少女ちゃんが今日一番真剣な顔をしている。

 俺も流石に茶化すことはできない。


「そ、その、おにいしゃん!」

「……」

「ぼ、僕――」


 意を決し、少女ちゃんは俺に大切なことを告げてきた。


「――今日は連れてきてくれて本当にありがとうございました!」

「なんだ、そんなことか。気にするな。もともと遊んで手に入れた金だし」

「いえ、お礼はしっかりしなさいと親に言われているので」

「まぁ、受け取っておくよ」

「あ、もしかして告白とかされると思いました?」

「まさか。そこまでうぬぼれてはねぇよ」

「……ちぇっ、悔しいな」

「ん?」

「何でもないです」


 いつもからかわれているだけに俺をおちょくれなくて悔しいのかな?

 俺は難聴系主人公ではないからしっかり悔しいなは聞き取ったぞ。

 観覧車ってのは長いものだと思っていたがすぐに降りる時が来てしまった。

 もう後はバスに乗って帰るだけである。

 いや、帰りに晩御飯を食べるし帰るだけではないか。 

 

「そろそろ帰るよ、少女ちゃん」

「はい」

「なんかもう瞼がくっついちまいそうだな」

「す、すみません」

「バス取っといてよかったな。ゆっくり寝て大丈夫だぞ。肩位なら貸してやる」

「はぅ、よ、よだれとかたらさないように気を付けます」

「よだれくらい気にするな。子供は大人に甘えるもんだ」

「……ありがとうございます」


 子供と言われ少しむすっとしてしまったが歳の差も考えると何も言えないのか、お礼を言うだけにとどまったようだ。

 えらいな。

 帰りのバスではもうぐっすりだった。

 寝言がちょくちょく聞こえたのがまた可愛かった。

 「ずっと…………てた……あったかい」だの、「えへへ、……わいい……ってもらった」だの解読は厳しいが兎に角可愛かった。

 んー、寝顔をとる位なら許されるかな。

 などと葛藤に悩まされながら、サイレントカメラのアプリを落とし、少女ちゃんの可愛い寝顔をパシャリとして置いた。

 駅まではそこまで遠い距離でもなくあっという間についてしまった。


「少女ちゃん起きれる?」


 思った以上にぐっすりである少女ちゃんに軽く起きれるか聞いてみても答えが返ってこなく、なんか起こすのは忍びなくなったので、おんぶして歩くことにした。

 軽いなぁ。

 改札も駅員さんの方に事情を話し切符を通してもらった。

 うん、帰りにご飯どころじゃないな。

 いつもの公園につくまで、少女ちゃんは起きなかった。


「少女ちゃん、そろそろ起きようか」

「んんー、朝ですかぁ?」

「もう夜だよ」

「あっ、おにいさんらぁ」

「はいはい、お兄さんですよ。このままだとまた黒歴史が1個増えるよ」

「……っ!?」


 そこからは一気に覚醒したのか、少女ちゃんは跳ね起きた。


「えっ、ここどこですか!?」

「いつもの公園」

「えっ、バスに乗ったところまでしかありませんよ僕!?」

「うん、ぐっすりだったからな」

「すすすすすすみません」

「何の問題もないよ。少女ちゃん軽すぎるからもう少ししっかり食べた方がいいよ」

「みゃーーーーー、え、え、え、もしかしてここまでずっとおんぶですか!?」

「うん」

「本当にすみません! てかなんでそんないい展開で僕ぐっすりなんだ……」

「疲れてたししょうがないだろ」

「疲れてたで迷惑かけたら警察要らないんです!」

「いや、この程度じゃ警察は普通にいらないよ」

「それでも僕が自分を許せないんですよ!」

「気にするほどじゃない。ところで少女ちゃん、晩御飯どうする?」

「……今日はもう帰らせてもらいます」

「了解。くらいから送ってった方がいいんだけどどうする?」

「もうこれ以上迷惑かけれないってか顔を見るのも恥ずかしいので見逃してください」

「はっはっは。でもおじさんもそれなりに責任があるからなぁ」

「……大丈夫です。最悪これ鳴らしますんで10分経っても音が聞こえなければ僕は無事帰れたと思ってください」


 そういって少女ちゃんは防犯ブザーを見せてくれた。

 下手したら俺が鳴らされるなそれ。

 気を付けよう。


「おーけー。じゃあ気を付けて帰りなよ」

「はい、本当に今日はありがとうございました。とっっっっても楽しかったです」

「おう、俺も楽しかったぞ」

「ではお兄さん、また明日」

「ん」

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