13
8月5日
午前10時50分くらいの出来事だ。
少しばかり用事があっていつもよりも遅れて公園へと付いた。
待ち人がベンチに座っているのが見える。
声をかけようと思ったが少女ちゃんはベンチに座りながらすやすやと寝息を立てている。
起こしていいものか少し迷いながら隣に座る。
すぅすぅと言う音がとてもかわいい。
でもいつまでもこの暑い中寝かせといて時間の都合があわなくなるのもかわいそうなので起こすことにした。
「少女ちゃん、少女ちゃん」
「んん」
肩を軽くたたいたら少し艶かしい声を出されてドキッとした。
「んー、おにぃさんだぁ」
「はいはい、お兄さんです」
「ぎゅぅっとしてくださぃー」
「少女ちゃん、黒歴史できてるよー」
流石にぎゅっとするわけにはいかないから軽く頭を撫でてやる。
撫でているうちにぽぉーっとしていたのが覚醒してきたのか、唐突にびくっとしてから真っ赤になった。
「……オハヨウゴザイマス」
「んー。おはよう少女ちゃん」
「そ、そろそろ手をどけてもらってもいいですか……?」
「んー。ぎゅっとはまだしてないけどやんなくてもいいのー?」
「……忘れてください」
「それは厳しいかもしれない」
「忘れてください!」
「録音できなかったのだけが残念だ」
「お兄さんは意地悪です!」
「はっはっは」
「むぅ……」
むくれてしまった少女ちゃんを最後にぽんぽんとしてから手を離す。
そして遅れたお詫びにと買ってきたジュースを渡す。
「まぁ、そんなに怒るなって」
「……ありがとうございます」
ジュースを受け取りしっかりとお礼を言える少女ちゃん、えらいな。
「少女ちゃん、この暑い中よく眠れたな」
「暑くても抗えない時ってあるんですよ」
「わからんでもないが、俺は高校の時の授業中に暑くて目が覚めたってことが結構あったぞ」
「それは眠気が足りてませんね。あと根性も」
「精進するよ」
「ぜひそうしてください」
「でも黒歴史を量産するぐらいなら精進しなくてもいいかも」
「〜〜〜〜〜〜」
少女ちゃんは唇をかみしめてこちらを睨み付けてきた。
楽しい。
「……こんな時間にいたいけな少女をからかってるなんて暇なんですか?」
「あぁ、暇っちゃあ暇だな」
「……そっかー、僕もいつも通り暇だから少しお話ししてよ」
「こんなおじさんと話なんかして楽しいか?」
「……まだおじさんって歳でもないでしょ」
「話すったって話題が無いだろ」
「……なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」
「そんな話俺は出来んぞ」
「……ははは、僕もだよ」
「だったら意味ないじゃないか。てか少女ちゃん機嫌直そうぜ」
「別に不機嫌なんかじゃないですよ、つーんだ」
「つーんだって」
「何笑ってるんですか!? 何ニヤけてるんですか」
「いや、だってな」
「失礼です!」
「まあまあ。所で少女ちゃん、今日は明日の事を話そうぜ」
「いいですね」
「プールの方が8時半、遊園地の方が9時半からだけどどうする?」
「沢山遊びたいですしとりあえず八時半につく方が僕はうれしいです」
「オーケー。七時半頃ここに集合で大丈夫か?」
「ちょっと待ってください。メモとります」
「メモとる習慣があるのか。なかなかいい習慣だな」
「帰ってから考えるのに便利ですし。っと書けました。明日の七時半にここに集合で大丈夫です」
「持ってくもんは少女ちゃんは水着くらいでいいかな」
「もう一応水着も買ったのでバッチシです」
「着てきて下着忘れたなんてことにならないようにね」
「小学生でもあるまいしそれはないですよ」
「それならいいけど」
「僕が持ってかなきゃいけないものは他にはありますか?」
「電車に乗れるようにカードもしっかり持ってきて欲しいかな」
「了解です」
「あとは体力かな」
「バッチしにしていきます!」
「なら大丈夫かな」
「帰りは七時くらいに向こうを出る予定。親にしっかり行っといてもらえるか」
「あ、その点は大丈夫です」
「ん、大丈夫ならいいや。しっかり伝えといてくれよ。未成年誘拐扱いになって俺社会的に死んじまうから」
「気を付けます」
「あと晩御飯もついでに済ませていくつもりだけど大丈夫か」
「はい、無問題です」
「……もう一回言ってもらえるか?」
「? もーまんたいです」
「……ありがとう、何でもなかったぜ」
「変なお兄さんですね」
「あぁ、変なおじさんだな」
「自分で言っちゃいますか!?」
「おじさん客観的に見るのは苦手じゃないからな」
「それも自分で言っちゃうあたりどうかと思います」
「はっはっは。まぁ、それは置いといて、明日の遊園地で言わなきゃいけないことは多分もうないよな」
「う〜ん、僕はただひたすらお世話になるだけなのでよろしくお願いしますとしか言えないです」
「ん、ま、大丈夫かな。楽しみにしすぎて風邪とか引くなよ」
「気を付けます!」
「ならばよろしい」
「じゃあお兄さん、僕そろそろ時間なので行きますね」
「気を付けろよー」
「はい、お兄さん、また明日!」
「また明日」