デラ・マンタ
「ぐるるん」
地面から躍り出たメレナは、弧を描くように飛び上がり、正面の魚人を縦に切り裂くと立ち上がった。
「思い知れっ、この『化け物』どもっ!」
しかし、串刺しされたデラ・マンタはやりを抜き取ると無造作に足元に転がし、メレナに向かって近づいてきた。既にその傷跡は塞がっている。
「懲りないやつだな、我らに勝てるはずはなかろう。おとなしく聖水を差し出せば良いものを」
「あんた達に一滴だってやるもんか。地底のマグマを一斉に降らせるなんて、そんな事させるものか」
「お前、どこでそれを聞いた?」
「アガルタの主、マオ様からさ。よくも今まで騙したな!」
「ふふふっ、エスメラーダが必要としている、そう言えば疑いもせず、今日まで聖水を差し出していたのにな。知らぬ方が長生き出来たろうに、哀れな娘よ」
そう言うとデラ・マンタは腰の直刀を音も無く抜いた。
「心配ない、なあに、すぐ楽になる」
「ヒュン」
(ああ、これがこの世で聞く最後の音か)
メレナは両目を閉じた。
「うぐっ、だ誰だっ!」
メレナの目に、腕をくさりに絡められたデラ・マンタとそれを投げつけた三人が飛び込んだ。
「ラナ、どうして? それにその二人は?」
「お話はあとにしましょう、メレナ」
「ふふん、なにかと思ったが、助っ人になりそうには到底見えんな。やれ、おまえたち」
マンタが一斉に標的を変えた。
「それはどうかしら? オローシャ・ピリリカ、雷よ降れ!」
ラナはくさりを真一文字にすると雷雲から呼び込んだ雷を次々とマンタに向けた。魚人は身体を貫かれるとその熱で一瞬で燃え上がり、炭化して砕け散った。
「おのれっ、貴様妖術使いか」
「オーロラの巫女とでも呼んでくれないかしら?」
残ったマンタはぐるりとラナを取り囲んだ、接近戦では雷は使えない。ラナは茶色の鞘から、今度は短刀を抜き構えた。
「人間はいちいち武器が必要だ、くくっ、不便だな」
正面にいたマンタの右手がソードに変形した。つばぜり合いは一進一退、しかし次第にラナの包囲網が狭まってくる。
「娘、残りの聖水を差し出せ。まあ、わし達の計画を知った以上、どのみち命はないが」
「命に代えても、おまえなんかに渡すものか、これはアガルタの希望」
メレナは胸に下がったペンダントを握りしめた。
「お望みとあらば、ひと思いに殺してやる」
「うっ、はやい……」
次の瞬間デラ・マンタの指が一本長く鋭く延び、メレナの右胸を貫いた。仰向けに倒れるメレナを後ろから抱きかかえたマンジュリカーナの目に、魚人に引きちぎられたペンダントが青く光った。
「このままでは」
マンジュリカーナはマナの力をほとんど使い尽くしていた。母リカーナがオサに預けた「宝玉」に賭けるしかない。
「あの箱を開けなさい、マンジュ!」
「はい」
中には古びた楕円形のブローチが入っていた。
「なに? これは甲虫のブローチ」
「マンジュ、それはレムリアの守り神『虹色テントウ』。私のお母様のもの、よく見ているのよ」
彼女はレムリアから持って来た青い翡翠を取り出した。それこそ後の『マンジュリカの玉』だ。
その翡翠がブローチの中心に収まった。古ぼけたブローチが一瞬でプラチナに変わると白く輝いた。
「ナノ・マンジュリカーナ!」
その呪文の後、そこにはレムリアの女王にして最高の巫女「マンジュリカーナ」が立っていた。彼女は虹の戦士にこそなれなかったが、しばらくはメタモルフォーゼが可能だった。ランスを構え、デラ・マンタに突きつけ、こういった。
「私のマナがあなたにそれを渡さないようにと繰り返しています。ここに置いて立ち去りなさい!」
「ぐふふふっ、はいそうですかと俺が返すとでも思うのか、欲しければ腕づくで取り返してみろ」
「それが返事という事ならば」
彼女はランスに力を込めた、そのランスは鮮やかな青色に輝き始めた。ただならぬ雰囲気にデラ・マンタはハッとした。
「貴様、まさか……」
「もう、おそい。レム・アガルタ!」
ランスから放たれる一瞬の青い閃光がデラ・マンタを炭化した。残ったマンタはうめき声を上げ、その場でドロドロに溶解した。マンジュリカーナも力尽き、その場に倒れた。
駆け寄る娘にマンジュリカーナは微笑み、こう話した。