旅の終わり
クシナもヒメカもイオナとともに天界に消えた。オロチ、ミコト、マオは根の国に向かった。創始の次代は終わりを告げ、偶生の神は人型になり、それぞれの地で暮らし始めた。
アキツで人魚たちと別れた、二人の乗った舟はようやくオロスの村を見つけた。
「村に誰か生き残っていないかしら?」
「きっと、誰か迎えてくれるさ、ラナ」
村に近づくにつれ、生々しく焼けこげた家が飛び込んできた。二人の目には黒い煙がまだ上っている様にさえ、思えたほどだ。不安気に浜を見つめるラナの瞳がすぐに輝いた。
「誰か手を振っている、母さん、母さんだ!」
メシナは村人とともに魚人たちの焼き討ちの時、オロスの『凍結の術』を使い、厚い氷の中で劫火を避けていたのだ。
「あら、随分美しく、逞しくなって。おまけにキリトまで連れ帰ったのね」
メシナは初めてラミナを兄が連れてきた日のことを思い出した。
「ただいま、母さん」
「お帰り、ラナ」
抱き合った二人をキリトはずっと見ていた。しばらくして、メシナが言った。
「明日から、巫女の修行よ。『オロシアーナ』として、そしてオロスの花嫁としてもね」
「ハハハッ、ラナもこれから大変だな」
キリトが笑いながら言った。
「キリト、お前は、立派な漁師にならないとな」
「父さん、無事だったの、良かった」
建て直しの終わった部屋から出てきた父はラナに涙で潤んだ笑顔を見せた。
(リカ、イオナ様のおっしゃった通り。私の中にはエスメラーダの意志、ルシナもダルナもそしてラミナ母さんも生きている。オロスの村をまた『オーロラの最も輝く村』にしてみせるわ。今度はキリトと一緒に)
「さあ、今夜は二人の結婚祝いだ!」
「まあ、気の早いこと」
夜、新しくなったラナの家では明け方まで笑い声が絶えなかった。空には美しいオーロラが踊っていた。
「大丈夫かしら? ラナとキリトは、極寒のオロスで二人っきりってことはないかしら?」
「心配性だな、マンジュリカーナのときと偉い違いだな、リカ」
「そりゃそうよ、ラナと同い年にシンクロしたけど、レムリアから来たときはまだ小ちゃかったもの。あなたの様に『おじさん』じゃないもの」
「おれたちカイリュウも転生の力を失った代わりに随分若返らせてもらった。でも『おじさん』はないだろう」
「あっ、怒ったの? 頼りがいがあるってことよ、シラト」
砂漠と化したカムイを離れ、大陸の東に来た二人は、ヒメカの故郷『アキツ』を目指していた。途中里香は小さな花に気付き、その足を止めた。
「きれいな紫色、まるでレムリアのトレニアの丘にいるみたい」
「それは、この辺りのマンジュリカ、アキツでは『すみれ』と呼ぶそうだ」
「本当に何でも知っているのね、シラト」
やがて二人はアキツに渡り、暮らし始めたという。
「本当に私がアガルタを治めるのか、一度はアガルタを利用した、この私が」
「大丈夫、今度は一人じゃないわ。昔の様に私があなたのそばにいるわ」
黒人魚イラーレスは全てのエスメラーダの転生の力を集めた。クシナの娘『アキナ』、最初のエスメラーダ人魚『ルシナ』、そして『ダルナ』、七海の人魚の『マーラ』そしてラナの生みの親、最後のエスメラーダ『ラミナ』に受け継がれた転生の力が、カイリュウ族の女王として『カルナ』にもう一度だけ生を与えたのだった。メイフは『カルナとの記憶を残す』ことと引き換えに、その転生の力を永遠に失った。しかし、それでもメイフは満足だった。
「アガルタには、マオ様の心が息づいている。ほら、カルナこれを見ろ」
そういうと巨大な『マッコウクジラ』は笑って大きなヒレを振った。水深数千メートルも潜り、その巨体を自在に動かせるヒレは、まるで『シロナガスクジラ』の様に白く変わっていた。
漆黒の人魚は、七海の人魚とともに微笑みながら、後に続いて深々と潜って行った。
なっぴの昆虫王国 シャングリラ編 (了)
ご愛読ありがとうございました。この作品は自身のブログで、2015.10.8まで連載していたものです。
中学生になったなっぴは、祖母が人間界に着いた頃のこんな記憶を、まるで実体験の様にダウンロードしたのです。そして平和な日常は瞬く間に過ぎていきました。レムリアの仲間たち、幼馴染みのタイスケ。彼らが登場し、次第になっぴの物語も終わりに近づきました。
次回では『インセクトロイド(人造昆虫人)』の『シュラ』を巡ってそれぞれの思惑が交錯し、その中でなっぴに新たな試練が課せられる事となります。




