異界からの通信
「母様、ふさぎ込んでどうしたの?」
「あら、マンジュ。なんでもないのよ、さあ虹のほこらに行きましょう」
二人の王子、『イオとアギト』の暴走をなんとか食い止めたレムリアでは、虹のほこらから次第に復興が始まっていた。ほこらには早くも一輪のトレニアが『笑って』いた。そして深いエビネ池の底に沈んだ王宮にはマンジュリカーナの最愛の『カブト』の魂が収めてあった。
「あなたのおかげでこの国は救われました。今度は私の番です、今日旅立とうと思います」
マンジュリカーナは戦いの後四分した各国を訪れ、素質のある娘を選び出した。彼女の持つ呪術を伝授し、修行を終えた彼女らに今日集まるように指示したのだ。虹の宝玉をこれからほこらに納める。
「王国はアロマと巫女たちがきっと守ってくれる。私は異界ですべき事がある」
それは、異界の強力な念波を彼女が捉えた事から始まった。宇宙船の中で産まれた彼女は、誰よりもその力に優れていたのだ。その念波は懐かしい『アガルタ』の『マオ』のものだった。
「アロマ、巫女たちをよろしくお願いするわ。それともうひとつトレニアの事も」
長女のトレニアはミルノータスの妻となり、身籠っていた。異界に連れて行く訳にはいかない。
「それはいいけど、姉さんだけでいいの? 私にも責任があるのに」
アロマもまた『マオ』を知っていたのだ。しかしマンジュリカーナは優しく笑った。
「心配しないで、マンジュを連れて行くわ、この娘がやがて『覚醒』すれば立派にやり遂げてくれる」
マンジュリカーナは七色の宝玉を虹のほこらに納めると、虹色テントウに向かって命じた。
「虹色テントウよ、この王国にもし最大の危機が訪れたなら『虹の戦士』は必ず現れる。正しき意志の集まった時、七色の宝玉がここに再び集まった時」
マオの通信がまた少し弱くなり、彼女に届く。
(……マンジュリカーナ、もう私では『アガルタ』を守りきれない……)
「トレニア、母とマンジュは異界に向かいます。マンジュが覚醒すればどんなに離れていてもあなたにそれは伝わるはず。あなたたちはたった二人の姉妹なのだから」
「母様、わかりました。もう淋しくありません」
「それでこそ、私の娘。この国を巫女たちと守るのですよ」
「ここにおいでトレニア」
娘を抱きしめ、マンジュリカーナはほおずりをした。彼女は涙を気にもしないで、両腕に力を入れた。
「母様、母様……」
やがては母になろうとするマンジュの姉、トレニアは小さな子供に戻っていた。
「……マンジュリカーナ……」
涙声でよく聞き取れない呪文と共に、マンジュリカーナ母娘は異界に消えた。