ミコト再誕
「もうひとつ知っているぞ、お前は完全なマンジュリカーナではない、再誕の術は母の様には使えないことをな、それに再誕の石『ナツメの石』はマオに懇願されて使ってしまい、既にエスメラーダの中にある。それを抜き取るだけの力をお前たちは持ってはいない。その力はオロチの術だからな、さあもういいだろうこっちへ来い、楽にしてやろう」
「そうか、わしがアキナのためにそれを使わせてしまったのか」
マオがそれを聞いて頭を抱えた。しかし里香は落ち着いて応えた。
「私の方も教えてあげましょう。マンジュリカーナはね、覚醒と同時に全ての呪力を使えるのよ。それを使わないのは自由だけどね。エスメラーダに使われたナツメの石を抜き取るのは、私のマナでは無理。でもこの星には闇さえ抜き取れる女神、クシナとヒメカがいる。そしてラナが」
「ラナ? ふん、死にかけた人魚に何が出来ると言うのだ、マンジュリカーナ」
「ラナ、これを持ち、ラミナとメシナに誓え、この星を守り続けると」
ミコトが切り落とされたヤマタノオロチの頭から現れたオロチの牙をラナに放った。
「そうだ、ラミナ・エスメラーダとメシナ・オロシアーナ。二人の母に誓うのだ、そしてクシナとヒメカに代わってこの星を守ってくれ!」
マオもまた、ラナにそう言った。
「馬鹿な、何故ここにオロチの牙がある」
うろたえたヤマタノオロチの耳にラナの誓いが響いた。
「ラミナ・エスメラーダ、そしてメシナ・オロシアーナ。わが二人の母に誓う。クシナ、ヒメカの意志を継ぎ、今まさにこの星を守らんとする!」
誓いとともにラナはオロチの牙を天空にまっすぐに差し上げた。オロチの牙は巨大な渦を呼び込んだ。
その渦はカムイの嵐、オーロラの鏡を呼び寄せ、シャングリラの人魚たちから再誕の力を抜き取ると、その全てを吸い込んだ。
「さあ、これを使って。この星で最高の『アクア・エメラルド』不足はないでしょう?」
ラナからそれを受け取った里香は微笑んだ。
「ミコトの寄り代になれるのは、最後の五創神、マオ。ヤマタノオロチ覚悟しなさい!」
マンジュリカーナの再誕の呪文が高らかに唱えられた。
「エスタブーラ・カムイ・リ・ミコト、カムイルーナ!(カムイの王ミコトよ、カムイの大地に産まれ変われ)」
雷鳴が轟き、ミコトとマオの二人を落雷が打った。辺りは土煙が舞い上がり薄暗くなった。やがてその煙が収まったとき、マオの強靭な身体に降臨した五創神の一人、ミコトがゆっくりとヤマタノオロチに向かって顔を向けた。それこそヤマタノオロチが唯一恐れる姿『カムイノミコト』だった。
「おのれ、ミコト。寄るな、消え去れ!」
ヤマタノオロチは一斉に溶岩弾をミコトに浴びせた。ミコトはそれを素手で左右に払いながら、寂しそうな目をした。
「何故、わしの邪魔をするのだミコト」
その問いに答えようとせずに、ミコトはその足を進め始めた。
「……この星には脆弱な生命体が溢れてしまった。ほんの刹那しか生きられない、そんなか弱い生命体が」
ミコトがさらにオロチに近づいた。
「オロチよ、創始の時代は終わったのだ」
「ミコト、それは違う。たかが数十年の命でこの星を光の溢れる星に出来ようか、あまりにも遠いそんな未来のために、わしは暗い『根の国』に向かったのではない。何者にも負けない強い生命体を創るために、われらは天界と根の国に赴きそして見守ろうとした。この産まれて間もない星の命を」
ミコトは立ち止まった。
「イオナとの約束、オロチいや兄者よ。やはりあの時、聞いていたのだな」
「ふん、遠い昔のことだ。忘れてしまった」




