アガルタ(2)
マオは半ば呆れた様にメイフに言った。
「シャングリラは正しき聖者の生気しか通さぬ、とてつもなく時間がかかるのだぞ」
「ご心配には及びません、もっと強力な生命エネルギーを集めますから、ハッハッハ」
「生きた人間の生気を使うというのか、メイフ」
「まあ、それもいいですが、人間どもでは足りないでしょう、マナトの人魚姫『エスメラーダ』に協力していただこうと思ってね」
「正気か、姫無しでこの国が収まると思うのかっ!」
それに答えるかわりに、メイフは笑いながら後ろにいた女の手を引いた。
「マオ様、私をお忘れですか?」
それはマオには見覚えのある人魚だった。
「お前は……」
「こいつもれっきとした南極の人魚姫だ、不足はあるまい」
「なるほど、この人魚姫をな…、しかし、わしをどうする。このまま黙っていると思うか」
「思うな、お前は動けない。お前のチモニーを人魚の洞窟『マナト』の真下につないだ。そいつが果たしてどのチモニーかすぐにわかるかな?」
「おのれ!」
「しかもしばらくすると五十年振りの人魚の再誕がある、マナトから三年はエスメラーダは動けない。その間に人魚の生気を集めておくのさ、念のためにな。それにさっき見せてもらったムシビトの女王も気になるしな」
「いいかメイフ、マンジュリカーナには決して手を出してはならんぞ」
「ふん、あの程度の力ならカイリュウの力の足元にも及ぶまい。まあいい、そこでおとなしくしているがいい。最古の地球生命体マオ様よ、フフフフッ」
そう言うとメイフはマオに麻酔弾を打ち込んだ。
「さあ、『キリト』よ、この兄と共にたち上がるか?」
しかしキリトは何も答えずにそのまま洞窟を出て行った。拍子抜けしてメイフが言った。
「優しい弟よ。そのうちいやでも俺たちの仲間にしてやる。さあ、魚人どもかかれっ!」
メイフは、マオの自由を奪うために手下の魚人に命じ、長大なくさりをマオにかけさせた。
やがて地上にある五つのシャングリラから、魚人が次々と現れた。モンゴル、アフリカ、アマゾン、オーストラリア、南極大陸。その国々のシャングリラから次第に生命エネルギーがマオの身体に入り始めた。マオは意識がもうろうとしていく中で、一心にマンジュリカーナに向けて念波を送っていた。それはもちろんメイフが仕掛けた罠だった、こうしておけばマオはマンジュリカーナに頼るしかない。
「さあ、マンジュリカーナ、異界からアガルタにやってこい、この俺のためにな。フフフフッ」
その闇に、数年後、人間界に着いたレムリアの女王と娘は新たな戦いに巻き込まれていく。