マーラ
「嘘よ、そんな事あるはずがない」
ダルナはそれを聞くとすぐにマナトへ向かった。そして無残なマナトと背後からヤリを構えたマーラの気配を感じたダルナはとっさに鋭いヤリを避けた。
「何をするの、マーラ。気は確か?」
「うるさい、殺してやる!」
魚人がダルナをかばうようにマーラのヤリを身体で防いだ。そしてもつれあいながら深海に消えた。
「……信じられない、マーラは七人魚のなかで唯一のエスメラーダ人魚。それがラミナ様を手にかけるなんて、それにこの私にまで」
「よほど、ラミナの裏切りがこたえたのさ。俺たちに、諦めようとした真珠を差し出し、命乞いをするなんてな。だがラミナを殺したのは俺たちではない。七人魚たちがやったんだ。自業自得さ、さあお前はどうする。お前は何のためにこれから生きて行くのだ」
ギバハチはダルナを仲間に率いれるために手の込んだ策を使う黒人魚にあらためて感心した。ラミナの裏切りを確信したダルナは、はっきりとギバハチに言った。
「私はアキナ・エスメラーダ、カルナとは切れない縁がある。カルナの真珠をあなたたちが持っている以上、ともに動きましょう」
それを聞いたギバハチは笑いをこらえるのに必死だった。
マーラがダーマに告げた真実はこうだ。
「再び牢に押し込められた私たちは、途方に暮れていました。ラミナ様は行方が分からない、たのみのダルナはイラーレスとして敵になっていた。守るべき真珠もない」
その時マーラの話しを待っていたように、マナトに近づく影があった。
「そこに彼が現れたのです」
マーラは微笑みながら紹介した。
「ラナ、ラミナはアガルタを裏切ってなどいない。それどころか、七人魚を救ったのだよ」
「あなたは?」
ラナはそう話す、影に尋ねた。
「シラト」
そのスナメリはマオに次ぐ巨体のナガスクジラ、シラトの変わり果てた姿だった。キリトはセイウチに転生されたのだが、さすがに黒人魚の力を持っても、シラトはハクジラの中でも小型のクジラ、スナメリにまでしか転生する事は出来なかったのだった。シラトはラミナがマンタに襲われた時の一部始終をこのマナトに再び舞い戻った人魚たちにこう伝えた。
「ラミナは海中でマンタに襲われて『フィン』を剥ぎ取られてしまった。それでもマンタを振り切りマナトに向かった。マナトにはラミナが再誕した場所、古いミドリアコヤガイの殻がある。ラミナは知っていた、その中にエスメラーダの産着として使われていた、古い『フィン』が残っている事を。そして、それを着けると、危険を承知で『カイリュウの笛』を吹いた。その音は七海に響き渡った。その笛に呼ばれたイルカの群れは、決死の戦いでなんとか七海の人魚を牢から救い出したのだ。ラミナは、イルカたちが七海の人魚を救ったのを確認すると、マーラにこう告げた」
「マーラ、本当の敵はオロチです。アマテラス様もクシナ様も、正しいのです。それを私たちよりもっと偉大な力を持つお方が証明して下さいます、それまで辛抱して下さい。その時にはアガルタのためにきっと私の娘も駆けつけるでしょう」
「そして……」
マーラは喉を詰まらせた。里香は何かに誘われるように散らばったミドリアコヤガイに近づき、その残骸に埋もれた古びたミドリアコヤガイをじっと見つめた。
「さすがはマンジュリカーナ様、お気付きになられましたか」
「ええ、この中にある真珠が……」
「ラミナ様です、そしてそれを今までお守りしていました」
振り返ると、里香の前にマーラを先頭に七人の人魚がいた。その後ろにはおびただしい数のイルカたちが控えていた。




