ダルナの異伝
「アマオロス様は、知的生命体として『ヒト』『キョウリュウ』『カイリュウ』の租となるべく『ミコト』『オロチ』『マオ』の男神と女神『ヒメカ』様をお産みになった。ツクヨミの産んだ女神『クシナ』はマオの妃となり、カイリュウ族を中心に海をまとめた。ミコトはヒメカを妃にし、ヒト族を治めるはずだった。オロチは、イオナの力で翼を持つ『キョウリュウ』『テンリュウ』族を産み、天と地をつなぐ役目があった。しかし、密かにイオナに心を寄せていたミコトはヒメカ様を手に掛けてしまった、怒ったオロチはミコトを亡き者にしようと立ち上がった。それを阻止しミコトに加担したのがイオナだ。オロチは『オロチの牙』として封印され、ヒメカ様は『オーロラの鏡』に封じ込まれた。ミコトもまた封印されるはずだった。しかしそれは無く『カムイの嵐』として封印されたのは、イオナの方だった。こんな事が許されるものか、ヒメカ様とオロチは間違ってはいない。しかしマオもクシナもまったく動かなかった」
マーラはそう、よどみなく話す、ダルナを見つめた。
(少し変だ、クシナ様の伝承とは違う)
そして、ダルナはこう言った。
「私はヒメカ様をこの世に復活させるため、イラーレスとなった。さあ、七人魚。もちろんメイフ様たちとともに、立ち上がるわね」
「断る、私たちはクシナ様の血を引く人魚。あなたの話しはどこかおかしい」
イラーレスの前に黒人魚が進み出た。
「ふふふっ、七人魚のマーラ、お前は勘違いしているようだわね。これは命令なの、断る事は死ぬ事と等しいのよ」
「私たちはクシナ様に従う、それが答えさ」
「じゃあ、さようなら」
黒人魚はイラーレスとともに闇に消えた。
「お前たちは、すぐには殺さない。ひょっとするとラミナが生きているかも知れんからな、しばらく生かしておいてやる」
ギバハチは七人魚を縛り上げると、海底の洞窟に閉じ込めた。マーラは他の七人魚が不安気に話すのをただ聞いていた。
「ラミナ様を襲った? まさかエスメラーダの命さえ狙ったの、メイフたちが」
ダルナのフィンをつけアガルタに向かうラミナは、海中で魚人たちに襲われた。フィンをもぎ取られたラミナは深海に沈んで行った。マンタは水圧でラミナが押し潰れる前にその場を去ったのだ。マンタの限界を超える深海へと動かなくなったラミナは深く沈んで行った。マーラたちの前で話しをしたイラーレスは、黒人魚が作った幻影だった。アガルタに戻ったダルナに黒人魚が乗り移ったのはその後の事だった。
ダルナはオロスを去り、やがてアガルタに着いた。アガルタの異変を何も知らないダルナは、ギバハチから一足先に戻ったはずのラミナの様子を尋ねた。
「それは本当なの、ラミナ様が私たちを裏切ったって言うのは」
それでもダルナはギバハチの話しを信じようとはしなかった。
「ああ、さすがの俺でも七人魚の結界は壊せない、ラミナが手引きしなければな。お陰でこの通り、カルナ様の真珠はこちらにある。マナトには何一つ残っていない、それに七人魚はラミナと相打ちだ。さすがの人魚も裏切り者は許さなかったのだろう。マーラは生き残っているがおかしくなっている。行って見るがいい、身体に気をつけてな。ダルナ……」
ギバハチは心の奥でにやりと笑った。




