創五神
「ダルナの話しを聞いていると、ヒメカは恐ろしいたくらみをするどころか、可哀想な巫女じゃないの」
リカはそう言うと目の前に広がる青い海を見回した。
「レムリアにはこんな広い海はなかった……」
「アマオロス、そしてツクヨミ様から産まれた神は偶生の神といって、お一人では不完全な神でした。荒ぶる男神に対をなすのが、ヒメカ様とクシナ様、このお二人の女神です。同じくアマテラス様も実は女神をお産みになったのです。お名前を『イオナ』様と伝え聞いております。しかし、イオナ様は偶生ではございましたが、アマテラス様と同じ無形の女神様だったのです。寄り代がなければ顕在しない女神様のため、創五神には数えられていませんが、今も天空を治められておられます」
「今もですって?」
ラナが驚いた。
「その寄り代にもなれた女神が、ヒミカ様だったのです。美しくそしてお優しかった」
「そのヒミカがどうしてメイフを操ってこの星を原始の星に戻そうとするの?」
「ラナ様、ヒミカ様はまだオロチに操られているのです。オロチはミコトとアマテラスに敗れはしましたが消滅してはいません。創五神は今の私たちの中にある心そのものです」
「愛情、勇気、憎悪、嫉妬、欲望……」
里香は独り言のようにつぶやいた。
「オロチは、イオナ様を降誕させたヒメカ様を取り込み創五神を平らげ、聖三神に変わろうとしています。アマテラス様への怨念で復活しようとしています」
「ヤマタノオロチの復活……?」
「そうです、マンジュリカーナ。オロチはヤマタノオロチとなり造化の神をも越えるつもりなのです。あなたとは違い、ヨミの力を集めて」
「ダルナ、でもヒメカもオロチも封印されているのでしょう? アマテラスの力で」
「ラナ様のお持ちのオーロラの鏡、オロチの牙、そしてカムイの嵐。この三神器を手にした女神にイオナ様が降臨されるのです。そうなればアマテラス様の封印の術でさえ自在に使えるのです。」
ベルーガの背に乗った三人は、マリアナの海で本当の敵の存在を確認したのだった。
ラナが産まれて数ヶ月後、レムリアではリカが産まれた。里香の母マンジュリカーナは長女トレニア姫を妹のアロマに預けて、まだ三歳のリカを連れて人間界へと旅立ったのだ。カブトの故郷、カムイの意志が時空を超え、不思議な力で二人を呼び寄せたのだ。
「姉さん、私が禁呪を使ったために」
マンジュリカーナは、トレニアをしっかり抱きしめるとアロマに預けた。
「トレニア、叔母さまは今日からあなたの母、あなたの先生です。この星のマナ、イオナを使い、レムリア王国を支えて行くのですよ。異界にはあなたの妹、里香もいます。いつの日か二人に繋がる子供たちが自由に二つの時空を行き来する事が出来るでしょう。アロマ、レムリアは再び美しい国になります。私はカブトに『カムイのミコト』である事をずっと伝えなかった。もし伝えていれば、きっとカブトはカムイに戻っていたことでしょう。私はカブトと離れたくなかったの。それにイオとアギトの二人は、どこかに生きている、そんな気さえするのです。ミコトの血を引く王子たちは異界のカムイの地に再誕しているかもしれません。アロマ、私はそれも確かめに行くのですよ」
再誕の禁呪は聖三神『アマテラス』が天界に産んだ唯一の女神『イオナ』の力を使う、その女神は聖三神と同じく実体のない神のため、創五神としては数えられていなかった。再誕の際、その寄り代は余計な記憶を分離する。アロマがマオとクシナの娘『アキナ』を再誕した時、クシナの記憶も分離した。そしてそれは別の人魚として産まれたのだ、再誕した人魚をエスメラーダ人魚と呼ぶ。伝承の人魚、ルシナはクシナの記憶も持ったクシナ・エスメラーダなのだ。




